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悪役令嬢と十三霊の神々 ~悪役令嬢はどうしても町人Sを救いたい ~  作者: 冴條玲
第二章 魔神ルシフェル来襲 ≪永遠のロマンス≫
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【Side】 サイファ ~町人Sは震えが止まらない~

「サイファ、デゼルは戻っているか!?」

「ガゼル様!? いいえ?」


 デゼルを連れて行ったガゼル様が、一人で神殿に戻ってきたのは、半日ほど経った頃だった。

 真っ青な顔をしたガゼル様が顔を覆うのを見て、僕は、胸が早鐘のように打つのを感じたんだ。


「すまない、デゼルを災禍の女神エリスに連れ去られた」


 僕は目を見開いて、ガゼル様を見た。

 災禍の女神って、まさか。

 三年前、オプスキュリテに見せられた――?


「デゼルはどこへ!?」

「スノウフェザーに空間跳躍したが、ここへ戻って来ないということは、エリスに連れ去られたとしか考えられないな」


 僕はしばらく考えて、口を開いた。


「スノウフェザーは帝国内の寒村です。デゼルが空間跳躍できる場所の中では、一番、人の少ないところだから、水神になって闘おうとしたのかもしれません」

「――なるほど」

「あの、デゼルに何のご用事だったのでしょうか」


 言いにくそうにしたガゼル様が、目を逸らして答えた。

 話す時に、相手から目を逸らすような方ではないんだけど。


「オプスキュリテに見せられた魔物が来るという予感があって、デゼルに『夜明けの守護』をかけた」


 絶句して、僕はガゼル様を見た。

 ガゼル様がデゼルにキスしてオプスキュリテを降臨させた時に、さすがに気になって、『オーブ』について調べたことがあるんだ。

 どうして、僕は震えているんだろう。


「ガゼル様、それって、デゼルがあなたを受け容れたということでしょうか」

「まさか」


 まさか、って。


「抵抗するデゼルに無理強いだよ。デゼルが私を受け容れてくれるくらいなら、サイファであろうと他の誰であろうと、デゼルの闇主として承認したりするものか」


 それまで、目を背けていたガゼル様が、僕に目を戻した。


「今、私が生きているということは、デゼルも間違いなく生きている。『夜明けの守護』が失われる七日以内に手を尽くして探し出さなければ。サイファ、デゼルの居場所に心当たりはない?」

「――ありません」

「スノウフェザーに行ってみるしかないか……」


 ガゼル様の顔には苦悩の色が濃い。

 デゼルのクロノスを使えない以上、往復するだけで七日かかってしまうんだ。

 外したら最後。


「父上に頼んで、公国内についてはデゼルを探してもらっている。私はすぐに帝国に発つつもりだ」

「僕も行きます」

「ありがとう」


 ガゼル様と港で待ち合わせて別れた後、僕は急いで闇主の装束に着替えて、何か手掛かりがあるかもしれないと思って、デゼルの攻略ノートをリュックに入れた。

 袖口に縫い込まれた、『デゼルよりサイファへ 永遠の愛を込めて』の文字を見たら、涙が出そうになったけど、泣いている場合じゃないんだ。

 僕は歯を食い縛って涙を(こら)えると、急いで港に向かった。



  **――*――**



「すごいな……」


 翌朝から、ガゼル様の船室で、三冊ある攻略ノートを手分けして調べることにしたんだけど。

 少しめくっただけで、ガゼル様が感嘆の声を上げた。


 意味のわからない情報も多いんだけど、とにかく凄い。


 あれもこれも予知してたんだって、闇巫女の凄さを思い知らされるノートだった。


「災禍の女神エリスの情報、スキルが『不要』の一言と×だけなんだが、不要ということは、これらのスキルはデゼルが使えるものなのか?」

「そうですね、クロノスとウンディーネを使っているのはよく見かけます」


 そんな話をしていた時だった。

 急に、ガゼル様が真っ青な顔になって口許を押さえたんだ。

 口許を押さえる手も、見てわかるほどの震え方だった。


「ガゼル様!?」


 洗面台に手を突いたガゼル様が、胃の中身をすべて吐いて、なお、苦しげに全身を痙攣(けいれん)させているのを見て、僕はあわててヒールをかけた。

 ひどく荒かった呼吸が、二度目のヒールで、ようやく、落ち着いた頃だった。


 ガゼル様がダンと、こぶしを壁に打ちつけた。


「デゼルが『夜明けの守護』を使ったんだ、こんなになるまで我慢するなんて……!」


 僕は絶句して、倒れそうになった。

 たった一夜で、こんなになるって、デゼルはどういう目に遭わされているんだ。

 また、手が震えてきたけど、こぶしを握り締めて耐えた。


 怖いんじゃない。


 怒りのあまり手が震えたことなんて、僕は、初めてだった。


 怒りがいったん鎮まると、次には、涙が出そうになった。

 ガゼル様が『夜明けの守護』をかけて下さっていなかったら、こんなの、デゼルは間違いなく殺されていたんだ。

 ガゼル様は、デゼルを守るために命を懸けて下さっているんだ。

 そのガゼル様より、デゼルは僕を選んでくれたのに。

 どうして、何もしてあげられないんだ。


「サイファ、ラクになった。私がラクな状態でないと、デゼルが次に『夜明けの守護』を使った時に意味がないからな。サイファにヒールが使えて助かるよ」

「ガゼル様……」

「朝食を取ってから、また、手がかりを探そう。朝食の後、私は少しやすみたい」

「はい」

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