第1章6節 そして動き始める
そして、そのような理由もあっただろうが、シンゾウが何故Aゾーンに戻ったかは、他の目的もあったと言う事は伏せられている。ここはオープンにしてはならないのであろう。ワクイがどこまで彼らを監視しているかは、ワカナとのチャンネルでやりとりされているのだ。両親は徹底して子供達を守ろうとしていた。
こんな数十トンになるだろう、巨体の地蛇をシンゾウ達は貪り食った。つまり、言う所の旧地球における突発性遺伝子であったにせよ、地球上の遺伝子をその体に摂りこんだ事になるのだ。これは、貴重な栄養源だとシンゾウは、シンタ、アカネ、そしてリンドウ、ケンゾウにもチャンネルで説明した。返事はしなくて良いと伝えてあった。そして留まる事を知らない食欲は、3日でその全てを5人の腹に収めたのである。また、シンゾウはこの地蛇を感車の中にデータとして納めている。何故そんな事が可能かと言えば、デマルクに飲まれた際に取得出来た能力なのだと言うから、正にシンゾウに何等かの作為を示せば、逆手に取られると言う教訓をワクイに与えたのである。
「むう・・何時の間に大蛇を?確かに地下通信路に潜む大蛇は私も数百年も前に確認をしている。すると、まだ地下に生き残っていた事になる。子孫であろうが、とても巨大な個体であるから、数十年・・いや、やはり数百年を経て生存していた事になるのだろう」
ここでもワカナは、ほくそ笑んでいた。ワクイの知らない事は、沢山あるのだとも思った。この地球にはまだまだ壊滅していない、何かがある。それはワカナも知る『生命の水』である。そこで沐浴する事で、自分の細胞そのものが変化した気がした。そして、その水中にて卵を産んだ。その卵がシンタ、アカネであった。先に誕生したのがシンタ、後から誕生したのがアカネであった。つまり、二人は兄妹と言う間柄ではあるが、受胎そのものは同時であったと言う事になる。その『生命の水』の存在は、ワクイが恐らく火星、月に逃れていた時期にシンに発見されているので、知らないであろう。これは、重要機密だと義父シンにワカナは言われていた事項だった。
ワクイは、相当ワカナにカマかけの言葉を発する。しかし、ワカナがそれに応じる事は無かった。もうシンゾウとしっかりとコンタクトをとっているからだ。信頼できるのは、絶対に自分を裏切らない夫。そして命を賭けてでも自分を助けてくれるのだ。眼の前でそれは体験もしたし、愛する子供達がそこに居る。こんな生活を願うのが何故阻止されねばならないのか、シンゾウがワクイに敵意を見せている訳でもないのに。義父シンの時代がそうであっても、もう代替わりをしているのである。そこにシンゾウを警戒し、更には排除しようとする魂胆が何なのか、ワカナには分かっていなかった。しかし、Yゾーンでまさに電光石火の地蛇捕殺は見事であったとワカナは、安心感を持ったのだった。夫は強い・・と。子供達も成長していると。




