城の中を探検
日が出てきて目が覚めた。小屋から出て泉へ行き顔を洗って水を飲む。
「あー、美味い! いい水だな」
小屋に戻り朝食に昨日採った赤い実を食べる。
「うん、いける! 林檎に近い味だな」
和樹は二つ目の実をかじりながら考える。
「次の目標は建物の中の探索だな」
改めてみる長い年月を経た城は不気味な威容を放っている。昨日は覗くだけでやめた城内へ生活に使えるものを探しに行く。中はあまり荒れている感じはしない。しかし静まりかえった奥の方は暗いし不気味。壁にはこの世界の神話か伝説であろう人物たちの彫刻が施されている。
「怖! 彫刻がリアルすぎ、全部こっち見ている気がする」
和樹はびびりながら薄暗い奥へと進んで行く。
そういえば、昨日の夜に夜目が利くようなり更に遠くまで見えるようになったと感じた。この世界に飛ばされるときメルキュリロワが体を再構成して記憶と力があると言っていたのを思い出す。コンタクトレンズをしていないけどちゃんと見える。近視と乱視が治ったのなら、それはそれでラッキーと思ってしまった。
進めば進むほど暗くなっていく通路を慎重に進む。大きな部屋を見つけたので入ってみる。石造りの台の上に鍋と皿、そして床に落ちている小ぶりなナイフを見つける。ここは多分、城の調理場だったのだろう。壁際の棚には他にもいろんな食器があった。
「鍋ってヘルメットみたいにかぶれるかも」
和樹がいいことを思いついたと満足げな顔をする。
そして頭には錆びた鍋、右手にはナイフ、左手に盾の代わりの錆びた鍋蓋を装備して和樹はさっきより大胆になり他の場所を探索しに向かう。
かなり城の奥まで入り込んだのだろうか壁面は装飾のないごつごつした石の壁になっている。大きな部屋や小さな部屋を見て回るが使えそうなものは見つからなかった。
「城なんだから使える武器や防具はないのかよ」
和樹は森で遭遇した獣に対抗できるような物を何とか見つけたかった。
地下に降りる階段を見つけたが中世の地下牢のイメージが浮かんできて降りていくのは止めておく。多分、ここより更に暗い、狭い、怖いの三拍子が揃った所なのだろうと想像して和樹は怯えた表情になる。あきらめて小屋に戻ろうと振り返ると、一瞬チラッと廊下に動く影を見かけた。
「なっ! なんだ? 人か?」
すぐ影を追いかけるが廊下には誰もいない。人の影のように感じたが、廊下の埃にも自分の足跡しかない。
ある考えが頭に浮かぶ。「いや。いや。それはないわ」不意に首筋に寒気を感じてちょっと震える。いや。いや。俺、霊感ないからと否定して小屋に戻ることにする。
和樹は手に入れたナイフで赤い実を剥きながら食糧の確保のことを考えていた。見つけた赤い実は一食に一個食べていけば一週間は持ちそうな数はあった。しかし、この城で我慢して待ち続けたら誰か人が通りがかってくれるかは疑問が残る。このまま長い間サバイバル生活を続けなければならないなら追加の食材を見つけなければいけないだろう。いずれ危険を避けながら城の奥と城の外側を更に調べなければならないと思う。
城を探索して三日たった。ツタを紐にして鍋のヘルメットと鍋蓋の盾を体に固定して城の探索を続けていた。城の外壁より内側の庭は、ほぼ調べつくした。小さな池を一つ見つけたが魚はいなかった、思ったより水がきれいだったので川を探して魚を取ってきて飼えばいつでも魚を食べることができると思う。
「この世界には魚はいるのかな。それに海竜とか三葉虫みたいなのばかりだったらどうしよう」
和樹は嫌な想像を振り切るように探索に集中しようと別の場所へと移動する。それから池の近くの草むらで芋を見つけた。これも見た瞬間食べられるとわかった。赤い実の木も追加で2本見つけた、実は少なかったが数が増えたことに安心する。
居城の探索。あれから行っていない。何故なら心霊系は苦手だから、しかしあれから誰かに見られている気がする。
困った、気になって仕方がない。これが怖いもの見たさというものかなと考えるが「いや、いや。それはないわ」と即座に否定する。
日が落ちて暗くなってきたので見つけた芋を夕食に煮て食べることにする。しかし毎回、火を点けるのに苦労する。沸いた鍋に芋と小松菜みたいな草を入れて味見してみる。
「不味くはないけど味がない。星ひとつ!」つい叫んでしまった。
「クスッ」と笑われた気がして振り返る。
「出た⁉」
後ろに女の人がいた。しかも宙に浮いて、そして目が合った。
「うわあ⁉」
向こうも驚いているようだ。
「見えるんですね!」
女の人が微笑みながら近づいてくる。和樹は恐怖のあまり走って逃げようとしたが草で滑って転ぶ。
「わっ⁉」
起き上がろうとするが体が思うように動かない。転んでバタバタもがいている和樹のすぐ傍にきた女の人が口を開く。
「あのう」
まずい、話しかけてきた。
「はい」しまった⁈返事してしまった。
「塩ならありますよ」
「へえ⁉ どこに?」
「お城の調理場に」
「ああ、そうなんですか」
「ええ」
なにか間抜けな会話をしてしまった気がする。そして話が通じている?
和樹の頭がパニックっている。
「こっちですよ」と宙に浮かんだ女の子が笑顔で手招きしている。
連れていってもらいました。そして調理場で塩見つけました。
「ありがとう! これで味のない食事から卒業できる!」
感謝する和樹の言葉に照れながらにこりと微笑んで和樹を見つめる美少女。
彼女の名前、ユニベルだそうです。
やっぱりゴーストみたいです。でも平気でした。普通に会話しています。
それと後ろが透けて見えるのは無視することに……。