第26話 悪役令嬢は公子様と婚約していた
昨夜の嵐が嘘のように、翌朝には綺麗な青空が広がったの。
カーペンター姉弟は来春を待たず、神殿で預かることになった。
さすがに、危なくて家には帰せないもの。
闇幽鬼と死鬼ということで、割とすんなり認めてもらえた。
闇魔法を使うヒーラーが闇巫女で、アタッカーが闇幽鬼なの。
同じ闇魔法使いだから、修行はどちらも神殿でするのよ。
「ジャイロ、夏休みの自由研究ね。ゲイルを出し抜いて、ユリシーズをトランスサタニアン帝国の第二皇子に会わせたいの。会えそうなら、夏休みの間にも会いに行くし、後から適当に、自由研究の形にまとめるから」
ジャイロがぽかんと私を見た。
他国の皇子様に会いに行こうなんて、庶民が本気で考えることじゃないもんね。
ジャイロはあんまり、作戦を考えるなんて得意じゃなさそうだし。
でも、そんなジャイロだからこそ、私やサイファが思いつかない作戦を思いつくこともあるかもしれないし。
「……デゼルって、突拍子もないこと言うよな。まぁ、いいけど。ゲイルを出し抜くってェのは燃えるぜ?」
「それと、皇子に会うのが無理でも、もしも、帝国に入れることになったら、ジャイロも一緒に来てもらっていいかな」
「ああ」
「ありがとう」
私がにっこり笑うと、ジャイロがまた、ぽかんと私を見た。
ジャイロったら、なんか、どぎまぎして、おうよって言いながら逃げちゃった。へんなの。
死鬼のジャイロが一緒なら、心強いもの。
ゲイルとは比べ物にならないけど、もう、そこらへんの大人くらいには強いはず。
闇主でヒーラーのサイファと組めば、道を歩いていて因縁をつけられたくらいのことなら、なんとかできると思うの。
私達、小さな子供だし、探検して迷ったフリをして皇宮に忍び込むのはどうかしら?
子供にも、『子供だから許される』をめいっぱいに活用した、子供にしかできない立ち回りがきっとあるよね。
許されなかったら、危険極まりないのが玉に瑕。
サイファは今、一度、お家に戻っているの。
夏休みの間、闇主として私と一緒に行動することをお母さんに話してくるんだって。
今日は、サイファが戻ってくるのを待って、クライスに会いに行くつもりよ。
**――*――**
サイファを待つ間に、私は神殿前のあずまやで、夏休みの自由研究のテーマについて、マリアをはじめ数人のクラスメイトに説明した。
そうしたら、マリアが今はいない子に説明するためのプリントをつくってくれたりして、すごく協力的に動いてくれたの。
だからね、マリアはいい子なのよ。
私を嫌っているのは、私がジャイロに酷いことをしたと思っているからで。
キノコ狩りの時に、ジャイロに闇魔法を撃ち込んで気絶させたやつよ。
マリアってやっぱり、ジャイロのことが好きなんじゃないかと思ったから、私、さりげなく「ジャイロにはお姉さんに絡んで少し違うテーマがあるから、よかったら、手伝ってあげて」と言ってみた。
マリアは「なんで私が!」とか言ってたけど、「ごめん、じゃあ、やっぱり私が手伝う」と謝ったら、「手伝わないとは言ってないわよ! あなたはサイファとデートでしょ!」って。
えへへ、そうかも!
私はサイファとデートかぁ、わぁい♪
デートコースが『闇の十二使徒の闇落ち阻止ツアー』なのが、あんまり、ロマンティックじゃないけど、私、サイファと一緒ならどこでもいい。
サイファ、まだかなぁ。まだかなぁ。
**――*――**
待ちに待ったサイファが戻って来てくれたのは、お昼を過ぎた頃だった。
「ねぇ、デゼル」
サイファが食事はしてきてないって言ったから、一緒に食べようって誘ったんだけど、なんだか、食が進まないみたいなの。
どうしたのかな。元気がないの。
「あの、ね? デゼルって、公子様と婚約してるの知ってる?」
私はきょとんとサイファを見た。ううん、知らない。
「公子様が婚約したの? 誰と?」
「デゼルって、公子様に会ったことはあるんだよね?」
「うん。素敵な方よ」
「そう――」
なんだか、とっても、サイファの元気がないの。どうしたのかな。
「あのね、デゼル。公子様と婚約してるのは、デゼルなんだよ」
「え? ……え?」
サイファがじっと、私を見詰めるの。
私が、公子様と婚約してるって言ったの?
「違うよ、そんなの、私、知らないもの!」
そんなの嘘、怖くて胸がドキドキしてきた。
私の知らないところで、何が起きてるの?
私、サイファがいいのに、闇巫女って、まさか、闇主を勝手に決められてしまうの!?






