第1章6節 そして動き始める
ワクイには、この現象が自然に起こったものでは無いとは思ってはいるが、これだけ食虫植物を攻撃出来る怪物は多くは居なかった。
「バチバチと言う昆虫系の怪物が居たが、まさか・・このエリアには居ない筈。だが、待てよ・・確かモンゴルからI国地下内で生息していた筈。しかし、こことは相当な距離がある筈だが・・」
その独り言は何故か、ワカナにあるヒントを与えていた。無論、ワクイがそれを感じる事は無かった。ワカナを絶対に脱出の出来ない環境下においているからだ。
しかし、ここまで超天才と言われたワクイが完璧だったのか?否だとワカナは思っていた。現世は読めない世界になっているのでは無いかと思った。その昔のAIでさえも弾き出せない行動をシンゾウは仕掛けているし、再生体のリンドウ、ケンゾウはどうだろう?全く意図したのかどうか、そんな事は置いといても全く予想を覆す方向に傾いているでは無いか、ワカナは思った。旧時代の天才ワクイには大きな弱点があるのではないか?そしてそれを知る唯一の者、いや唯二かも知れない。アマンも加えた、旧時代の英傑では無いのかと。ならば、自分の立場とはどうなのだ。あの『命の水』に何度も浸かった。そして何か心地良い気分になった。自分と言うものを意識し始めたのが何時頃かは分からないが、ワクイの声が聞こえた時から、常に限られた場所に居た。それは今も変わらないと言えばそうなるのだが、どこかその頃とこの今の場所とは違う気がした。ただ、自分の立場が分からないのである。母として過ごす自分と、ワクイの娘であると言うそれは事実なのかどうかも含めて、シンゾウ達との違い、母子とは言え、子供達との違い。そしてワクイの存在がある。それは、どうしようかと言うのだ。考えれば考える程分からなくなるワカナだった。その時、シンゾウからチャンネルが開かれた。
「ワカナ、自暴自棄になるな。きっと俺がお前を助け出す。お前は俺と、子供達を信じろ。既にお前は、I型人間なんだ。Ⅱ型じゃない。そこの違いはきっと明らかになるだろう。俺はな、お前の思念が今心に届いたんだよ。このチャンネルこそが、父シンの言う第六感だと思う。間違っていたか?俺の推察は」
「いいえ・・いいえ。その通りだった」
「じゃあ、今はとにかく静観していろ。俺はワクイに攻撃や反撃をしているんじゃないんだ。この地球の現世をとにかく確かめない事には全てが進まない。自分に負けるなよ、ワカナ。俺達が常についている事を忘れるな」
「ええ・・ええ、貴方、シンゾウ・・」
ワカナの眼に涙が光った。それをワクイは注視していたようだ。だが、声は聞こえなかった。




