第25話 悪役令嬢デゼルの物語
ヒロインが三度目にデゼルと出会うのが、最後のイベント、とあるフィールドでのこと。
『星空のロマンス』のダンジョンやフィールドの魔物は、ヒロインがそのマップでのイベントをすべてこなすといなくなるの。
この世界の魔物は、ネプチューンの魔力で魔物に姿を変えられてしまった人間よ。
聖女なら元に戻せるんだけど、闇の聖女である闇巫女デゼルが元に戻して回っているために、ヒロインの用が終わる頃には、魔物がいなくなることが判明するの。
ところが、これはネプチューンも知らなかったこと。つまり、デゼルの裏切りなのよ。
だから、ネルとしてヒロインと一緒にいるネプチューンに見つかると、デゼルは慌てて、サイファを連れて逃げ出そうとするの。
ここで、選択肢よ。
【ネルと一緒に追う】
【一人で追う】
ネルと一緒に追うと、デートになって、ネルとの思い出を獲得できるんだけど。
ネルを狙うなら、【一人で追う】のが、まさかの正解。
一人で追ったヒロインが、デゼルに叫ぶの。
「待って! あなたは悪い人ではないはずよ、みんなを助けてあげているんだわ」
そうすると、立ち止まったデゼルが静かに振り向いて、ヒロインを見詰めるの。
「いいえ、私は……」
「これは、きっと、あなたのものね」
ヒロインが壊れたイヤリングをデゼルに渡すと、デゼルは涙を落として受け取るの。
強引な展開だけど、気にしないで。ゲームだもの。
「優しいのはあなたよ、ネプチューン様を助けてあげて。あの方は、ずっと、あなたを待っていた」
悲しそうに言ったデゼルが、壊れたイヤリングと交換で、『月齢の首飾り』をヒロインに渡してくれるの。
『月齢の首飾り』は、転生したネプチューンと再会するために必要な、ネプチューン狙いの乙女達にとっては重要アイテムよ。
この首飾りを入手していないと、どう頑張っても、ネプチューンは最後に自決してしまって、それでおしまい。
だから、デゼル・エンドこそは、ネル派の乙女達には真ネル・エンドと呼ばれているの。
ネル・エンドでも同じスチルを獲得できるから、真ネル・エンドの存在に気づかないネル派の乙女達がいることが、一番の悲劇かもしれない。
……。
あれ? 京奈、真ネル・エンド知ってるよね?
ネル様一筋のはずだけど、京奈ってゲーム得意じゃなかったし、悲劇のネル・エンドにすごく怒ってた印象しかない……。
会えたら聞いておこう。
こうして迎える最終決戦。
本来なら、デゼルは抗魔力SS、回避力SS、回復魔力SSで、魔封じがききづらく、攻撃も当たりにくく、魔法も通りにくく、さらに全体回復してきて、あまつさえ魅了の全体攻撃スキルを使ってくる強敵なんだけど。
デゼル戦には、ユリシーズ戦のメンバーそのままで楽勝できる裏ワザがあるらしいの。
『鬼畜ヒロイン道』っていう攻略サイトに載ってた。
モブリーダーのHPが3割以下の状態でモブリーダーが狙われると、デゼルがモブリーダーを庇って、そのターンの行動がキャンセルされるんだって。しかも、庇うデゼルは回避しないから、確実に攻撃を当てられる。
モブリーダーのHPは最高火力の範囲攻撃アイテムを2回使うと残り2割になって、ザコモブに至ってはそれで全滅。
だから、ユリシーズ戦で魔封じを使わせた速攻キャラにそのアイテムを持たせて、モブリーダーのHPを削らせる。
余裕があるなら、モブリーダーに魔封じをかけて、モブリーダーのヒールも封じる。
あとはすべてモブリーダーへの攻撃にしておけば、最初のターンからデゼルの行動はすべてキャンセルできるんだって。
サイファを人質にとって嬲り殺しとか、まさに『鬼畜ヒロイン道』の名に恥じない攻略方法だと思う……。
デゼルとしては、すごく、やめて欲しい。
それはともかく、モブリーダーが生きている状態でデゼルのHPが2割を切ると、デゼルがモブリーダーの命乞いをするイベントが発生するの。
「お願い、私はどうなってもいいから、彼だけは見逃して」
選択肢はみっつ。
【見逃すには、あなた達は罪を重ね過ぎた】
【わかった、でも、あなたは見逃せないわ】
【降参してくれるなら、二人とも見逃すわ】
二人とも見逃すを選ぶと、
「だって私は、あなた達が本当は優しい人達だと知っているもの」
こう言いながら、ヒロインが手を差し伸べるんだけど、ヒロインが月齢の首飾りを持っていない場合のデゼルは、
「ありがとう、あなたはやっぱり優しい人」
そう言い残して、自決してしまうの。
ヒロインが月齢の首飾りを持っている場合には、同じように言い残してデゼルが自決しようとするのを、ヒロインが止める。
「駄目よ、あなたが死んでしまったら彼が悲しむわ! 残される方がつらいのよ、だから、ネプチューン様は罪を犯してしまったの。誰よりも、優しい人だったのに」
「……あなたは本物の聖女様なのね。私にはできなかったけれど、あなたになら、ネプチューン様のことも救えるかもしれない」
自決を思いとどまったデゼルが『ネプチューンの緑石』をヒロインに渡してくれるの。
「この緑石を、月齢の首飾りのペンダント・トップにして持っていれば、いつか必ず、あなたとネプチューン様をもう一度巡り会わせてくれるはず。あなたに幸運を」
そう言って、デゼルはサイファと一緒に退場する。
デゼル・エンドなら、サイファは最後まで死なない。
エンディングで、再び巡り会ったヒロインとネプチューンを遠くから、デゼルとサイファらしき人影が見守っている絵が入るんだもの。
ここで、デゼルのスチルも獲得。
このスチルのデゼルがとっても綺麗で、デゼル派の乙女達の間では至宝の一枚。
――だから。
サイファがデゼルのモブリーダーなら、シナリオ通りに進めれば、サイファは救えるはずなの。
デゼルは厳しいけど、サイファだけなら――
デゼルは悲劇のヒロインなんだって、急に、思い知らされた気がして、たまらなく怖くなったけど。
「デゼル、どうしたの?」
「わかんない、怖い夢を見たの――」
震えながら泣く私を宥めてくれるサイファの腕の中が、優しくて心地好くて、すごく、安心できるから。
私、サイファが傍にいてくれたら、きっと、頑張れると思った。
まずは、クライスの闇落ちを全力で阻止するところから。
クライスの闇落ちを阻止できるなら、私の闇落ちだって、ユリシーズの闇落ちだって、きっと、阻止できるよね。
まだ、三年あるんだもの。諦めることないよね。






