第56話 悪役令嬢は闇の皇子に帝位を捧げる
エリス様に遭遇してから十二日目。
水神にモードチェンジした私は、闇主たちを引き連れて、皇宮に突入したの。
外堀の水を逆滝の噴水のように立ち昇らせて、矢も砲弾も弾き返すようにした。
城門だけは開けておいて、武器を捨てて投降する者は助命して出してあげるように闇主たちに命じておいた。
私には、皇帝と皇太子の顔がわからないから、その確認のため、ネプチューンにだけは、一緒に突入してもらったの。
皇太子ウラノスを見つけると、ネプチューンがたちまち一刀両断にした。
ユリアのことで、恨み骨髄だったのね。
だけど、皇帝を見つけた時には、ネプチューンはそうしなかった。
「やれ」
私に命じたの。
「――はい」
私は震えそうになる水神の手を、真っ青な顔をした皇帝に向けた。
「で、きな――」
「やれ」
私は泣きながら、皇帝の全身の血を蒸発させて絶命させたの。
皇帝はネプチューンが討つことになっていないの。
ゲイルの獲物なのよ。
私がやらなかったら、ネプチューンは内戦にするかもしれない。
そうなったら、何の罪もない帝国の人達がたくさん殺されてしまうもの。
「ほう」
手の震えも涙も止まらなかった。
私、人を殺した。この手で、人を殺した。
「よくやった、おまえを俺の副官にしてやる」
知ってる。
よくやらなくても私が副官よね。
どうして、よくやらなくても私が副官なの?
「褒美に今夜、抱いてやる。俺の部屋に来い」
なんて、言ったの?
「褒美は必要ありません」
「デゼル? じゃあ、命令だ」
デゼルはまだ十歳よ!?
愕然とした目でネプチューンを見て、私は水神のまま、水道管から逃げたの。
ネプチューンが皇帝になるまでのシナリオは、これで完成したはず。
もう私、ここにいなくていいよね?
人のいなくなった皇宮のお風呂を勝手に借りた後、台所も借りて、私の体調が悪い時に、サイファがよく作ってくれたミルクパンを作って食べたの。
涙の味しかしなかったけど、なんとか、お腹に入れたの。
あと少し――
サイファ達が公国にいるのを、『なかま』のステータス画面で確認したもの。
私が帝国にいる限り、残り二日、会うことはないはず。
レーテー様、どうか、一刻も早く私に祝福を下さい。
神様、どうか、私にご慈悲を。ひとつでいい、承認を下さい。
サイファ達を闇主から解放したいの。
私が、この命をつなげなくなる前に――
どうか、サイファ達を助けて。






