第17話 悪役令嬢は闇の使徒に撒き餌する
夏休みを間近に控え、算数のテストが返却された日のこと。
「あら、デゼル、四十点? お姉さんが教えてあげようか?」
私を魔女だと思っているマリアが、声をかけてきた。
別に、悪い子じゃないのよ。
私が自分で、名探偵コナ〇してまで、そう思ってもらったんだもの。
強いてマリアの悪癖をあげるなら、わざわざ、気に入らない子に絡みにいくタイプだってこと。
「サイファに教えてもらうから、できなくていいの。でも、心配してくれてありがとう」
汚い字で書かれた名前を消して、私はテストを丸めてゴミ箱に捨てた。
誰かの答案と取り替えられていたの。
別に、満点の答案が欲しければあげるんだけど、このクラスの先生は真面目だから、バレてると思う。
例によって、私の答案は途中計算がおかしくて、算数のテストなのに数学だもの。
それに私は今、それどころじゃないの。
限られた時間を有効に活用するために、算数の時間も国語の時間も、授業を無視して生活の教科書を読んでいたら、先生に取引をもちかけられたの。
私が算数の時間の半分を、先生の知り合いのために使うなら、私が授業をサッパリ聞いていないのは不問に処してくれるんだって。
その知り合いっていうのが、驚いたことに、闇の十二使徒の一人クライス・アスターだったのよ。
だから私は、一も二もなく引き受けた。
闇の十二使徒との縁は大事にしたいの。公国の滅亡を阻止するにあたって、協力を仰ぐ必要があるもの。
「えーと、これでいいかな」
いくつかの公式を書いて、これらの公式が成り立つことを証明せよ、と。
クライスが数学の専門書を書くためのネタの提供なんだけど、クライスは今、愛する一人娘の命がかかった、医術の研究に没頭しているの。大公に叱責されてもやめない、彼にとっては最優先の研究よ。
だから、私にネタを出させて、助手に専門書を任せたいのね。
だけど、彼の研究は無惨に失敗し、娘さんは亡くなってしまうシナリオなのよ。
それでクライスは闇落ち、マッド・サイエンティストとして悪の帝王に仕えることになるんだけど、私はこのシナリオを阻止したい。
彼の娘さんが亡くならないようにしたい。
そのために、まずは、クライスの興味と関心、信用を獲得しないことには話もできないから、先生に頼まれた仕事を引き受けてみたの。
「……これ、何なの? 宇宙語?」
私の手元を見て、マリアがぽかんとする。
「数学だよ」
「すうがくって、中学生がやるやつ?」
「かな?」
いつ、習ったかまでは覚えてないけど。
「ホームルームだぞー、着席!」
先生が夏休みの自由研究について話を始めたところで、私は質問のために手をあげた。






