【Side】 主神 ~たとえ神様がどんなに残酷でも~
「――どういうことなの!」
エリスがだいぶ、焦った様子で叫んだ。
「なにが?」
「なんであの子は、この期に及んでガゼルとサイファのことしか頭にないのよ!」
残念だったね、エリス。
どんなに苛んだって、デゼルを殺すことはできても、あの子の魂を穢すことはできない。
だいぶ復調したレーテーが、「あと二日だからね! 頑張れデゼル!」って、握りこぶしで応援してる。
「どういうもこういうも、デゼルは最初からそうじゃないか」
「……! いいわよ、頭が悪くてわからないなら、あたしが丁寧に教えてあげる。あの子が守ろうとしてる連中が、どれほど醜悪で自分勝手なゴミクズか、彼らの命を救ってあげた、お優し~いあの子に何をする連中なのかをね!」
「どうぞ」
そんなこと教えてあげても、無駄だと思うけどね。
あの子は知っているんだ。
エリス、あの子は誰より賢い子なんだよ? 叡智を司るメティスの承認を最初にもらったくらいにね。
「それにしても、致命的なミスを犯したものじゃないか。どうして、グノースの山賊を討伐しておくべきだったなんて、デゼルに痛恨の攻略ミスを指摘したのかな?」
「!? デゼルのミスよ、あたしのミスじゃない」
そうさ。
エリスが指摘した通り、そうしておけば、エリスといえどもデゼルの闇落ちイベントを強行することはできなかったんだ。
公国の滅亡が阻止され、グノースの山賊も一網打尽に処断されていれば、デゼルの闇落ちイベントはキャンセルで確定するはずだった。
乙女ゲームを始まる前に終わらせる、デゼルの目標は不可能ではなく、完全攻略ルートは存在していた。
失敗してしまったけどね。
デゼルが怖かったのは当たり前なんだ。
デゼルの姿でいる時に口を塞がれれば、魔法も神与のスキルも使えない。
たやすく、ガゼルに陵辱されてしまったようにね。
あの子はそこまで無敵じゃないし、眠り薬なんかの古典的な手段でも、どうとでもされてしまうんだ。
十歳の少女であるデゼルが恐怖のあまり、グノースに近づきたくない、だけで考えるのをやめてしまったのは、仕方のないことなんだ。
あの子は他人に命を懸けさせることに慣れていないしね。
ガゼルに頼んで討伐隊を派遣してもらうって、まっとうな正攻法だけど、討伐隊からふつうに犠牲者が出るんだよ。
だからこそ。
「エリス、そもそも何のためにデゼルを苦しめているのか思い出してみたら?」
エリスの表情が強張った。
「君の指摘を真に受けたデゼルの中で、この絶望は因果応報になってしまった。デゼルが遭わされたような目に、グノースの村人達も遭わされてきたに違いないのに、あの子は、村人達の絶望を認識できなかった。あの子の中では、もう、神様があの子を助けてくれないことと、あの子が村人達を助けてあげなかったことには違いがないんだ」
エリスはね、あわよくばデゼルにノアの大洪水を引き起こさせたくてやっているんだけど、それが無理でも、とにかく私を憎ませたいんだ。
悪役令嬢に転生させた私をうらませたくてやっているんだ。
「そんな、馬鹿なことッ! 人間なんてダブルスタンダードなものよッ! 自分がモブを助けなくても、神様は神様なんだから、何の罪もない自分を助けてくれるべきだって、都合のいい考えで信じてるバカばかりじゃないッ!」
「つまり、デゼルは違うって見極められなかったわけだね。もちろん、君が言うような人間も多いけれどね。そういう愚かな人間じゃ、智慧の女神メティスの承認は得られないなぁ」
私が冷たく麗笑してやると、エリスがギリっと歯噛みして、私を憎々しげに睨んだ。
さぁ、エリスの残り時間はあとわずかだ。
シナリオに定められたデゼルの悲劇は、今後、七年間はない。
もう、エリスにデゼルを苦しめる真似はさせないよ?
デゼルの強さを思い知るがいい。
あの子は、この私に選ばれた悪役令嬢なんだから。






