第24話 怖い夢
私、本当は怖いの。
ユリシーズの火傷をすぐに癒さないのは、ネプチューンが帝位につくまでの間は、シナリオの呪いがまた発動するかもしれないと思うから。
癒したそばから、また、隻眼になるような何かが起きたら目も当てられないもの。
だから、ユリシーズを癒すのは、シナリオの変更に成功したという手応えを得てからにしたいの。
水神の奥義は三度までしか、使えないんだもの。
それに、デゼルの悲劇も――
水神様の祝福もあるし、デゼルの闇落ちイベントは阻止できるはずだと思うんだけど、なんだか、不安なの。
隻眼になったユリシーズを見て、運命の強制力を思い知ったのかもしれない。
だから、サイファになら、もっと、されたかったのかもしれない。
初めては、サイファがいいの。
私のぜんぶを、サイファがしたいようにして欲しいの。
私、もしも、デゼルの闇落ちイベントを阻止できない時には、死ぬつもりでいた。
でも。
サイファは公国と運命を共にするんだと思ってたけど、ユリシーズのモブリーダーはまず間違いなくジャイロだし、だとしたら、デゼルのモブリーダーもサイファよね?
サイファがデゼルのモブリーダーだとしたら、シナリオの通りになってしまった時にも、私が生きていれば、サイファも生き残れる――
それを考えたら、ゾクっとして、怖くてたまらなくなったの。
だって、そうだとしたら。
私が死を選んだら、サイファを殺すことになる。
「デゼル、どうしたの?」
いつの間にか、私、泣いてた。
「わかんない、怖い夢を見たの――」
**――*――**
ヒロインが最初にデゼルと出会うのは、聖サファイア王国の森の中。
デゼル率いる闇主軍団にヒロインが襲われるの。
だけど、これは、旅人ネルに扮したネプチューンがヒロインに近づくための狂言よ。
苦戦するヒロインをネルが助けに入って、闇主軍団をネルが斬り捨て始めると、デゼルが冷たく笑って言うの。
「あら、聖女様は運がいいのね。今日のところは退くことにしましょう」
デゼルを庇ったザコの闇主が斬り捨てられても、顔色一つ変えずに、モブリーダーの闇主、つまり、サイファと一緒にデゼルは去る。
この邂逅で、デゼルは魅了スキルで逆ハーレムをつくったあげく、そのメンバーを使い捨てる冷酷な魔女としてヒロインに認識されるの。
ヒロインが二度目にデゼルと出会うのは、とある小さな村が山賊に襲われた時のこと。
村人に助けを求められたヒロイン達が駆けつけると、山賊とデゼルの闇主軍団が戦っていて。
駆けつけたヒロイン達に気づくと、デゼルは逃げ遅れた小さな子供をさらって、サイファと一緒に去ろうとするの。
この時、ヒロインはデゼルの魅了を解くための杖を手に入れているから、させまいとしてサイファに使うんだけど、サイファには効果がないのね。
どうして、とあせったヒロインが同じ杖を闇主軍団に使うと、魅了を解いてもらってヒロインに感謝するはずの闇主軍団が、山賊と一緒になってヒロインに襲いかかってくるの。
デゼルの闇主軍団は、魅了が解けるとかえって悪逆の限りを尽くすという、衝撃の事実が明らかになるイベントよ。
さらわれた子供だけど、ヒロインが村に戻ってみると、無事に家に帰っているの。
「やさしいおねえちゃんと、おにいちゃんがたすけてくれたの。おねえちゃん、きれいだったぁ」
子供はこれしか言わない。
このイベントから、次のイベントまでの間にオプスキュリテ公国の廃村を訪ねると、近くの洞窟のかべに『しにたい』って、子供の字で書かれていて。
廃村にぽつんと佇む老婆が、その洞窟について話してくれるの。
「公国が滅ぼされた戦争の時にねぇ、綺麗な銀色の髪の可愛い女の子が、ならず者達にさらわれてきて、あの洞窟でひどい目に遭わされていたみたいなんだよ。だけど、誰にもどうすることもできないでいたら、ある日、黒髪の立派な青年が現れて、次の日には、ならず者達も女の子もみんないなくなっていた。争った跡さえなかったのが不思議でねぇ」
それから、『壊れたイヤリング』をくれるの。
「あの洞窟で拾ったんだけど、あなたは旅をしているようだから、いつか、落とし主を見つけたら返してあげておくれ」
どう考えても、無理のある『老婆のお願い』なんだけど、ゲームだから落とし主は見つかるし、落とし主は壊れたイヤリングを探しているの。
そう、デゼルよ。






