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悪役令嬢と十三霊の神々 ~悪役令嬢はどうしても町人Sを救いたい ~  作者: 冴條玲
第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ
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第21話 闇幽鬼と死鬼

 私が攻略情報を当たっている間に、マリベル様がユリシーズに神癒術(リザレクション)をかけて下さったようなのだけど、やっぱり、癒せなかったの。

 それと知ったユリシーズが、鏡に映る醜悪な己の顔を見て、狂ったように絶叫し、棚の上に置かれていた短剣に手を伸ばし――


 死ぬつもりで胸を突いて、さらに、その短剣を抜いたの。

 真っ赤な鮮血が、止めようとしたジャイロを朱に染めていた。


「ユリシーズ、待って! マリベル様、止血と神癒術を!!」


 私がユリシーズの手から短剣をもぎ取りながら叫んだのと、ジャイロが咆哮を上げたのは同時だった。


「許さねぇ、ゲイルゥラァアアア――!!!!」


==============================

 ユリシーズが闇幽鬼スペクター【Lv1】に覚醒しました。

 ユリシーズのすべてのステータスが三段階上昇しました。

 ジャイロが死鬼【Lv10】に覚醒しました。

 ジャイロのすべてのステータスが二段階上昇しました。

==============================


 死鬼!?


 ジャイロから衝撃波のようなかまいたちが放たれた。


「サイファ、前に出ては駄目!!」


 サイファを背中に庇って両手を広げた私の腕を、頬を、脚を、かまいたちが裂いた。

 こんなの、抗魔力Gのサイファが直撃されたら死んじゃう!!


「デゼル!」


 サイファも絶叫したけど、それどころじゃない。

 私は精神の混乱を鎮める闇魔法をジャイロに放つと、駆け寄って、その頬を渾身の力で平手打ちした。

 血まみれの手で。


「ジャイロ! 正気にかえって!! あなたがゲイルに返り討ちにされたら、誰がユリシーズを守るの!? 私が守ると思わないで! 私なんて簡単に死ぬ、見なさいよ、簡単に死ぬんだから!!」


 ケダモノのような唸り声を上げながら、ジャイロが私を見た。


「……殺す……ゲイル、殺してやる!!」

「ジャイロ!」


 また、ジャイロの全身から衝撃波が放たれた。


 切り裂かれた私の悲鳴を聞いて、サイファが庇おうとするのを懸命に止めた。

 サイファが前に出ては駄目!

 私は抗魔力Aだからこれで済んでるの、サイファが出ては駄目!!


「うぉおあぁああああああ」


 私はもう一度、精神を安定させるための闇魔法をジャイロに放った。


「ジャイロ、ユリシーズ、聞いて! ユリシーズの火傷(やけど)は癒せる、私が!!」


 ジャイロの狂戦士化に、ようやく、ブレーキがかかった。


「ユリシーズの火傷は癒せる、私が!!」


 もう一度、声を張り上げた。

 ユリシーズの頬から涙が落ちた。


 サイファの声がして、優しい翠の光が私を包んだ。

 ああ、私、血まみれだったのね。

 サイファが癒術(ヒール)を使ってくれたの。


「…デゼル……?」


 ジャイロがようやく、自分がどこにいるのか気づいたように、いくらかの正気が戻った目をして私を見た。


「ユリシーズの火傷(やけど)は癒せる、私が。はやまらないで」


 私はもう一度、ゆっくり言った。


「でも、マリベル様が、癒せないって……」


 ユリシーズが泣きながら顔を覆った。


「……闇巫女には生涯のうちに三度だけ、どんな病も怪我もたちどころに癒す奥義があるの。私がその奥義を使い切る前に、トランスサタニアン帝国の帝位に第二皇子ネプチューンが就いた時には、ユリシーズ、あなたの火傷を癒せる」

「いつだ、それ?」

「三年後に、ゲイルがネプチューンの命を受けて皇帝と皇太子の首を取るはずよ。今のジャイロじゃ、まだ、ゲイルには勝てない。倒すことより、償わせることを考えて」

「ゲイルはユリシーズに償うようなタマじゃねぇよ!」

「償いの意思は問わない。ゲイルは帝国での栄達のために、第二皇子を助ける。それでいいの」


 その場にどっかと座り込んだジャイロが、私を見た。


「デゼル、わりぃ。それ、オレがやったのか」

「そうね。サイファが殺されなかったから、別にいいよ」

「よかねーだろ」


 血だまりになってんぞと、ジャイロが床をじっと見詰めた後、顔を覆った。


「オレは、何したんだ……? 何が起きたんだ」

「ユリシーズの血を浴びて、『死鬼』の力を得たのよ。闇巫女の闇主みたいなもの。闇幽鬼(スペクター)狂戦士(バーサーカー)を死鬼と呼ぶの」

「闇幽鬼って……ユリシーズがその、闇幽鬼とかなのか?」

「うん。ジャイロ、今は我慢して。ユリシーズを守っていれば、ユリシーズは必ず、ゲイルなんて足元にも及ばない魔力と地位を手に入れる」


 ほんとうよ。

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