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初めての戦闘

 今日もいい天気だ。空は青く、心地いい風が吹いている。


 和樹は食材の安定化のために小屋のすぐ横に芋畑と野菜畑を作ることにした。クワはホーリーが持ってきてくれた。土を耕し芋から育てた苗を植える。芋を直接植えるより苗から育てたほうが良かったと記憶している。隣には小松菜とほうれん草を合わせた味がする葉野菜を見つけて植えた。まだ小さな苗だけど数か月で大きくなるだろう。それを期待して大切に育てようと思う。


「手間がかかるし一人分の畑が限界だ」


 和樹は出来たばかりの小さな畑を眺めながらつぶやく。

 ユニベルとホーリーは食事を必要としない。和樹一人分なのでメロの実と芋があればしばらくは持つだろう。


 一休みしていたらシャベルを持ったホーリーが裏門に向かうのを見かけたので声をかける。城の外側をよく見たかったので案内してもらういい機会だと思ったのだ。


「ホーリーちょっと待ってよ!」


 ホーリーが和樹を振り返って見るが特に気にせずにそのまま裏門に進んでいく。


「剣って持ち歩くの慣れていないから邪魔だな」


 和樹はユニベルから外に出るときは装備を忘れないように忠告されていた。持ちなれない剣を装備しながら走りホーリーが裏門を抜けたところで追いついた。

 ホーリーが城の周りの木立を抜けながら城壁を点検して崩れた部分を見つけて岩と土で塞ぎ始めた。和樹は居候になっているのを思い出し手伝うことにする。作業しながらホーリーが持つ岩がかなり大きいのに和樹は気づく、ホーリーって怪力なのかなと……。


 その時、ギガントアントが現れた。赤い複眼、真っ黒な外殻、体長は1メートルぐらい。警戒するように首をゆっくりと振りながら大きな顎をかみ合わせてカチカチと音を立てている


「うわっ⁈ 出た」


 驚いた和樹を狙いギガントアントが強力な顎で噛みついてくるが、ホーリーが和樹を庇いギガントアントを殴り倒す。


「気ヲツケル!」


 次々に草むらから現れるギガントアント。ホーリーが前に出て戦う。ホーリーを囲んでいる以外のギガントアントが和樹に向かってくる。和樹が剣で胸部を斬りつけるが硬い外骨格に弾かれ手がじーんと痺れる。


「うわっ。硬い! まるで岩だな」


 和樹は柔らかそうなギガントアントの首と胸の接合部を狙って剣を突き出す。うまく切っ先が結合部を貫きギガントアントは倒れる。


「やった!」


 続けて二匹目を倒したところで息が切れた和樹が剣を下に向けて立ち止まってしまう。


「ダメ。油断シナイ!」


 ホーリーが和樹に注意を促すために声をかけ、後ろから襲ってきたギガントアントをホーリーが蹴り飛ばす。和樹が二匹倒している間に他のギガントアントはホーリーがすべて倒していた。


 座り込んで和樹が呼吸を整えているとユニベルがやって来た。


「ギガントアントが現れたのですか、珍しいですね」

「そうなんだ?」

「ええ。ギガントアントはあまり城の近くには出現しないのですが」

「フシギ」

「最近、岩喰いが城の壁を齧るのでホーリーが見つけるたびに補修しているのです。もしかしたら岩喰いに付いてきたのでしょうか。ギガントアントは岩喰いの掘った穴を利用して巣を作ることがあるのですが、ここに巣を作られると面倒ですね」


 ユニベルが困った顔をしてため息をつく。


「岩喰い?」

「ええ。岩を齧る獣で岩を齧る以外、そんなに危険な獣ではないのですけど城の石工たちから嫌われていました」


 和樹は勝手にモグラみたいな動物を想像してしまう。


「岩喰いはどんな獣なんですか?」

「草食で岩を齧りあちこちに穴を掘ります。あまり攻撃的ではありませんが機嫌が悪いとたまに噛みついてきます」

「噛みつくんですか?」

「そうですね。特に繁殖期には気が荒くなりますから」


 和樹は確か奈良の鹿も繁殖期には気が荒くなって威嚇したり角で突かれたりするので近づかないように言われていたのを思い出す。


「でも普段はおとなしくて新入りの兵士でも簡単に追い払っていましたよ」


 ユニベルは微笑みながら答えた。


「なるほど……」


 和樹はユニベルの言葉に岩喰いのことをあまり大したことのない獣だと思ってしまう。


 ユニベルが真面目な顔で和樹に尋ねる。


「あれから薪に火は点きましたか?」

「すいません。まだです」


 和樹は首を振る。


「ダメですか」


 ユニベルが申し訳なさそうな顔をする。


「でも練習用の魔道具はかなり明るく光るようになってきましたよ」


 和樹はユニベルを励ますように答える。


「うまくできないのは私の教え方が悪いのでしょうか」

「そんなことないよ! もう少し練習すれば出来る気がする」


 和樹が何の根拠もなく明るく答えるがユニベルはますます申し訳なさそうに顔を曇らせる。


「そうなのでしょうか」

「大丈夫。大丈夫」


 ユニベルと話している間にホーリーが壁の補修を終え「モドル」そう言ってさっさと帰り始める。その後を和樹とユニベルが追いかけていく。


「小屋から近いので気が付くように注意しておくね」と二人に言って小屋のところで別れた。


 和樹は岩喰いは弱そうだから自分でも追い払えるだろうと考えていた。後で考えたらかなり大きな穴を岩喰いがあけていたことを思い出すことになる。

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