第95話 願いの枠が余ったので
「……」
今朝まで、ついさっきまで、サイファもエトランジュも笑っていてくれたのに。
二人とも、澄んだ翠の瞳をキラキラさせて、すごく綺麗な、天使みたいに優しい顔で笑うの。
天使みたいな顔で笑うのに、時々、いたずらするの。
幸せだった。
私、他に何もいらなかった。
それなのに、どうして、神様に願いをかけようなんてしたの!?
サイファとエトランジュが冷たいよ、動かないよ、どうして――!!
「……」
片手で顔を覆った指の隙間から、後から後から、涙が伝い落ちてサイファの頬に滴った。
私はもう、立てないよ。
もう、動けないよ。
願いはないの。
もう、何もないの。
心を千切られて、体をばらばらにされたみたいに痛いの、苦しいの。
神々の祝福なんて授かっていたって、私一人じゃ、きっと、使い方を間違うだけだよ。
私はどこを向いているの。
私はどこへ向かえばいいの。
「願いはない?」
サイファとエトランジュの亡骸を抱いて慟哭し続ける私に、主神が優しく尋ねてくれた。
願い事、ひとつだけ。
あったの。サクリファイスも選んだの。
だから私は少しだけ、微笑んだ。
サイファとエトランジュの分の願い事はどうしようかな。
私はひとつでいいの。
サイファだったら、何を願ったかな。
『僕はどうなってもいい、デゼルもどうなってもいい、ケイナをエリスから解き放て! 僕に従え、デゼル』
「――願いをかけます。世界から、すべての呪いと悪意が拭い去られ、世界が二度と、それらに侵されることのないように」
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闇巫女デゼルの第一の願いがストックされました。
死の神タナトスの承認後に、叶えられます。
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エトランジュは――
エトランジュなら、何を願ったのかな。
……。
わかんない。
エンディングで見た、闇巫女デゼルが百万人の命を救ったって凄いね。
私、私にそんなことができるなんて夢にも思わなかった。
神様に選ばれていなければ、死ぬまで、あのまま遊び暮らしていただけ。
だけど、エトランジュまで殺さなくていいのに――!
私も殺したの。
私のために、何の罪もない命を一つ犠牲にしたの。
百万人の命が助かるなら、尊い犠牲なの?
わからない。
私には、わからない。
サイファ。サイファ。
教えて。
私、どうしたらいい?
サイファが傍にいてくれた時の私になら、わかってた?
サイファが愛してくれた私の願いは、正しかった?
サイファもエトランジュも、神様が創造って、神様に還ったの――
ずっと、私より、神様の方がこの力でみんなを幸せにできるんじゃないかと思ってた。
今は、わからない。
だけど、サイファが傍にいてくれた時の私の願いなら、サイファの願いでもあった?
「――願いをかけます」
私は真っ直ぐに主神を見詰めた。
優麗な神。
サイファとエトランジュを創造した神。
百万人の命を救える闇巫女を選んだ神。
犠牲に選ばれたのだと知って、私だけならまだしも、サイファとエトランジュまで犠牲に選んだ神だと知って、今は、心が乱れるの。
だけど、私の願いはひとつだけ。
願いの枠は余っているもの。
「神様のご開運を。神様の願いがすべて叶い、神様の望む理想の世界が、すべての生命に幸いをもたらすものでありますことを」
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闇巫女デゼルの第二の願いがストックされました。
闇巫女デゼルに死の神タナトスの承認が与えられました。
闇巫女デゼルが十三霊の承認をそろえ、神の試練をクリアしました。
闇巫女デゼルの第一の願いと第二の願いが叶えられます。
闇巫女デゼルは最後のサクリファイスを選定し、最後の願いをかけて下さい。
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胸がざわめいた。
神の試練をクリア……?
何のこと、死の神の承認条件って、まさか
駄目、考えては駄目!
私、このまま生きていたら神様を憎んでしまう!
はやく、はやく、最後の願いは決まっているの。
「最後の願いのサクリファイスを選定します――ターゲット・デゼル」
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第三の願いのサクリファイスが選定されました。
【デゼル】
デゼルに死の宣告が降りました。
闇巫女デゼルが第三の願いをかけた三十秒後に、デゼルが絶命します。
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サイファとエトランジュを返してもらえないなら。
“ 私をサイファとエトランジュのところへ ”
私が、二人のところに逝けばいいよね。
どうか、もう一度――
「待て、デゼル、願いをかけるな!」
【次回予告】 エリス ~最高に悲惨な慟哭に胸がときめくわ~
ああ、デゼル、最高よ。その悲哀、その絶望!
そう、主神なんかに騙されたあなたがサイファとエトランジュを殺したのよ? 馬鹿ねぇ?
そう言って、煽ってあげられないのが残念だけど、ゾクゾクしちゃう。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/971438146/episode/4753594
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【ご感想】羽海様より
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主神、どんなに優しく接しても主神がこの恐ろしいことを企画したのに変わりはありませんよね…?
神様の開運が条件だなんて、性格が悪すぎます…
☆ 返信 ☆
エリス様が言っていたように、『神様によい思いをさせてもらっている人間』が「神様にもよいことがありますように」と願うのは当たり前だと、そんなものが愛か? くだらないなとルシ様に挑まれて、
ならば、どれほど恐ろしく酷い目に遭わされても、なお、それを願う人の子がいたら愛を認めるのかと、そうして始まったゲームだったのでした。
恐ろしく残酷な仕打ちはルシ様にさせなければルシ様が納得しない(そんなの全然、恐ろしくもなければ残酷でもないって言われる)ため、十三霊の中にエリス様が配置されたのでした。
なお、最後の試練はルシ様のリクエストではなく、主神が定めたものなので、エリス様に「ルシフェルでさえ、ここまで冷酷にはなれないわ」とか褒めちぎられていましたが、主神が定めたからには、ただ残酷なだけではない深い意味があったりします。
ご興味を頂けましたら、ぜひ、サイファ編のクライマックスにもご期待ください♪
(*´∇`*)b
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【ご感想】しき様より
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この状況で最初の願いを忘れずに伝えられるのは尊敬します。悲しみで我を忘れないところ、サクリファイスに選ばれてしまった二人の意志を尊重しようとするところがデゼルさんらしいです。
そしてどんな時でも神様に対する信仰心を失う事のない穢れのなさがすごいです。この状況、普通だったらいくら神様といえど疑ってしまうのではないでしょうか。だって最愛の人達を奪われたのですから…
☆ 返信 ☆
デゼるんは悲しみで我をなくしているし、信仰も揺れていますよ…!
ずっと、どうしたらさいふぁ様とじゅ。を幸せにできるかだけを考えてきたデゼるんだから、二人を失ったら絶望しか残らなくて、願いの枠が余ってしまったけど。
これがユリシーズだったら、ネプチューンとルーカスを失った悲しみは深くあれど、
ユリ「これほどの犠牲を支払わされたからには、ネプチューン様より麗しくて優秀で高収入で地位の高い若い男性に溺愛されて、ただ一人の妃になれるくらいでないと、納得が行かないわ! あ、ついでに十歳児に手を出すようなロリコンはもうイヤよ? いかなる変態も女性に暴力をふるうケダモノもお断り」
主神「… それ、『理想の王子様に溺愛されたい』『その最愛にして唯一無二の妃になりたい』の2カウントで」
ユリ「仕方ないわね、それで手を打つわ」
決して、我を忘れることはありません!( ゜Д゜)9
主神「いや… むしろ、悲しんでる…?」
ユリ「悲しんでるわよ! ルーカスを犠牲にするなんてひどいわ!」
主神「… ネプチューンは?」
ユリ「別の女を正妃に迎えるような男は、そうね、私の踏み台がお似合いかもしれないわ?」
主神「… (; ̄д ̄)」
なお、最後の願いはかけないそうです。
ユリ「アフロディーテ様の祝福は手放せない。このスキルがあったら、たいていの願いが思いのまま。容姿端麗を失ってまで叶えたい願いなんてないもの」
ルシ様と激突して人の子に試練を与えた主神と、その主神に応えたデゼるんが褒められるべきかどうかは、意見が分かれるところだと思っています。
実在の宗教のうち、人格神を祭る宗教にはありがちな展開なので、あえて議論はしませんが。(議論は歴史的に尽くされていると思うので、あとはもう、自分がどちらを選ぶかだけかなと)
第二章に頂いた素敵なご感想の数々、心のままに率直に書いて下さっている印象でとても読み応えがあったのですが、
第三章に入ると、なんというか、他の方のご感想に影響されたのでしょうか。
お行儀がよくなってしまった感じが… しき様の心を感じない…
最初から、デゼるんを褒めるという目的を持ってご感想を書かれているような、何とも言えない違和感を感じるのです… 私の気のせいでしょうか…
しき様にはもしよかったら、サイファ編のご感想もお願いしたく、
また、他の読者様にも遠慮のないご感想を書いてもらえたら嬉しいので、
べつに褒めなくていいですよ?(褒めてもいいけど)
というのは、言っておいてみたく。
今回のお話は、読者様だったら最愛の人を失くした直後、「最愛の人を返して欲しい」だけは叶わないとしたら、何を願うかを聞いてみたかったです。
デゼるんは今さら、よいこであろうと正しい願いをかけたわけじゃなく、他に願いがなかったです。
ひとの優しい夢を叶える神様そのひとの願いが叶えばいいに帰結しました。
第三章のタイトルは「願いの枠が余ったので」なのです。






