【Side】 先生 ~間違った指導などしていないのに~
一体、私がしたことのどこに非があるのかわからないまま、私はデゼルの闇神殿を訪ねた。
おかしな指導はしていないはずだ。
教科書を持ってこない態度、授業放棄を注意して何が悪いんだ。
中学生が武装してケンカしてみたり、キスしてみたり、どう考えても不適切だろう。
教員として、指導しなければならない事柄であるはずだ。
闇神殿は私が想像していたより、ずっと、本格的な神殿だった。
デゼルは、インチキ占い師というレベルではなかったのか?
よもや、門前払いされるんじゃないかと思いながら、デゼルを探していると言ってみたら、用向きを聞かれて困って、中学の担任だと言ってみた。
しばらく待たされて、出てきたデゼルが私を見て、ひどく驚いた顔をした。
「どうしたんですか、先生!? サイファ様、ヒールしてあげて」
どうしてサイファがここにいるのか、ヒールって何のことなのか、私が途惑ううちにも、サイファが落ち着いた様子で呪文を詠唱すると、翠の光が私を包んで、ジャイロに殴られたアザの痛みが引いた。
私はジャイロのことを話して、どうしてなのか、十歳のデゼルを相手に、必死になって自分の指導は間違っていないと繰り返してしまった。
話を聞いたデゼルとサイファはあ然とした顔をした。
「ジャイロったら、何してるのよ!」
「デゼルがいなくなった教室って、火が消えたみたいに寂しくて、つまらなかったから。――ジャイロも途惑ってるんだと思う」
二人とも、私の指導の正当性については否定しなかった。
デゼルが「私からやめるように言っておきます」と言ってくれて、その後、ジャイロは実際、私に暴力をふるわなくなった。
私の指導は間違っていなかった。
ひとつも間違っていなかったんだ。
それなのに――
その翌月、デゼルの身に起きたことを知った時、私は愕然とした。
デゼルもサイファも知っていたんだ。
だから、デゼルは怖かったんだ。
闇の神オプスキュリテに予言された運命を変える方法が何かないか、デゼルは教室でずっと探していたんだ。私に叩き出された廊下でもまだ探していたんだ。
私はどうして、そのデゼルを叩いたりしたんだ。
私の指導は間違っていなかった。
ひとつも間違っていなかった。
そうだとしても。
あの子は、教室で騒いだわけでも、授業妨害したわけでも何でもなかった。
ただ、水晶球を通して、違う未来を求めていただけだ。
あの子に残されていた、残りわずかな優しい時間を、私はどうして、中学生として平和に過ごさせてあげることができなかったんだ。
あの子達は結局、二度と、中学校には戻らなかった。
私をうらんでのことじゃない。
私に、あの子達を守ってやる力がなかったからだ。
デゼルの身に何が起きたか、みんなが知ってしまっている教室で、デゼルが好奇の目にさらされ、心ない嘲笑と中傷の的になって傷つけられることを防ぐ方法なんて、私にはなかった。
戻ってきても、デゼルが二度と、まともな中学校生活を送れないことはわかりきっていたんだ。
私の指導は間違っていなかった。
ひとつも間違っていなかった。
それでも、私に教室を追い出され、廊下で泣きながら水晶球を見ていたあの子を叩いてしまった日のことを思い出す度に、私の心はいつまでも疼いた。
ジャイロに殴られた痛みは忘れても、デゼルに残された最後のひとときを台なしにしてしまった罪悪感を、私は死ぬまで、忘れることができなかった。
ただひとつ、救いがあるとすれば。
デゼルの生涯が、そこまで不幸なものではなかったらしいということだ。
二十年後に一度だけ、私はデゼルを遠目に見たんだ。
サイファの傍で、幸せそうに優しく笑っていた。それで私は少しだけ、何かを許されたような気持ちになったんだ。
あの子達にこれ以上、悲しいことのないように――
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この物語は有償で書いて頂いたご感想と、それに対するお返事の方が本編より長い勢いだったりしていますが、アルファポリス様の方なら、最終話まで物語だけをお楽しみ頂けます。
(ご感想とファンアートは章末にまとめて掲載する形にしています)
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第二章 悪役令嬢は中学校を中退する
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頂いたご感想
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★☆ しき様より ☆★
中学校の先生、見る人が見れば理解がないと感じられてしまいそうだなと感じました。少し可哀想です…
叩いた事は先生が悪いけれど、それ以外は案外筋が通っていると思いました。
授業をきちんと受けない生徒を注意する、男女交際に関する行為を注意する…
学校は勉強と集団生活を学びに来る場所なので間違ってはいないと思います。
この先生の感覚は私達がいる世界に近いように見受けられたので、こちらの世界線に生きた方が過ごしやすかったかもしれません。
ただ、闇巫女様や闇主様を頭ごなしに宗教か何かだと思い込み、話を聞いたり調べたりしなかったのは少し頭が硬いかなと思いました。
でも、インチキ占い師だと思い込んでいるって事はもしかしたら先生も過去に何かあったからとか、そういった事を考えると安易に否定は出来ないのです。
それに、ジャイロさんに脅されて宮殿にいってデゼルさんの直面している事実に気付いたという事は悪い先生ではないのです。
繰り返し出てくる、「私の指導は間違っていなかった。ひとつも間違っていなかったんだ。」も後悔しているから自分に言い聞かせて納得させようとしているように感じられます。後悔して反省出来る人に悪い人はいないのです。
「ジャイロに殴られた痛みは忘れても、デゼルに残された最後のひとときを台なしにしてしまった罪悪感を、私は死ぬまで、忘れることができなかった。」とあるので、深く後悔していますよね。
これはお互いにとって忘れる事が出来なかったと思います。
程度は違えどデゼルさんも中学校を退学させられた事は記憶に残るでしょう。
悲しいすれ違いです。
デゼルさんの正義と先生の正義が違ったというだけだと思います。
こういった経験を通して、その後は生徒の意見に耳を傾けられる先生になってくれたら良いなぁと思いました。
真面目な人ほど考え込みやすく、過去の出来事を思い出す。
それなら楽しい記憶が多い方が良いに決まっています。
先生の今後が楽しいものでありますように。
★☆ 作者より ☆★
脇役が良い人か悪い人か、きちんと考えながら読んで下さる読者様は貴重なので、ご感想、とても嬉しいです✨(*´∇`*)
中学校の先生、しき様に限らず叩いたことだけが問題と考えてしまう人が多いのですが、実は、正しいのは指導内容だけで、指導方法は間違いだらけだったりします。
1.『第49話 悪役令嬢は中学校を中退する』で先生がさいふぁ様を叩いたことには、何らの正当な理由も存在していません。さいふぁ様は先生の方針も尊重しつつ、話し合いで解決しようと試みたのに、筋の通ったさいふぁ様の説明に対し、先生は問答無用で叩くと言う、暴力でこたえてしまっています。
じゃいが後日、「こぶしで語るんなら俺もまぜてもらおうか」って、割り込んでくる事態は先生が自ら招いてしまったものなのです。
2.デゼるん、さいふぁ様、じゃいの三人については、小学校の先生からきちんと特別な事情についての申し送りがあったのですが、インチキと決めつけて取り合いませんでした。小学校の先生の親切と、正式な申し送りを無視する態度はよくありません。
3.オプスキュリテ公国においては、神の依り代である闇巫女様が公子様に匹敵する地位にあることは小学校で習うのですが、先生なのに、小学生でも知っていることを知らなかったのは痛恨です。
私だって小学校の教科書の内容すべてを覚えてはいないので、同情はしますが。
4.『第51話 町人Sも中学校を中退する』、男女交際に関する中学生として不適切な行為を注意したことそのものは正しい指導ですが、それ以前、男子中学生二名が刃物を持ち出して校内で決闘を始めたという前代未聞のとんでもなく不適切な行為には注意も対処もしていません。それスルーしてキスだけ注意したんじゃ示しがつきません。
Lv30の死鬼と闇主の決闘を仲裁できないのは仕方ないにしても、仲裁してくれた闇巫女様に感謝するどころか不適切であると叱責、これはかなり情けない状態です。
要するにじゃいが怖いので、じゃいがものすごく逸脱した不適切な行為をしたことには目を瞑る一方、おとなしいさいふぁ様とデゼるんばかり厳しく叱るという「いるいるそんな先生」なのです。
よくいるタイプの先生だと思うので、悪役というつもりはないのですが、先生が無能だと、弱い子供たちがすごく困るよねという現実を。
さいふぁ様とデゼるんは強いから困らないけど、『いじめから逃れるための弱い子の逸脱』を叱責する一方、いじめという深刻な逸脱に対しては見ざる言わざる聞かざる――
学校にも、会社にも、いくらでも転がっている残酷な現実を、ざくっと抉ってみました。
と、駄目だししておいて何ですが、私も、この先生は悪い人ではないと思います。
しき様が察して下さった通り、後悔しているからこそ、自らのあやまちに心のどこかで気づいているからこそ、何度も、何度も、間違っていないはずだと自分に言い聞かせるのだと思います。
その後、デゼるんの身に起きたことを知って、先生が深く後悔し、反省したのもしき様が読み取って下さった通りです。
とはいえ、実はデゼるんとさいふぁ様の方は、中学校を中退させられたとは思っていなくて、先生のことを恨んだりもしていないので、ご安心くださいませ。
今、さいふぁ様視点で同じ物語を書いてみているのですが、
僕、こんなこと(中学で勉強)している場合なんだろうか、デゼルを一人にしていていいんだろうか――
公国はもう滅亡しないんだろうか。
デゼルはもう襲われないんだろうか。
心配で、授業に身が入らなかったさいふぁ様。
先生に叱られたからじゃなくて、闇の神様より高位の神が紡いだという残酷なシナリオの書き換えに成功したのか、デゼるんもさいふぁ様もそれが気がかりすぎて中退した感じです。
さいふぁ様が生まれて初めて殺したいと思ってしまったのは、デゼるんを叩いた先生なんかじゃなくて、闇主軍団の方なのです。
さいふぁ様のそういう感情は本編にはほとんど書かれませんが、それは、さいふぁ様がそういう感情をデゼるんの前で露わにして、デゼるんをつらくさせないように努力しているからなのです。
さいふぁ様ともあろう方が、ネプチューンが闇主を何人かお芝居のために斬り殺すと言い出しても、止めなかったりしています。






