第57話 悪役令嬢は災禍の女神の怒りを買う
その夜、私は悪夢を見たの。
悪夢なんて、もう毎晩だったけど。
身も心も穢されて、手を血に染めた私が、たくさんの人に追われて、追い詰められて殺される夢。
みんなが私をあざ笑ってた。
みんなが私に魔女だって石を投げた。
老若男女を問わず、たくさんの人が私を火あぶりにして殺そうって、追いかけてきた。
近づけば、私が受ける迫害に巻き込まれて、サイファまでが、たくさんの人に罵詈雑言を浴びせかけられて、石を投げられた。
サイファの心が、身体が血に染まる。
――やめて、サイファは悪くないのよ!
サイファを庇おうとした私をサイファが庇う。
私を庇ったサイファの血で、私の手が、視界が血に染まる。
――お願い、もう、やめて!!
苦しい。うまく息ができない。
涙で霞んで前が見えない。
お願いよ、殺すなら、私を殺して。サイファに酷いことをしないで!
「夢だと思っているの?」
「エリス様……」
闇の中、風に髪をたなびかせたエリス様が私を見た。
「これは、これから起きること。夢なんかじゃないのよ? 起きなかった戦争が起きる予定だったことなんて、あなたと神々しか知らない。あなたに守られた人々の誰も、あなたに感謝なんてしないのよ? だって、あなたに守られたことを知らないんだもの。戦争は『起こして』『勝たなきゃ』富も名誉も何ひとつ、あなたのものにはならないの。せっかくの神々からの祝福も、宝の持ち腐れじゃないの」
殺戮の女神でもあるエリス様が冷たく笑った。
「だけど、あなたがマワされたことはみ~んな知ってる。あなたが、帝国兵の犠牲を抑えるために、闇主たちを使ってしまったからよ。頭の悪いコねぇ、デゼル。そんな真似をしたらどうなるか、想像がつかなかった? あなたはもちろん、サイファだって笑い者よ? みんながサイファに石を投げるわ、楽しそうに嘲笑しながら、情け容赦なくね! 人ってそういうものよ? あなたが守ったのは、そういう連中なの」
知ってる。
だから、レーテー様の祝福が必要なの。
サイファを守るためには、もう、サイファを闇主から解放して、私が死ぬしかないの。
「水神の力で、押し流してしまいなさいよ。彼らを醜いと思わない? ノアの大洪水を起こして、押し流してしまいなさいよ」
私は微笑んで、首を横にふったの。
大丈夫よ、私が死ねば、誰も、醜くならない。
サイファにどんな酷いこともしない。
サイファは可愛いの。素敵なの。私が傍にいなければモテるの。
サイファに夢中になってた女の子達のことを思い出したら、涙が零れた。
とられたくないよ。
でも、とってもらえば、サイファは私じゃない、優しくて可愛い女の子と、幸せになれるもの。
ガゼルがきっと、サイファを守ってくれるもの。
私が死ねば、いいの。
「デゼル!」
「エリス様、私は悪役令嬢デゼルです」
「!?」
「最初から、悪役として死ぬために、この世界に存在しています」
「あなた、何を言っているのよ!」
サイファの傍で過ごせた三年間、楽しかったな。
みんな、優しかった。
ガゼルが必ず、みんなを幸せにしてくれるもの。
「エリス様」
「――なによ」
私は微笑んで、エリス様を見たの。
「サイファ様とガゼル様を守る方法を教えて下さったこと、ありがとうございました」
完全攻略ガイドで調べたの。
エリス様が教えて下さったことは、すべて、本当だった。
闇巫女が死ぬと闇主も死んでしまうと知らなかったのも、月齢の首飾りの効果を知らなかったのも、私の致命的なミスだったのよ。
エリス様が教えて下さらなかったら、私きっと、サイファもガゼルも殺してしまっていた。
災いの神様でも、嘘はひとつも、つかれていなかった。
「デゼル、あなた……! 神に向かって……!!」
驚いて、私はエリス様を見た。
どうして、お怒りになるの!?
私、怒らせるつもりじゃないのよ。
「いいわ、サイファに会わせてあげる。あたしは災禍の神だけど、神は神。サイファを闇主から解放する力くらいあるわよ? あなたがあたしの言う通りにしたら、サイファを解放してあげる。目が覚めるのを、楽しみにしていなさいね?」
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闇巫女デゼルの災禍がリセットされ、災禍【Lv1】に戻りました。
※ 災禍の女神エリスの承認により与えられたSPは、災禍のレベルアップにしか使えません。
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――嘘、これは夢なの!?
サイファに会えるの!? エリス様が、サイファを助けて下さるの!?
「そうね、ガゼルとサイファのうち、一人は先に闇主から解放してあげる。どちらを解放して欲しい?」
私は夢が覚めてしまうことに恐怖しながら、答えたの。
「ガゼルを」






