第66話 悪役令嬢は町人Sにおしおきされる
私はそれからも、しばらく、衰弱が続いた。
生命の水を使って、完全に回復したはずなのに、忘却でラクになったはずなのに、心労がたたってか、何度も高熱を出しては倒れての繰り返し。
その間も、ずっと、サイファがついていてくれた。
「サイファ様、どうして――? 穢され尽くしたあげく、私はこの手を血に染めた、みんなに石を投げられる魔女だよ。傍にいたら、サイファ様も悪く言われて傷つけられるよ。それなのに、どうして、見捨てないの? サイファ様、私の傍にいたら、幸せになれないよ……」
やわらかく煮込んだミルクパンをスプーンですくって、私に食べさせてくれていたサイファが、じっと、私を見詰めた。
「わからないの?」
ミルクパンを口に含んだサイファが、私に口移しにしてきたの。
私、心臓が止まるかと思った。
「…あ……」
二口、三口、そうして口移しにされて。
いつの間にかあふれた涙が、ぱたぱた、床に落ちた。
「いやなら、言って」
耳まで紅潮させた私が何も言えずにいたら、サイファがもう一口、口移しにしてきた。
飲み込んだ後、自分でも驚くくらい、甘い声が出たの。
「こうした方が食べられる?」
「……」
なんて、答えたらいいの。
真っ赤になってうつむいた私に、サイファがもう一口、口移しにしてきた。
「いつまでも、僕を心配させてる、おしおきだからね、デゼル?」
「えっ……あ、あぁっ!」
サイファに首筋を吸われて、すごく甘い悲鳴が出て、恥ずかしくて真っ赤になる私を、サイファが笑うのよ。
「可愛い」
「…っ……」
どうしよう、嬉しい。
「デゼルには、僕が幸せじゃないように見えるの? 今、デゼルが可愛くて、とっても、幸せなんだけどな?」
「……っ!!」
サイファはなんで、私のなだめ方を知っているの。
「一緒にいようね」
何にも言えずに、こくんとうなずいたら、嬉しくて、また、涙が落ちた。
「熱が下がらなかったら、明日も、おしおきに口移しするから。元気になって」
そんなこと言われたら、熱が上がりそうなのよ。
「サイファ様、私……」
「なに?」
「私、サイファ様のことが好きでもいい……? ずっと、好きでもいい……?」
嬉しそうに笑ったサイファが、私と額をあわせて言った。
「うん、僕も」
サイファが優しくて、私に優しすぎて、涙が止まらないの。
私を寝台に横たえたサイファが、横顔に、耳元に、優しいキスをしてくれて。
「啼いて」
えっ!?
私のネグリジェの紐を解いたサイファが、左手で私の右手を寝台に縫いつけて、首のつけねのあたりから胸元にかけてキスを降らせた。
「あっ…! …あぁっ……!」
どうして、サイファにされるとこんな甘い声が出るの!?
恥ずかしいのよ。
サイファったら、クスクス笑ってるし。
「熱が上がるからここまでね」
サイファのいじわる、もう上がったもん!
「大丈夫だよ、デゼル。もう、怖い夢はみない。ずっと、僕にされたことだけ、考えていて」
「~!」
サイファって、やっぱり、隠れSよね?
からだの内にも外にも、いつまでも、サイファの優しい感触が残って、ほんとに、サイファのことしか考えられないまま、私はすうっと眠りに落ちたの。






