第16話 悪役令嬢は水神を選ぶ
「水神様の祝福を」
「え。」
軍神マルスがあきれた顔で私を見た。
「水神ねぇ。嵐を起こして敵艦隊を海に沈める方がお好みかな?」
「私が生きている間に、戦争になることはないと思います」
必ずしも、私なりのやり方で成功すると思っているわけじゃないよ。
だけど、失敗した時には、私は生きていないと思うの。
その意味で、私が生きている間に、戦争になることはないと思う。
「まぁ、それがデゼルの選択ならな。言い忘れたが、俺達、残り三霊の神からの祝福は、選んだ神――水神の承認を得てからだ。水神の承認を得ることができた時には、また、聖杖に祈って俺達を呼べ」
「わかりました」
水色の人魚のような女神様が、中空を泳ぐようにして私のそばを通りすぎると、心地好い冷たさの水の流れの中に放り込まれたような、不思議な感覚の後、すべてが元に戻ったの。何もかも、幻だったかのように。
キンコーン
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闇巫女デゼルに水神ウンディーネからの祝福が与えられました。
精霊の祝福により、魔力と抗魔力が一段階上昇し、生命の水【Lv1】が付与されました。
さらに、水神にモードチェンジすることにより、水を支配できるようになります。
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モードチェンジって何だろう。
『叡智』の出番ね!
【モードチェンジ】 「モードチェンジ、〇〇」と宣言することで、モードチェンジできます。戻る時には「モードチェンジ」とだけ宣言します。
やってみよう。
「モードチェンジ、水神」
さっきと同じ、水の流れの中に放り込まれたような不思議な感覚の後、体が宙に浮いたの。
鏡を見れば、水神になってる!
グラスの中の水を動かしてみたら、簡単に、思った通りに動くのよ。
水神モード、強力すぎないかしら。
軍神マルスの祝福も、授かれば一人で帝国軍を焼き払えると仰ってたけど……。
ゲームバランスとか、存在しないのかしら。
ううん、違う。そうじゃない。
ここは乙女ゲームの世界。
乙女ゲームの目的は敵を倒すことではないもの。
ゲームバランスは崩壊していない。
私は悪役令嬢。
ネプチューンを倒すことがゲームの目的ですらない。
恋愛の成就が目的でもないはず……。
あれ?
私は何をしたら、このゲームをクリアしたことになるんだっけ?
あれ???
困ったときの『叡智』よね。
このスキル、最初はしょぼく感じてしまったけど、すごく使える。
メティス様ごめんなさい。
ご助力に心から感謝します。
【ゲームクリア】 十三霊の承認を集め、主神に三つの願いを叶えて頂きましょう。
あ、そうか。
私って、そのためにこの世界に送り込まれたんだった。
でも。
私がサイファと公国を守りたいのは、ゲームなんかじゃない。
それは、私の個人的な目的にすぎないから、ゲームバランスがおかしいように感じるのね。
私の優先順位の問題――
私はどきんとして、どきどきしてきて、そっと胸をおさえた。
どうしよう。
思っていたよりも、ずっと、たいへんなことを引き受けてしまった。
途方もない数の人命を左右できる力を授かってしまった。
私、こんなに大それた力を使いこなす自信ない。
私じゃなければ、もっと、たくさんの人に幸いをもたらせたかもしれないのに。
……。
でも、今さら、そんなことを考えても仕方ないのね。
後戻りはできないもの。
私の最善を尽くして、応えるしかできない。
だから、ただ、そうしようって――
遠い昔に決めたのよ。
私の最善の選択は水神。
この選択が、私の限界。
だから、信じて頑張ろう。






