古城内覧会
次の日、ユニベルとホーリーに城の中を案内してもらった。
「ここは玉座の間です」
「ソウ」
和樹は大きく重厚な扉を押し開けた。窓のステンドグラス、壁のタペストリーは思ったより綺麗に残っていた。タペストリーには400年前のスリロス城とその周囲の街が描いてあるとユニベルが説明してくれた。近寄ってみると街と描かれた小さな人々からはその当時の暮らしが感じ取れるようだった。
部屋の両サイドには異世界の神話の神々、歴代の王たちの彫像が並び、正面奥の突きあたりには重そうな巨大な椅子が置かれている。
「昔は廷臣や召使いたちが大勢いたのです」
「ソウ」
和樹は400年間も閉ざされていたのかと不思議な気持ちになる。
玉座の間から中庭を通り屋根付きの廊下を通り抜ける。城の中には建物に囲まれた中庭が幾つもあり、そこにも色んな植物が生えていた。あとで食べられる実がないか調べに来よう。
長く続く通路を抜け進んでいくと長い年月放置された雰囲気の場所から次第に手入れされ整った場所に変化していく。ここからは侵入者を避けるための魔法がかかっていて許可された者でないと迷ってたどり着かず、侵入者はこの城は廃墟でめぼしいものは何もないと認識して探索を諦めるそうだ。
そして上層階のユニベルの部屋へとやってきた。隣の小部屋はホーリーの部屋だそうだ。ホーリーが毎日掃除をしているので清潔で綺麗な状態だった。
天涯付きのベッドに古い机と椅子、机の上には数冊の本が置いてある。和樹が表紙を眺めると真魔獣大全、魔法具解析法などと読める。知らない字だけど読める。これはメルキュリロワの記憶なのかなと和樹は考える。それにしても並んでいる本の数が多いユニベルはかなりの読書家なのかと和樹は並んだ本を見て思う。壁際の長いテーブルには用途のわからない不思議な形をした装置が置いてあり、色とりどりの瓶が並んでいる。横の透明な水晶の玉の奥では微かな光が揺らめいていた。
和樹はテーブルにユニベルと向かい合って座る。白いローブに身を包んだユニベルに見つめられると現実感がなく落ち着かない。純真で清廉な瞳と目が合うとドキドキしてしまう。
ホーリーがハーブティーを淹れてくれた。
「オ茶ヲドウゾ」
「ありがとう。いただきます」
和樹は恐縮しながらハーブティーのカップを受け取る。
「美味しい!」
ハーブティーの葉はホーリーが採ってくるとユニベルが教えてくれた。ホーリーは水分を摂るみたいだ。和樹はホーリーにハーブティーの葉の採れる場所を教えてもらおうと考える。ずっと水しか飲んでいなかったからお茶を飲めることは大変ありがたい。
ユニベルの部屋の窓からは大森林が見渡せる。
「ここから見える森は400年前はすべて王都の街だったのです」
今は見渡す限り深い森が広がっている。森から霧のようなものが立ち上っているのが見える。森の遥か向うには驚くほど標高の高い山々が連なっていた。
「凄いな! こんな景色は見たことがない」
絶景を見とれて呆然としている和樹にユニベルが説明してくれる。
「あの山々は黒竜山脈と言って黒竜が住んでいるのですよ」
「竜かあ。見たいけど、会いたくはないな」
和樹は違う世界に来たのだと実感がわいてくる。
壁にはユニベルの肖像画が掛けられている。ユニベルは王女だったそうだ。
「それはずっと昔のことです」
ユニベルは少し寂しそうに答えた。
ユニベルに城にしばらく滞在する許可をもらました。それと城からあまり離れないようにと注意されました。和樹の力では城を覆っている隠蔽と忌避の魔法が拒否しないぐらい弱い魔獣でも危険だと。城の周囲の自然環境維持のために危険度の低い虫や動物は見過ごすようになっているそうだ、それでも今の和樹様では危ないですとユニベルに真顔で忠告された。
ただしユニベルとホーリーの目が届く距離であれば注意しながらであれば活動していいですよと……。即死でなければ治療魔法で何とかなりますからと笑顔で言われた。
ユニベルから向かいの部屋を和樹様が自由に使ってくださいと言われたが、水場が近い方がいいので小屋を使わせてもらいますと答えた。なんだか自分でも思うがユニベルの部屋に来てからずっと挙動と言動が不審だったと思う。少し警戒されるかもしれない。
ゴーストとリビングデッドでもあんな美少女が向かいの部屋にいると考えたら落ち着かない。それに大きい城なので本当に水場からも遠いし。夜中にトイレに行くのも大変だ。
それに夜にユニベルとホーリーを見ると、まだ少しビビる和樹だった。