【Side】 ガゼル ~君の瞳に逆らえる気がしない~
参ったな。
デゼルはああ言うけど、あの子、デゼルに公妃が務まらないなら、誰に務まると思っているんだろう。
公家と闇巫女の婚姻が歴史的に推奨されてきたのがどうしてか、デゼルを見ていると、よく、わかるんだけどな。
デゼルを公妃にしたために国政が乱れるなんて、あるわけがないと思うよ、デゼル?
公妃に推薦されている才媛の誰にも、まだ七歳のデゼルが書いたあの手紙ほどのものは書けないよ。
誰かに代筆を頼んだのかなとも思ったけど、デゼルの瞳は明らかに手紙の内容を理解していた。
デゼルが書いたのでなければ、あの内容の手紙を七歳の子供がそらんじるなんて考えられないし、手紙の内容と一語一句同じだったわけでもないんだ。
それでも趣旨を外していない。
デゼルが書いたんだ。
デゼルの周りに、私を断る手紙の代筆を引き受ける者がいるとも思えないしね。
サイファにも驚いたよ。
数日前に会った時には、ああ、子供だなと思ったのに。
あの子、デゼルの手紙の内容を理解していた。
私じゃあるまいし、十一歳の子供が理解できる内容じゃないはずなんだけど。
それが彼なりの覚悟の証だと言うなら、もう、認めざるを得ない。
ただの子供だと見くびっていたけど、デゼルの目は確かだったみたいだ。
そう、サイファもまた、ただ者じゃなかった。
あの子は公子である私にデゼルを譲らせるつもりでありながら、一切の気負いも敵意もなく、純粋な憧憬の眼差しを私に向けたんだ。
あの子は本気で私に敬意を払い、忠誠を誓っているのに、私にデゼルを譲らないどころか、私にデゼルを譲らせることができると確信していた。
サイファが振りかざすのは、あれはどういう種類の力なんだ?
私がこれまで、存在を知らなかった種類の力なのは間違いない。
あの二人が私に忠誠を誓ってくれることを、頼もしいと考えるべきなのかもしれないけど……。
私の方がサイファに逆らえないんじゃないか、なし崩しに従わされるんじゃないかと感じるんだよ。
あの澄み切った翠の瞳には、勝てる気がしないんだよ。まったく。
いずれにしても、デゼルほどの才媛も、デゼルほど美しく愛らしい令嬢も、私は他に知らない。
あの子は、公民のための犠牲になることを厭わない、『夜闇に浮かぶ月』だ。
デゼルは闇巫女として正しく、天空から下界にあえかな光を降らせているんだ。
諦めるしかないとわかっていても、忘れるのは難しそうだよ。困ったな。






