【Side】 先生 ~誰にも暴れるゴリラを止められない~
教科書はと聞かれて、忘れましたならまだしも、持ってきていませんと答えた生徒は初めてだ。
それが飛び級で進学してきた闇巫女様だと言うんだが。
闇巫女様なんてのは、要するに、インチキ占い師なわけだろう?
あげくに、注意したら、「もう、明日から来ません」ときた。
小学校でどれだけ甘やかされてきたんだか知らないが。
教科書さえ持ってこない、授業を受ける気のかけらもない生徒には、学校に来る資格などないんだ。
他の生徒に悪影響があるばかりだ。
デゼル、サイファ、ジャイロの三人の成績は優秀らしいが、あやしいものだな。
インチキ占い師の肩書で、ゲタを履かせてもらっていたんじゃないのか。
だが、デゼルが中退した後も、平和は続かなかった。
ジャイロをはじめ、数人の男子生徒が私にガンをつけてくるようになったんだ。
その場はサイファが注意してくれたが、あの子もよくわからないな。
私にも偉そうに注意したし、上から物を言うのが好きな子なのか?
中二病の時期が近いからな、男子中学生なんて、どの子も世界で最もバカな生き物だ。
そう思っていたら、ジャイロとサイファが想像を超えるバカな真似をしてくれた。
中学生が放課後に、仰々しい装備を持ち出してのケンカなんて前代未聞だ。
どういうことなんだ。
二人とも、装備を使いこなしているように見えて、到底、割って入れなくて困っていた時だった。
中退したはずのデゼルがなぜかいて、割って入った。
そうかと思えば、サイファとイチャつき始めた。
「君達ね、学校でそういうことをしていいと思っているのか」
私は断じて、おかしな注意はしていないんだ。
極めて、常識的な指導をしているだけだろう。
「先生、僕も中退しようと思います。僕が中退すると、ジャイロがクラスで暴れるかもしれないと思って、ためらっていたけど」
その時には、まったく、意味がわからなかった。
だが。
サイファがいなくなった後、地獄が始まった。
**――*――**
「よぉ、センコー」
いきなり、ジャイロに殴りつけられたんだ。
「サイファとデゼルを退学させるとか、いい度胸じゃねーか。サイファの代わりに、オレのサンドバッグになってくれんだろうな?」
「なっ」
「もともと、そうだったんだぜ? サイファとデゼルがオレのブレーキだったのになぁ? クラスメイトなんか殴っても、もう、弱すぎてつまんねーんだよ。中学生になったし、センコーを殴るのがいいよな?」
「いいわけがあるか!」
ジャイロにあまりにも問題があったので、保護者に連絡をしてみれば、保護者にいたってはキングコングだった。会話が可能な相手ではなかったんだ。
保護者会も校長すらも、ゲイル・カーペンターの前には沈黙を貫くばかり。
ジャイロの素行にどれだけ問題があろうとも、誰も何も言えない状態だった。
「よぉ、センコー」
翌日もまた、ジャイロに殴りつけられたんだ。
「ゴリラをおとなしくさせとくにはよぉ、バナナと安全な檻が必要だよなぁ? オレ達がなんで、小学校の間、ずっと、同じクラスだったと思ってるのか、聞いてみたいと思ってよ」
「け、警察にッ……!」
「警察なら、キングコングに盾突けると思ってんのか?」
ジャイロが陰惨に笑って言った。
「警察官だって、命は惜しいからなァ! ゲイルに盾突いてくれたのなんて、デゼルとサイファだけなんだぜ? ゲイルは公国軍の将校なんだから、もっと上にかけあわないと駄目だなァ? デゼルの後ろ盾である公家とかなァ!」
いったいどうして、そこまで話が大きくなるんだ!?
この素行不良の中学生を、誰にもどうにもできないって、どういうことなんだ!
「オレがこんな真似してると知ったら、デゼルもサイファもぜってぇ、許さないのになァ? 誰が退学させたんだろうなァ? 公家にかけあったら、デゼルが退学した理由について聞かれるよなァ」
ガクガク震えている私の肩を、ジャイロがぽんぽんと叩いて言った。
「デゼルに頭下げて、ゴリラなんとかしてくれって頼んでみれば?」






