第21話 闇幽鬼と死鬼
私が攻略情報を当たっている間に、マリベル様がユリシーズに神癒術をかけて下さったようなのだけど、やっぱり、癒せなかったの。
それと知ったユリシーズが、鏡に映る醜悪な己の顔を見て、狂ったように絶叫し、棚の上に置かれていた短剣に手を伸ばし――
死ぬつもりで胸を突いて、さらに、その短剣を抜いたの。
真っ赤な鮮血が、止めようとしたジャイロを朱に染めていた。
「ユリシーズ、待って! マリベル様、止血と神癒術を!!」
私がユリシーズの手から短剣をもぎ取りながら叫んだのと、ジャイロが咆哮を上げたのは同時だった。
「許さねぇ、ゲイルゥラァアアア――!!!!」
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ユリシーズが闇幽鬼【Lv1】に覚醒しました。
ユリシーズのすべてのステータスが三段階上昇しました。
ジャイロが死鬼【Lv10】に覚醒しました。
ジャイロのすべてのステータスが二段階上昇しました。
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死鬼!?
ジャイロから衝撃波のようなかまいたちが放たれた。
「サイファ、前に出ては駄目!!」
サイファを背中に庇って両手を広げた私の腕を、頬を、脚を、かまいたちが裂いた。
こんなの、抗魔力Gのサイファが直撃されたら死んじゃう!!
「デゼル!」
サイファも絶叫したけど、それどころじゃない。
私は精神の混乱を鎮める闇魔法をジャイロに放つと、駆け寄って、その頬を渾身の力で平手打ちした。
血まみれの手で。
「ジャイロ! 正気にかえって!! あなたがゲイルに返り討ちにされたら、誰がユリシーズを守るの!? 私が守ると思わないで! 私なんて簡単に死ぬ、見なさいよ、簡単に死ぬんだから!!」
ケダモノのような唸り声を上げながら、ジャイロが私を見た。
「……殺す……ゲイル、殺してやる!!」
「ジャイロ!」
また、ジャイロの全身から衝撃波が放たれた。
切り裂かれた私の悲鳴を聞いて、サイファが庇おうとするのを懸命に止めた。
サイファが前に出ては駄目!
私は抗魔力Aだからこれで済んでるの、サイファが出ては駄目!!
「うぉおあぁああああああ」
私はもう一度、精神を安定させるための闇魔法をジャイロに放った。
「ジャイロ、ユリシーズ、聞いて! ユリシーズの火傷は癒せる、私が!!」
ジャイロの狂戦士化に、ようやく、ブレーキがかかった。
「ユリシーズの火傷は癒せる、私が!!」
もう一度、声を張り上げた。
ユリシーズの頬から涙が落ちた。
サイファの声がして、優しい翠の光が私を包んだ。
ああ、私、血まみれだったのね。
サイファが癒術を使ってくれたの。
「…デゼル……?」
ジャイロがようやく、自分がどこにいるのか気づいたように、いくらかの正気が戻った目をして私を見た。
「ユリシーズの火傷は癒せる、私が。はやまらないで」
私はもう一度、ゆっくり言った。
「でも、マリベル様が、癒せないって……」
ユリシーズが泣きながら顔を覆った。
「……闇巫女には生涯のうちに三度だけ、どんな病も怪我もたちどころに癒す奥義があるの。私がその奥義を使い切る前に、トランスサタニアン帝国の帝位に第二皇子ネプチューンが就いた時には、ユリシーズ、あなたの火傷を癒せる」
「いつだ、それ?」
「三年後に、ゲイルがネプチューンの命を受けて皇帝と皇太子の首を取るはずよ。今のジャイロじゃ、まだ、ゲイルには勝てない。倒すことより、償わせることを考えて」
「ゲイルはユリシーズに償うようなタマじゃねぇよ!」
「償いの意思は問わない。ゲイルは帝国での栄達のために、第二皇子を助ける。それでいいの」
その場にどっかと座り込んだジャイロが、私を見た。
「デゼル、わりぃ。それ、オレがやったのか」
「そうね。サイファが殺されなかったから、別にいいよ」
「よかねーだろ」
血だまりになってんぞと、ジャイロが床をじっと見詰めた後、顔を覆った。
「オレは、何したんだ……? 何が起きたんだ」
「ユリシーズの血を浴びて、『死鬼』の力を得たのよ。闇巫女の闇主みたいなもの。闇幽鬼の狂戦士を死鬼と呼ぶの」
「闇幽鬼って……ユリシーズがその、闇幽鬼とかなのか?」
「うん。ジャイロ、今は我慢して。ユリシーズを守っていれば、ユリシーズは必ず、ゲイルなんて足元にも及ばない魔力と地位を手に入れる」
ほんとうよ。






