第1章6節 そして動き始める
「ええっ!これ・・俺?」
ケンゾウが驚く。シンゾウは、
「驚いたのは俺だ。ははは、こんなにここの水が適合するとはな、つまり、ケンゾウ、お前はワクイによって人型が作られたが、犬型は恐らく別系統だろうな」
「え・・」
やはりシンゾウが発する言葉は誰も分からない。
「さて・・俺が知る範囲でしかお前達に教えてやれないが、ここの水こそは『生命の水』と呼ばれるものだ。その昔父シンが発見した当時から、母アマンが主としてここでは進化細胞を研究していた。・・と言っても、ワクイが存在していた当時からその研究室にあった源遺伝子は同じなのだそうだ。そこから母アマンの時代には、ワクイが独自の研究を重ね、主に自分の目的の為に不老不死、或いは再生体を研究として目指した。全く方向は同じでも、その方法論が違ったのだ。母アマンは、ここに『生命の基』となる無数の遺伝子卵を移植したのだそうだ。この栄養に富む水は、それらの源生命を育みながら、その一個として俺の卵をここに放出した。そもそも父シンとアマンが子を成したのは、もう450年も前の話なんだよ。そして、俺はその子であるらしいが、もはや人類と言うかワクイも知っているが、人類には自己繁殖能力等は当時には無かったんだ。父シンが人工繁殖で生まれたし、母アマンもそうだった。母は胎内に宿した卵子をこの湖に移植したのだそうだ。人の体内では300日程で子供は育つが、ここでは450年も掛かるのだ。俺は、450年前に誕生したが、それではまだ人型ではない。プランクトンと同じく・・と言っても分からないだろうがな、その小さい生命体は、少しずつこの湖の水を体内に取り込み、そして俺がシンタと同じ位に育った時が、今から30年前になる。これは、感車による『時』に刻まれている。そして、シンタ、アカネ。お前達が俺とワカナの子であると言う事実は、10年前に、お前達はワカナがこの湖で産み落とした、大きな卵だった訳だ」




