第1章6節 そして動き始める
こちらはワクイである。
「気配が消えたな・・シンゾウ君がとても危険な人型生命体である事は、もう十分に分かったよ、ワカナ。益々君を彼に接触させる事は出来なくなった」
「・・・・」
ワカナは返答をしなかった。この気配を消すと言うシンゾウの方法があるからこそ、地下生活をこれまで守って来られたのである。
地下道は、真っ暗だった。しかし、すぐリンドウもケンゾウもその闇に慣れた。つまり順応したと言う事になる。
「適応力があるようだな、2人とも。まあ、ケンゾウに至っては鼻が利くから真っ暗闇でも平気のようだが、リンドウ、お前は夜目が利くようだね」
シンゾウは2人を観察しているようだ。まだ、信用と言うこの時代には死語であろうが、完全に血の繋がりの無い2人を許容出来る条件は揃っては居なかった。むろん、この2人に牙があったとしても、このシンゾウには瞬殺されるだろうと言う事は感じていた。再生細胞、不老不死と言うが、現実に食われる側は、食う側に吸収されてしまうと言う事だ。それは死?では無いが、その優勢側の遺伝子に組み込まれてしまう事により、消滅すると考えれば、それは死であると定義されても不思議な事では無いし、完全無欠の不死身では無いのだ。焼かれれば即ちそれは死であるし、高温に溶かされ、デマルクのような消化液による再生不可能の可能性もあるからだ。
だが・・そのシンゾウは再生したのだ。何を意味するのか・・彼は、その源を案内しようと言う事らしい。
シンタ、アカネにとっては、自分達の住まい、遊び場であった。つい、先日地下から出た程度の時間・・と言う観念があるのなら、そんな気がする程度だった。そもそも彼らの本当の年齢とは?ここも謎である。むしろ、不老不死を前提にしているのなら、そんな問い等ナンセンスでもある。ここでは必要無い言葉でもあろうが・・。
とにかく、リンドウ、ケンゾウにとっては不可思議な空間だった。迷路なんて言うものじゃない。ここへ知らずに入ったら、良く利く鼻も眼も役に立たなくなってしまうだろう。先は勿論無いし、枝状に横道や、縦、斜に通路は開いていた。そこに目印をつけるなんて発想も無かったのだから、生涯ここで過ごしても出口等に戻れるのであろうか。シンゾウがどんどんと進む。もうついて行くしか無いのだった。




