第59話 町人Sは災禍の女神にお帰りを願う
「デ…ゼルを……」
声も身体も震えて、涙がとめどなく頬を流れ落ちた。
「デゼル、やめて」
サイファが立ち上がれずにいた私を、高い高いしてあやすみたいに抱き上げて、驚かせた後、真っ直ぐに私の瞳を見詰めたの。
「災禍の神に服従するデゼルなんて、僕は見たくない。僕はデゼルに生きていて欲しいし、僕も生きていたい。だけど、僕が傍にいてもデゼルの救いになれないのなら、僕が傍にいてもデゼルが死にたいのなら、そうして、いいんだよ。だから、泣かないで。僕は、デゼルの闇主のままでいい。解放して欲しいなんて、僕は、思っていないんだ」
「サイファ…様……」
「ねぇ、デゼルは誰に従うの? 僕? 女神エリス?」
「……デゼルは……サイファ様に……従います……」
「ありがとう。じゃあ、エリス様にはお帰り頂こうね?」
サイファがそう言って、まるで、「かえっちゃやだ」って泣くティニーをなだめる時みたいな優しさで笑ったの。
ガタガタ震える私を、ぎゅっと、抱き締めてくれたの。
何にも怖くないんだよって、私の耳元に囁いてくれながら。
「お帰り下さい、女神エリス」
「……あら、本当に、解放されなくていいのかしら? デゼルは孕まされているわよ? 闇主たちの汚らわしいものを、ごくごく飲まされて、一糸まとわぬ姿で絡み合って、まさぐられて、なめまわされたのよ? 何十人もの闇主たちと、何度も、何度も、交わったの。とっても、甘い声で啼き続けてた」
私がまた、身体をガタガタ震わせると、サイファもまた、私をぎゅっと抱き締めてくれた。
どうして……?
サイファはどうして、それでもまだ、私を宝物みたいに抱き締めてくれるの……?
サイファの胸が優しいの。私を忌み嫌っていないの。
「デゼル、本当にいいのかしら? このあたしが呪いをかけてあげたから、死ぬまで終わらない。眠る度に夢を見る、マワされて気持ちよかった夢を。とても、素敵な呪いよね? あなたの命、あと何日、もつかしら。あたしを追い返せば災禍も戻る。サイファの腕の中では死ねないわよ?」
「…っ……」
「デゼル、僕はもう、デゼルを一人にしない。僕のために犠牲になるのはもうやめて。何があっても、最後まで一緒にいよう? デゼルが望むなら、僕の腕の中で死ねるよ。大丈夫、僕は、デゼルの傍にいるから」
「サイファ…様……」
「――お帰り下さい、女神エリス」
「チッ」
舌打ちしたエリス様の青い瞳が、邪悪な燐光を帯びたの。
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SPを1消費し、災禍【Lv2】になりました。二人の他人を犠牲に自分を助けます。
SPを1消費し、災禍【Lv3】になりました。三人の他人を犠牲にあらゆる傷病を癒します。
SPを1消費し、災禍【Lv4】になりました。四人の他人を犠牲にあらゆる魔法と神与の一般スキルを跳ね返す衣を四時間まといます。
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「約束が違う! 逃げて、サイファ様!」
違う、サイファを逃がすより、私が空間跳躍した方がはやい!
「時空【Lv2】――目標、スノウフェザー」
「デゼル!」
いつかみたいに目標が変更されることはなく、私の空間跳躍は成功したの。
だけど、エリス様も追ってきていて、すぐ目の前にいたの。
「後悔させてあげるわよ、デゼル。まずは、もう一度、災禍の首飾りをかけてあげましょうね? 今度は、十日で許してあげたりしない。グノースより、もっと、悲惨な場所を探してあげるわ。死ぬまで、悪い男達にマワされ続けなさいよ。それでサイファも死ぬわね。さっき、あたしにちゃあんと、サイファを闇主から解放して下さいって、お願いすればよかったわねぇ?」
「やめて! お願い、もうやめて!」
「おしおきよ、デゼル? あなたはもう、悪い男達にマワされるだけ。サイファには二度と、死ぬまで会わせてあげない。マワされるのは好きでしょ? あなたが生きている間は、サイファも生きていられる。サイファのために、好きなだけ我慢して、悪い男達を悦ばせていいわよ?」
「いや、やめて、助けて! サイファ、サイファ――!!」
エリス様が冷酷に笑いながら、私にかけようとした災禍の首飾りが、その前に、聖なる光にのまれて消滅したの。






