第23話 悪役令嬢は町人Sを割とSだと思いました
寝台に寝転がったサイファが、水晶球とにらめっこしている私を見た。
「ねぇ、デゼル。何してるの? まだ、寝ないの?」
「うん、もう少し――」
闇の十二使徒のことだけでも、急いで調べておかなくちゃ。
それぞれを、いつまでに、どこで助けないといけないのか、私は攻略ノートに書き出していく。
急ぐのはクライスで、あと一週間しかなかった。
完全攻略ガイドに、闇の十二使徒がそれぞれ、いつどこで闇落ちするのか網羅してあったの。
私とユリシーズ、ゲイルとクライスで四人。
残りの八人はそこまで急がないけど、トランスサタニアン帝国の出身者ばかりだから、会うのが難しそう。
時の神殿の場所も調べて、地図を写した。
そこでふと、私を眺めているサイファと目が合ったの。
「サイファ様……」
私がついふらふら、サイファのとなりに潜り込むと、サイファが微笑んで、抱いてくれた。
優しくて、心地好いの。
私、こんなに幸せな気持ちって、他に知らない。
しばらく、そのまま、抱いてもらってた。
そのうち、私を真剣に見詰めたサイファが、いつかみたいに、額に、耳元に、唇に、優しいキスを降らせてくれた。
「――デゼル、抱いてもいい?」
サイファ、ショックだったのね。
夢中で気づかなかったけど、後で鏡で見たら、スプラッタだったもの。
でも、契るのは無理よ?
「サイファ様なら、いいよ。――闇主にはなれないけど」
「そう――」
サイファが嘆息して、それでも、私を抱き寄せてくれた。
「どうしたら、デゼルを守れるんだろう」
サイファはできることは、みんな、してくれているの。
私に生活の仕方を教えた後、戦闘訓練も受けて、闇魔法の練習もして、学校の宿題だって、真面目にしているもの。
「私ね、明日にも、クライス様に会いに行きたいの。それから、時の神殿を訪ねて、時の精霊を探して回りたいの。誰とも戦ったりはしないはずだから、私が迷子にならないように、サイファ様が地図を読んで道案内してくれたら、守れると思う」
虚を突かれた顔で私を見て、ぷっと、サイファが吹き出した。
「そういえばデゼルって、一本道でも迷うもんね」
「そうよ。だから、サイファ様がついてきてくれないと、目的地にたどり着けないんだよ。デゼルはまじめに言ってるんだよ」
つないだサイファの手に、そっと、キスしてみた。
「サイファ様も、きっと、三年後までには闇主になれると思う。すぐには無理だけど。だから、ジャイロが死鬼になってくれて、よかったかもしれないと思うの。危ない所には、ジャイロと三人で行こう?」
「……それって、僕が行ったら、足手まといになるんじゃないのかな」
「サイファ様は、足手まといなんかじゃないよ。サイファ様にしか頼めないことがたくさんあるもの。ジャイロにしか頼めないこともあるし、私が頑張るしかないこともある」
ジャイロがアタッカーで、サイファがヒーラーなら、バランスはむしろいいと思うの。
水神にモードチェンジできる上、闇巫女としての地位もある私は、単独行動が多くなりそうだから、私が一人で動いている間、二人で、身を守っておいて欲しいの。
ジャイロを一人で放っておいたら、どんな騒ぎでも起こしてくれそうだし。
「――こうして抱いていたら、少しは、力になれるの?」
わぁっ。
サイファって、私がだっこされたがるから、だっこしてくれてたんだ!?
私は真っ赤になって、こくんとうなずいた。
「ふふ、可愛い」
わぁっ。
私が真っ赤になった顔を隠そうとした手をサイファがつかんで、見詰めるのよ。
「や、サイファ様」
「抱くのとかって、どうしたらいいのかな。えぇと、こう、つかむとこうだから……」
わぁっ。
今から、そんなこと考えなくていいよ!
「サイファ様、よい子は寝る時間だよ、デゼルわかんない!」
ほんとうに、わからないのよ。
サイファとしか、一緒に寝たことないんだもん。
キスだって、サイファとしかしたことないのよ。
「そうだね、わからないけど、したいようにすればいいのかも。その時になったらできそう。デゼルが可愛いから」
わぁっ。
サイファったら、まだ、私の両手をまとめてつかんだままなのよ。
そんなこと、すぐ傍から見詰めながら言わないで。私、きっと、耳まで真っ赤になってる。
「……ん…ぁっ……」
「デゼル、こうするといい?」
「や、サイファ様っ……」
やめてやめて、サイファ、S気あるッ!
私がよがって息を詰めると、私が涙ぐんでるのに、こうがいいんだねって言うのよ。
知らない、知らない、何されてるのかわかんないッ!
「ごめんね、震えてる。もう、しないから」
ひっく、ひっくと、しゃくりあげる私を宥めるように、サイファが優しく言って、つかんでいた手をはなしてくれた。
「しても、いいよ……」
「だってデゼル、泣いてるよ」
どうして泣いてるのか、自分でも、わからないのよ。
許してもらってほっとしたけど、私が泣いていても、サイファになら、もっと、されたかったような気も、する、ような。しない、ような。
「また、今度にしようね」
「うん……」






