第27話 悪役令嬢は婚約破棄をたくらむ
「サイファ様、手を、つないでもいい?」
「うん」
落ち着こう。
急に聞いて、びっくりしたけど。
大丈夫よ、きっと。
私、サイファにキスしてもらったもの。
そうよ――
きっと、何かの間違いだと思うし、そうでなかったとしても。
「デゼル、怖かったら抱っこしようか?」
「うん」
抱いてもらったら、涙が出てきた。
私、ほんとに怖かったのね。
サイファの胸が優しくて、ほっとしたら、涙が出てくるくらいには。
「サイファ様、ありがとう」
「今日はこの後、予定通り、クライスさんのところに行くの?」
「――うん、時間がないの。でも、少し、待って」
サイファに抱っこしてもらっていると、気持ちが落ち着くの。
大丈夫――
びっくりしたけど、そうね、水神の加護を公子様が頂いたことにしてもらったから。
上の方で、それを確かにしようとする動きが出てしまったのかな、たぶん、そうね。
なら――
水神の加護が目的の政略結婚なら、逆手に取れば、サイファの身に危険が及ばないように公子様を断れるはず。
サイファが邪魔にされて、暗殺とか追放とかされる前にわかってよかった。
「公子様のことで、少し、マリベル様に話してから行く。サイファ様に何かあってからじゃ、遅いもの」
現実って、へんね。
私、こんなにサイファが好きなのに、どうして、他人が私の婚約を決めたりするのかな。
**――*――**
「マリベル様」
呼んでもらったマリベル様に、私は居住まいを正して聞いてみたの。
「私が公子様と婚約しているって本当ですか」
「ちょうど、その話をしようと思っていたところです」
にっこり笑ったマリベル様は、確信犯の微笑みだった。
「公家から正式な申し入れがあったので、受けました。サイファとは少し距離を置いて頂いて――」
「マリベル様」
私も無邪気を装って、にっこり笑った。
「サイファ様はデゼルの闇主です。デゼルはサイファ様と契りました。デゼルは生涯、喜んで、サイファ様にお仕えすることを誓いました」
「はっはは! デゼル様は子供でいらっしゃる、その程度のことで契ったとは言わないのですよ。それに、それでは主従が逆というものです。闇主こそは、闇巫女を守り支えお仕えするべき――」
残念ね、マリベル様。
私、名探偵コ〇ンなの。
例によって、私は白々しい子供っぽさの声で言ってのけた。
「えぇ~! だって、水神様が、デゼルはもうサイファ様と契っているってお認め下さったのに、公子様とも契るような不義をすれば、デゼル、水神様のご加護を失ってしまいます」
マリベル様が見る間に血の気を引かせた。
ふ。
どうよ。
相手は神様よ?
神様の前に不義があってはいけないよね。
それに、ほんとに、神様からの承認を取り消されるかもしれないよ?
「水神様がお認めに……?」
「はい!」
私は無邪気にうなずいて見せたの。
「マリベル様、サイファ様にはもう闇主としての魔力も発現しているのに、どうして、お疑いになるのですか?」
「いや、それは……え、契ったの? 七歳で?」
にこにこにこ。
ちょっと、苦しいかな?
でも、水神様のご加護を失うわけにはいかないはずよ。
水神様のご加護を失っては、この婚約は本末転倒。
「ですから、公子様との婚約は、丁重にお断りして下さいね。公子様のことは敬愛していますが、デゼルの闇主はサイファ様です」
「は、はぁ」
「今日は午後からクライス様を訪ねる予定なので、サイファ様と行って参ります」
私はマリベル様に丁寧にお辞儀をすると、席を立ったの。






