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また一日が始まる。


ただ過ごすだけの日々。


私の存在になんの意味があるのだろうか。



物心ついた頃から、私はずっと一人で暮らしている。


リィーン


幼い頃誰かにそう呼ばれていた気がする。

今は、誰からも呼ばれることはないけれど。


多分それが私の名前だと思う。


あの頃は、誰かが側にいたような気がする。いつ頃一人になってしまったのか、どうしてその誰かがいなくなってしまったのか、その辺りの記憶は曖昧だった。思い出そうとしても、頭の中にモヤがかかった感じがして、どうしても分からなかった。

まるで無理矢理忘れようとしたみたいに…

 

悲しい記憶の予感がするので、過去を振り返ることは放棄している。



 


家の周囲を見渡しても、目に入るのは木ばかり。


いったいここがどこなのかも、今日がいつなのかも分からない。


この状態で育っていたら、普通なら平静ではいられないと思う。


でも、私は、何となく自分の状況を把握している。


多分、ここは、前世で流行った乙女ゲームの世界だと思うから。


先日、どこから飛ばされてきたのか、偶然ビラのようなものを見つけた。

こんな所に珍しいこともあるなと、ふと手に取ると、文字が書かれていた。



そのビラの内容は、この国の第一王子レオナルドの婚約発表だった。


『!』


その瞬間、頭に衝撃を受けた感じがした。


色々な情報が、走馬灯のように駆け巡り、


前世の記憶を思い出した。


そうか、ここは…


キミのためにの世界。


乙女ゲームキミのために


題名の通り、ヒロインの為にとにかく周囲が尽くすというゲームだ。


ヒロインは、少し傾きかけた貴族の娘マリア。

庇護欲をかきたてるヒロインで、とにかくいい娘。


対する悪役令嬢ポジションは攻略対象の婚約者エリザベス。

父親の権力を駆使して婚約者の座に収まっていた。 

エリザベスは、甘やかされて育ったせいか、とてもわがままな令嬢だった。ヒロインを陰でいじめまくっていた。

事あるごとに、マリア嬢を罵倒し、取り巻きと思われる令嬢達と嫌がらせを繰り返していた。


ところが、偶然その現場を攻略対象に目撃されて、今までの悪事が露見することとなり、あっさりと婚約破棄される。そして、めでたくヒロインとヒーローは結婚する、というストーリーだ。


そのゲームの中で、王道のレオナルドルートで、マリア嬢は、婚約中にお忍びデートをしていた。

途中、王子とはぐれてしまい、マリア嬢

は森に迷い込むことになる。



その森の中で、マリア嬢は、ひっそりと佇む古びた家を発見する。


そこには、理由も分からず、ずっと軟禁されている娘がいた。優しいマリア嬢はその娘の境遇を嘆き、彼女を何とか助けたいと思っていた。


ちょうどそこへマリア嬢を必死に捜す王子が辿り着く。

マリア嬢の無事な姿に安心した王子は、マリア嬢の願いを聞き入れて、軟禁された娘を解放することに尽力した。


王子はマリア嬢の優しさにますます惹かれた。マリア嬢も、軟禁された娘を解放すべく力を尽くす王子に、ますます惹かれた。


二人の距離が近づくエピソードだった。


ただ、軟禁の理由が分からないとか雑な設定…


と思わず笑った事を覚えている。


特に気にも留めていなかったけれど。


この軟禁されている娘というのが、今の私だと思う。


よりによって、詳しい説明のない脇役に転生してしまうなんて…。



でも、きっと、もうすぐヒロインがやってくるはず。


自由までもう少し。







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