第1章6節 そして動き始める
「例えば、今あるこの感車にて、月や火星にも行けるそうなんだが、父シンには無駄だ、行くなと言われて来た。行ってどうなるものでもないし、第一空気・・今俺達が息をしている。吸って吐く・・それが空気と言うものなんだが、月にも火星にもそれは無いと言う事だ。だから、死なないとしても、動けなくなるだろうから行ってもどうにもならないと言う事なんだよ」
「ふうん・・空気ねえ・・」
4人には当たり前にあって、目に見えないものにそう興味のある筈も無い、だが、アカネは、
「ねえ、パパリン。あのゼニゴケの生えている空洞は、とても心地良かったわ。空気って言うの?爽やかな気分になった」
「そうだ・・その事を言うために空気の話をしたんだ。皆、良く聞いておけよ、大事な話にこれからなって来るんだからな、俺はこの場所でお前達に知り得る事を殆ど教えておく。最終的にはママリンの事も連れ出したいと思う。ワクイの飛機には乗っていない筈だ。恐らくママリンを探す為には感車を使うしかない。その為には各エリアをある程度把握してなきゃならないんだよ。分かるな?」
「うん」
シンゾウが言う。
「とにかく、ワクイが父シンを警戒していたように、俺もワクイに警戒さているだろう事は良く分かる。デマルクなんかに俺が簡単に飲み込まれてしまったとシンタも思っただろうな」
「あ・・いや・・」
図星なのだが、流石にシンゾウの前ではそんな事は言えない。
「デマルクは動きがのろいんだ、基本的にはな。でも、飲み込むスピードは音速だ。つまり、俺が声を張り上げてあの時、シンタに逃げろ!と言った声が届いた速さに比例する。シンタはあの距離を近くに見えたか?」
「あ・・うん。そこにパパッチが居るように思った」
「ふふ・・実は凄く離れていたのさ。デマルクの体の倍以上ある距離にシンタは居た」
「え・・じゃあ、走ってもすぐにはパパリンの所に行けない距離って事なんだ・・」
「そうだ。あの時のシンタなら、感車に乗ってお前が知り得た時間にして10分以上走っても、俺の所にはたどり着けない。それも、あの時のお前が自力の全速力で走ってと言う話では無いんだよ」
「じゃあ・・」
「そのシンタがすぐ傍に俺が居るように見えた事と、デマルクがのろいと思った事も、全ては認識が不足している。デマルクは、あの体で音速の半分位の速さで動く。そして、吸い込むスピードは音速なんだよ。とても逃れられない距離に俺達は誘導されていた訳だ。ママリンと共にな」
「そう・・だったの・・」
シンタもアカネも真実を知る事になる。




