空冥界
和樹が目を開けると周囲は真っ暗な空間。横になって空中に浮かんでいた。
「ここは?」
「気が付いたようだね」
話しかけられた方向に目を向ける。人の輪郭をした白い光が話しかけてくる。
「えっ。俺、死んだの……神様?」
「君の質問に答えると私はメルキュリロワ。神ではないよ、君はまだ死んではいないが、このままでは死んでしまうだろう」
和樹は声に逆らうように体を動かそうとするがピクリともしない。
「君の体の損傷はひどい、だが心配しないでもらいたい」
「損傷? 死ぬ?」
「私と黒竜のグリーディの諍いに巻き込んでしまったね」
和樹はメルキュリロワの話に困惑する。
「黒竜のグリーディ? 諍い?」
「お詫びに君の体を修復するよ。幸い君は人族だし、私はちょうど人族のアヴァターを持っている」
「人族? 族?」
「そう。私のアヴァターを触媒にして君の肉体を再構成する」
「再構成?」
「では、始めよう」
メルキュリロワが強く輝きだし二つに分かれる。その一つの輝きが消えていき人の姿に変わる。
現れた人型は銀色の髪に銀色の瞳、年齢は和樹と同じぐらいに見える。和樹の真上に移動した人型は銀色に溶解し雨のように降りかかる。
驚いた和樹が動こうと力を体に入れるがやはりピクリともしない。降りかかる銀色の液体は和樹の体に吸収され消える。
「ちょっと!」
和樹が声を上げて抵抗しようと体に力を入れる。すると急に体が動き勢い余ってくるくると回転する
「うわー!!!」
「落ち着きたまえ、もう終わったから」
和樹はその声を聞き、自分の手や足を動かす。
「……動く⁈」
「ここは空冥界、多次元世界の狭間。ここには結界を張っていても長く存在することは出来ない」
「えっ?」
「君を解析して再構成したときに君の記憶も見せてもらった。これから君を送るところは、私が送れる世界の中では君が暮らしている世界に近いと思う」
「……」
「私はグリーディを追わねばならないので、今は君の世界を探しだして帰してあげる時間がない。そこは私も知っている場所なのでグリーディを捕まえたら君を迎えに行く。それまで待っていてほしい」
そして光の手が伸びてきて和樹の体を押し飛ばす。
「えー!」
和樹の体がすごい勢いで飛ばされメルキュリロワの声が聞こえてくる。
「アヴァターとの完全な融合には少し時間がかかるけど、融合化が進めばアヴァターの記憶と力が使えるようになる。アヴァターが天眼を持っているから知らないモノでも食べられるかダメか解るから便利だよ。それに言葉も理解できるようになっているから。安心して暮らしていけると思う。だから待っていてほしい」
「安心してってどのくらい?」和樹が声を上げると。
「君を送る世界が空冥界にまた接近する時までかな。でも君の時間の単位でいうと10年ぐらい、それで戻れると思う」
「はあ、聞いてないよ!」
真っ暗な空間の中を墜落するように落ちていき和樹は意識を失う。