第43話 ときめく胸に
九月九日、ガゼルと一緒に豪華客船に乗り込んだのは、総勢十二人。
ガゼルと近衛が五人。
交渉役の文官が一人。
私とサイファ、ジャイロ、ユリシーズ、そしてクライス。
悪の帝国の皇子様に会いに行くのに、小学生が四人も混ざっているのがシュールだと思った。
五人の近衛のうち、謁見の間までついてくるのは一人よ。
つまり、皇子様に謁見する八人のうち、半分が小学生という異例の事態なの。
ネプチューンの方は十六歳。
ゲームでは二十六歳だったから、正直、どんな感じなのか想像もつかない。
十六歳の頃からすでにひねくれてたのかな。
それとも、ユリアがいた頃は、もっと、まともな皇子様だったのかな。
ユリアにも会えるといいんだけど。
京奈も、現世の記憶を取り戻してるのかな。
ジャイロは以前よりは、酔わなかったみたい。
気分はすごく悪そうだったけど、さすがは豪華客船。
ふつうの客船とは、揺れも船室の空気も雲泥の差だもの。
船旅の間、ガゼルの船室にサイファと一緒に招かれて、色々な話をしたの。
ネプチューンとの謁見をどう進めるかの打ち合わせはもちろん、小学校ってどんなところなのかとか。
楽しそうでいいねって、ガゼルが少し、寂しそうに言ったのが心に残ったの。
十一日の夜も、そんな風に、ガゼルのために取られたホテルのVIPルームに招かれて、話を終えて、部屋に戻ろうとした時だった。
「ガゼル様、あの……」
サイファがね、何か言いたげにガゼルに声をかけて、言い淀んだの。
「なに? サイファ」
サイファがすごく困った顔で、ガゼルを見たの。
「言いにくいこと?」
サイファがうなずくと、ガゼルが笑って言ったの。
「いいよ、許すから、言ってごらん」
「――私もそんな友人が欲しいと仰られていたので、その、僕とデゼルでよければ」
ガゼルがびっくりした顔でサイファを見て、嬉しそうに目を細めたの。
「なんだ、それが言いにくいなんて、サイファらしいな。私はとっくにそのつもりだよ」
サイファの方が、もっとびっくりした顔よ。
ガゼルが軽く、ぽんとサイファの頭を叩いて、サイファの髪を一筋、指に流したの。
やだ、サイファが赤くなってる! すごく可愛い!
「二人とも可愛いよ。今後ともよろしくね」
ガゼルのVIPルームを退室した後、まだ、頬を赤らめたままのサイファが言ったの。
「ガゼル様って、……」
後が続かない。
サイファがふと、私を見て、ガゼルがサイファにしたみたいに、私の髪を指に流して、そのまま遊ばせたの。私の髪は長いもの。
あ、どうしよう。
これって、ときめく。
動けないし、声も出せないの。
少し笑ったサイファが、私に触れるだけのキスをして、戻ろうって言ったの。
廊下でやっていたのよ。
「サイファ様、ガゼル様にときめいた?」
「――うん」
聞いた私もどうかと思うけど、サイファが素直すぎて、あやうく、私、萌え殺されるかと思った。
サイファって、初めて会った時から、ガゼルにはよく目を奪われていたのよ。
ガゼルが少し、首を傾げた時に揺れる髪の感じとか、ちょっとした目配せの妖艶さとか、私だってときめくのよ。すごく綺麗なんだけど、サイファもそう思うみたいなの。
たまに、声もなく、動けなくなってガゼルを見てる。
憧れるのかな。
それとも、ガゼルみたいなお兄ちゃんがいたらいいのにって思ってるのかな。
ガゼルはサイファに優しいもの。
サイファに優しい年長者は、他にいないのよ。
サイファって絶対、ガゼルが好きよね。
ふっと、嬉しそうに笑ったサイファが私を見たの。
「守ってくれる人がいるのって、安心するね。僕も、デゼルにそう思ってもらえるようになりたい」
私、ずっと、サイファにそう思ってるよ。
私とサイファはなかよく、私達の部屋に戻ったの。






