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悪役令嬢と十三霊の神々 ~悪役令嬢はどうしても町人Sを救いたい ~  作者: 冴條玲
第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ
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第28話 悪役令嬢はクライスとティニーを救う

 一応、朝早くに使いをやったけど、約束もなしにいきなり訪ねたから、クライスに会ってもらえるかどうか心配だった。

 だけど、クライス邸の呼び鈴を鳴らすと、執事さんがすんなり通してくれたの。


 客間でしばらく待つと、眼鏡をかけた、気難しそうな男性が姿を現した。クライス・アスターよ。


「はじめまして。デゼル・リュヌ・オプスキュリテと申します。こちらは私の闇主のサイファ」

「その年で闇主、ねぇ……」


 足元まである闇巫女の正装、夜空の蒼のドレスの裾を持ち上げて、きちんと礼をしたけど、クライスは私にうさん臭そうな視線を向けたまま。

 クライスの頬はコケ、顔色も悪く、憔悴した様子よ。目にはすごいクマ。すごく、疲れてるのね。


 クライスが黒板にいくつかの数式を書いて、解いてみろと言うから解いた。

 大学入試なら一次試験程度の、そんなに、難しくない問題。


「――なるほど」


 先生に渡しているノートの切れっぱしを、本当に、私が書いているのか確かめたのね。

 クライスに信じてもらえるかどうかが、クライスの闇落ちを阻止するためのカギなの。

 私が貴重な神与のスキルを使っても、クライスがその効果を認めず、自分で煎じた薬を娘さんに飲ませてしまったらアウトだもの。


「クライス様、あなたが煎じた薬を飲んで、六日後にティニー様が亡くなると、闇の神からの警告がありました」


 クライスが驚愕に目を見開いた。

 色々なことに驚いたのね。

 なぜそれを知っている、というキーワードが、さらっと詰め込まれたセリフなのよ。


「私には、ティニー様の病を癒す力があります。クライス様がトランスサタニアン帝国の第二皇子ネプチューンを帝位に就けることに協力して下さるなら、ティニー様を今日、癒すつもりで参りました」


 ガタンと、クライスが椅子を蹴立てた。


「なぜ、私がネプチューンに招へいされていると知っている……!? 公家も知っているのか!?」


 そっか、もう、招へいされているのね。

 クライスは戦闘員ではないもの。確かに、三年後に招へいしてたんじゃ遅い。


「いいえ。すべて、闇の神からの神託です。まだ、誰にも話してはいません」

「闇巫女とやらうさん臭いと思っていたが、なるほど、公家が囲い込むだけのことはある……か。ネプチューンから帝位を望む意向は示されていないが?」

「三年後に、示されます」

「ふむ……」


 大事な判断だもの。

 クライスは部屋の中を行ったり来たりしながら、随分、考えてた。


「ついて来たまえ」


 クライスについて行くと、可愛らしい、女の子の部屋に通された。

 わぁ、お姫様ベットだ。

 本当に、娘さんが可愛いのね。


 クライスが天蓋から下がるレースのカーテンを開けて、私を手招いた。

 お姫様ベットの中では、四~五歳くらいの、すごく可愛らしい女の子が、息も絶え絶えに、苦しそうに眠っていたの。

 可哀相に。


「おまえの力は『目に見えて』回復させることができるものか?」

「――おそらく」


 初めて使うから、確約はできない。


「おそらく、か。回復したのかしないのか、わからないような気休めだった時には、先ほどの取引に応じる保証はできない」

「わかりました。――かけます」


 私がクライスに契約書を書かせるでもなく、いきなり癒術を使うと言い出したことに、クライスは驚いたみたいだった。

 でも、たぶん、強制力のある契約は必要ないと思うの。

 だって、何もしなくても、クライスはネプチューンに仕える予定なんだもの。

 ネプチューンに仕えるよう勧める私が娘さんを癒せば、勧めを断る理由はないはずよ。


生命の水(ウンディーネ)【Lv8】――水神の名を借りて命ずる、ティニーを癒したまえ」


 私がティニーに触れた指先から幻の水があふれて、彼女の体を螺旋状に取り巻いた。

 それは数十秒程度のことで、すべての幻の水が消えると、ティニーの呼吸が静かになって、そして。

 ぱちりと目を開けたティニーが、明るい空色の瞳でクライスを見たの。


「パパ?」

「ティニー!」


 ティニーの土気色だった肌が、少女らしい輝きを取り戻して、もう、どこからどう見ても、病人には見えない。


「わぁ、綺麗なおねえちゃん」


 私がニッコリ笑ってみせると、すごく、喜んでくれた。

 可愛いなぁ。


「デゼル様だよ、ティニーの命の恩人だ。ああ、ティニー、よく元気になってくれた……!!」


 ずっと、気難しくて不愛想だったクライスが、別人のように泣き崩れて、ティニーをぎゅっと抱き締めたの。


「生命の水【Lv3】――水神の名を借りて命ずる、クライスを癒したまえ」

「おわっ!?」


 私はくすっと笑った。


「お疲れのようでしたので」


 生命の水【Lv3】は疲労からの回復。あんまりやつれた様子で、見ていられなかったの。


「……デゼル様、公子様に水神の加護が降りたと聞きましたが、貴女様でしたか」


 うわぁ、さすがによく聞いてるのね。

 あれだけ疲れてても、ぼんやりしてない。


「公子様ということに、して頂きたいのです。私の都合で」

「そうですか、貴女様のご都合であるならお安い御用。専門書へのご助力も、これまで、ありがとうございました」


 そっか、クライスならもう、自分で書けるものね。


「今後、このクライスの力が必要な時にはいつでもお声がけを」

「お心遣いに感謝いたします。そして、こちらこそ。ただ、先ほど、ティニー様に使った癒術だけは、私の生涯のうちに三度しか使えない奥義です。おそらく二度とは使えませんので、ご理解下さい」


 クライスは私に深く頭を下げてくれて、あまり美味しくない夕食をふるまってくれて、ティニーに「ぱぱぁ、これ、おいしくないよ~? でぜるさまも、きっと、おいしくないよ?」とか言われて困ってた。

 ティニーったら、すごく、可愛いの。

 サイファがすかさず「だいじょうぶ、クライス様とティニー様が元気になってくれたのが嬉しいから、おいしいよ」って、フォローしてくれた。

 サイファにそう言われると、私もなんだか、本当に美味しく感じてきて、にっこりうなずいたの。

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