第48話 悪役令嬢は幸福に輝いた三年間を振り返る
そういえば、クライスのピストルの開発が異常に早かったのは、色んな意味で私のせいだった。
この時期、シナリオ通りであれば、クライスはティニーを失ったショックで廃人同然なの。
ところが、私の生命の水のおかげで心身ともに元気いっぱい。
クライスはティニーを助けようと仕事をサボっていて、家政婦も雇えないくらいお金に困っていたから、慌てて仕事としての研究に戻ることにして、そのテーマに、暗殺用の武器を選んだの。
私がネプチューンのクーデターを手伝ってなんて言ったから。
さらには、私がクライスとのコネをつくろうと先生に渡していたノートの切れっぱし。
知らないうちに、これが公国の研究院に激震を与えて、情報共有が一気に進んだらしくて、それはもう数学に限らなかったの。
なにしろ、この世界の教科は算数と国語と生活だけ。
工学や物理学は生活の中に少し含まれるんだけど、分野として確立していないの。
だから、次は自分たちの研究が闇の神オプスキュリテにすっぱ抜かれるんじゃないか、という疑心暗鬼があらゆる分野の専門家を脅かしたようなの。
おかげで、クライスは他の研究院の研究成果を借りぐらしのア〇エッティ、すごい勢いでピストルを開発してしまったと。こういうわけよ。
幸い、研究成果に対して公家から相応の報酬が与えられることを条件に、ピストルの技術の封印には応じてもらえた。
闇落ちしてないマッド・サイエンティスト、それでもちょっと、危険な香りがしたから、その後、月イチくらいで遊びに行って、さりげなく研究テーマをチェックするようにしたの。
私とサイファが遊びに行くとクライスもティニーも喜んでくれたし。
ネプチューンからは、三年後、本当にウラノスから公国を滅ぼすよう外征を命じられたら、私の話を信じて決起するというお返事をもらったの。ユリアも口添えしてくれたみたい。
それからの二年間は、私の生涯の中で一番、みんなに愛されて、守られて、毎日が幸せで、楽しい時間になった。
これ以上は考えられないくらい、すべてに恵まれた時を過ごしたの。すべてが輝いてた。
サイファとジャイロと三人で進めた闇の十二使徒の闇落ち阻止ツアーも順調で、とっくに闇落ちしていたゲイルと、最後に闇落ちする私を除いた、十人すべての闇落ちの阻止に成功したの。サイファもジャイロもすっごく活躍したのよ。
その時のことも、いつか、語れたらいいな。
闇落ちイベントの後だって、デゼルは決して、不幸だったわけじゃないの。
たとえ、回避できなかった悪夢が、生涯、癒やすことも消すこともできない深い傷を私に残して、私が心から笑えることは、もう二度と、なかったとしても。
公国がシナリオ通りに滅びるよりは、あれでよかった。
サイファもガゼルも、他のみんなも、助かったんだもの。
たとえば、水神の力で大洪水を起こして敵軍を押し流してしまえば、それはそれで私も公国も助かったのかもしれない。
だけど、私一人が助かるために、敵国の兵士だからって、何万人も犠牲にできないよ。
それに、何よりも一番、大切なものは、本当にパンドラの箱の底に眠っていたの。
最後のその時まで、私を支え抜いて、私に幸せな生涯を与えてくれたサイファとの日々は、私にとって、かけがえのないもの。
サイファは凄かったのよ。
私を愛してくれた。ずっと、傍にいてくれた。
どんなサイファも忘れたくない。
見られなくてよかったサイファはいないの。
聞かなくてよかったサイファの言葉はないの。
たとえ傷を残しても、私はこの道を選んでよかった。
サイファと出会わせてくれた神様に、感謝を――






