【Side】 サイファ ~たとえ、何を失ったとしても~
デゼルの綺麗な寝顔を見詰めながら、僕はそっと、ため息をついた。
デゼルが倒れた時、とっさに右腕で支えようとしてしまって、抱きとめてあげられなかったんだ。
光の使徒の人達が、デゼルをここまで運んでくれたけど。
お風呂に入って、血を洗い流して着替えるだけのことも、気を失ったままのデゼルの体を拭いてあげて、着替えさせてあげるだけのことも、片腕でするのは、簡単じゃなかった。
戦闘訓練、十年かけて頑張ってきたのに、無駄にしてしまって。
こんなんじゃ、もう、デゼルをまともに守ってあげられない。
料理だって、左腕だけじゃ――
いったい、こんなになって、この先、僕がデゼルにしてあげられることって、何があるんだろう。
ごめんね、デゼル。
考えなしに、僕はどうなってもいいなんて言って。
僕が働けなくなったら、デゼルとエトランジュが困るのに。
利き腕ごと斬り落とされてしまった、闇主の礼装の袖を見詰めるうちに、涙がこぼれた。
『デゼルよりサイファへ 永遠の愛を込めて』
袖口に銀糸で縫い込まれたメッセージ。
僕に残されたのは、少しでも誰かの役に立てそうな力は、闇主としての闇魔法くらいだけど。
目が覚めたら、デゼルはどうするだろう。
利き腕が動かない闇主じゃ、デゼルを守れない。
デゼル、僕を闇主から解放して、別の人を闇主にするのかな。
残された闇魔法の力さえ、僕は失うのかな。
こんなになって、僕が生きてる意味って、何なんだろう。
“ 俺の愛人になった方が、今より、デゼルはいい暮らしができるぜ? ”
思い出したくもない皇帝の言葉が、ふり払おうとしても耳の奥に響いた。
“ 目が覚めたら、翡翠でも蒼紫でも譲るから許してって、デゼルに伝えてくれる? デゼルは翡翠と蒼紫が好きなのよ ”
ケイナが言った、意味のわからない言葉も、気になってしまって。
よく、わからないけど、デゼルは本当に綺麗で優しくて、可愛いんだ。
片目と利き腕を失った僕より、デゼルをきちんと守れて、幸せにしてくれそうな人は、いくらでもいるんだ。
それだけは、よく、わかった。
デゼルだけじゃない。エトランジュのことだって、僕じゃない人の方が、幸せにできるのかもしれない。
十年、僕がずっと傍で、デゼルの笑顔を守ってきたのに。
別れたくないなんて思ったら、わがままかな。
そんなこと、言ったら駄目かな。
ああ、困ったな。
右目から溢れた涙がぽたぽた、滴り落ちた。
僕、デゼルの優しさにつけこんで、ズルいこと言ってしまいそうなんだ。
わかってるんだ。
僕が別れたくないって言ったら、優しいデゼルに、それでも別れたいなんて、言えるはずないことくらい。僕が望めば、デゼルは自分の幸せもエトランジュの幸せも犠牲にして、僕の傍にいてくれようとするに決まってるんだ。
こんなに、自分を怖いと思ったのは初めて。
――愛してる、なら、いいよね?
その言葉だけなら、言ってもいいよね?
はやく、デゼルに目を覚まして欲しい。それなのに、それが怖いなんて、ね。
デゼルが目を覚ましそうな様子で身じろぎしたから、僕はあわてて涙を拭いて、気持ちを落ち着かせるための闇魔法を自分にかけた。
デゼルを失うかもしれないことへの恐怖と悲しみを、少しでも和らげないと。
デゼルに何をするか、何を言うかわからない。
「デゼル、気がついた?」
声をかけると、デゼルがまだぼんやりした瞳で僕を見た。
「ありがとう。ごめんなさい、サイファ様。あなたの方が大変なのに」
少し、ほっとして、僕は首を横にふると、デゼルの手を取って微笑んだ。
嬉しかったんだ。
片目を潰された僕の顔を見ても、デゼルがいやな顔をしないでくれたから。
「デゼルは僕を庇って、ケイナや光の使徒達の魔法をすべて受けて、そのままの状態で闘ったあげく、取り仕切っていたんだよ。本当によく頑張ったね。僕は君を誇りに思う。――愛してる、デゼル」
「私のことより、サイファ様が――」
デゼルの頬を左手でなぞると、落ち着かせたはずの恐怖が、胸の奥で波立った。
デゼルに拒否されるのが、怖くてたまらなかった。
だけど、僕がデゼルにキスしても、デゼルは嫌がらなかった。
「よかった、こんなになって、拒否されるかと思った」
嬉しくて、泣きそうなのを必死に堪えて言ったのに。
「サイファ様を拒否なんてしない! 大好きよ、私、どんなになってもサイファ様が誰よりも好き。守れなくて、助けられなくて、私――」
ああ、もう。
どうして、そんなに健気で可愛いの。
僕の心の中から、闇魔法でも消せなかった恐怖と悲しみが、まるで、幻だったかのように、消えてなくなった。
その代わりに、たまらない嬉しさと愛しさがこみ上げて、笑顔がこぼれて仕方ないんだ。
「それは僕の仕事だよ。ねぇ、デゼル。僕はデゼルを守り抜いた? カッコよかった?」
僕の左手に手を添えたデゼルが、うん、うんとうなずいてくれた。
「すごく、カッコよかった。京奈を解放できたのは、サイファ様のおかげだよ。私だけじゃ闘えなかった」
「デゼルが無事でよかった」
寝台の上に身を起こしたデゼルが、僕を抱き締めて、そっと、キスしてくれたから。
僕も左腕だけで、右腕の分まで強くデゼルを抱き締めて、キスを返した。
「……片手だと、抱くの難しいね」
僕が言ったら、どうしたのかな?
耳まで紅潮させたデゼルが、消え入るような小さな声で言ったんだ。
「……サイファ様がしたかったら、私が、してみ……る……?」
えっ。
僕、吹き出しそうになっちゃった。
だって、デゼルじゃ絶対にできないよ。ほら、僕が少し、首筋に触れてあげただけで、もう、真っ赤になって動けないんだから。
「うん。じゃあ、今夜、してみて? デゼル、できなそう」
僕がクスクス笑いながら言ったら、デゼルが「えぇえ」って、情けない声で言ったんだ。
可愛いなぁ、もう。
「デゼル、元気になったら、僕達もまだケイナ達を手伝わないとね。だからって、今日はまだ、無理しないで」
「――はい」
今夜が楽しみ。
デゼル、これからも僕と生きてくれるつもりなんだね。
――よかった。
好きになったのがデゼルで、よかった。
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【番外編】闇巫女様は心配性
https://www.alphapolis.co.jp/novel/153000069/215474474
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デゼル十七歳、本編の後日談的なナニカです。
本編ではまったく語られないけど、最終章のさいふぁ様、実は帝国の近衛隊と衛兵隊を預かる実質的な№2に成長しています。正規軍の方はじゃいが預かっています。
悪の帝王の副官である悪役令嬢のモブリーダー(さいふぁ様とじゃい)ってそういうことなのでした。
(たとえ、光の聖女とそのお供達の前には、ザコでしかないとしても。)
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【ご感想】羽海様より
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もう、どうしてデゼルもサイファも、自分が必要とされていないと思うのでしょう。どうして片腕を失ったくらいで、デゼルに愛されなくなると思うのか…?
本当に、早く幸せになってくれ…
☆ 返信 ☆
幸せになったら完結なので…
エリス様「ルシフェルと主神の決着がまだよ!(`・ω・´)キリッ」
という、ゲームマスターの陰謀かもしれません…。
似たような不安を抱えてしょんぼりしている二人だけれど、
迫害を受けすぎて己の価値を見失っているデゼるんに対して、
さいふぁ様には今日までデゼるんとじゅ。を僕が守ってきたという自負があって、これからも僕が守ってあげるんだと、仲間に入れてもらえて(闇主という役割をもらえて)嬉しいなと思っていたのに、役割をこなせなくなってしまったショックと実務上のハンデが大変なことになっています。
※ 『闇巫女様は心配症』参照。
さいふぁ様、実はガラの悪い帝国の近衛隊と衛兵隊をまとめて締める、『悪の帝王の副官のモブリーダー』という超大物だったのです…!(いつの間に! 笑)
お務めたくさんあったのに、右腕が動かなくなってしまって、傍にいてもデゼるんとじゅ。のためにできることがなくなってしまったと、しょんぼりしていたさいふぁ様だけど、デゼるんがこれまで通りに頼ってくれるみたいと知って、割とあっさり立ち直りました(・∀・)
じゃい「いや、サイファはもうちょっと心配しろよ… そりゃ、俺がサポートしてやっから、なんとかなるけどよ… orz」
↑ デゼるんが悪役令嬢(お金に困っていない)だからいいけど、幼い子供のいるふつうの家庭の旦那様が利き腕を失ったら大変だと思うのです。デゼるんに出会う前のさいふぁ様がそうだったように、一家心中の危機に陥りそうです…。
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【ご感想】しき様より
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"腕が無くなって悲しい"ではなくて、"デゼルさんやエトランジュさんを守り切れないかもしれなくて悲しい"というのがサイファ様らしいです。昨日今日の関係や想いではないけど、不安になって当然ですよね。
“ 俺の愛人になった方が、今より、デゼルはいい暮らしができるぜ? ”
という台詞を気にしているんじゃないかなと思ってましたが、やはり響いてる……。ネプチューン様もサイファ様の性格を知っててこういった言い回しをしてそうなのが何というか少し厄介ですね…
サイファ様も弱さを隠してしまうタイプだから、偶にはデゼルさんにそういう部分を見せても良いんだよと言いたくなってしまいますね。
どんなサイファ様でもきっと好きだろうし、そういう部分を含めて愛しているのだろうから。
サイファ様視点のお話だとデゼルさんの初々しさがより伝わって微笑ましくなりますね!
サイファ様の最後の言葉に此処までのお話を思い出して胸がジーンとしました。雪乃さんが転生を拒否してたら出逢えなかったし、運命って予想出来ないから素晴らしいのでしょうか。
☆ 返信 ☆
ありがとうございます✨
そうなのです、羽海様へのお返事と一部かぶりますが、悪の帝王の副官として、デゼるんが取りまとめることになっている帝国近衛隊と衛兵隊を実質的に取りまとめてきたのはさいふぁ様。
さいふぁ様って、実は、すごく立派に闇主(闇巫女の守護者)として働いてきた人なので、右腕が動かなくなったりしたら、職務にすごく響きます。
デゼるんはもちろん、じゃいも助けてくれるから、たちまち潰されることはないにしても、さいふぁ様はデゼるんとじゅ。を守るために僕は生まれてきたってくらい、闇主のお仕事に誇りを持っていたので、足手まといになって、闇主として認められなくなったりしたら、とても悲しかったです。
ふだん、あまり人と比べないさいふぁ様だけど、今度ばかりはさすがに、
『僕の代わりになれそうな人たくさんいる…(´・ω・`)ショボン』
と、落ち込んでました。
それこそ、ネプチューンなんか、もともと「代われ」と言ってきてたも同然の上司なんですよね。
だけど、デゼるんの「私、どんなになってもサイファ様が誰よりも好き」の一言で、たちまち元気になれるさいふぁ様です。
さいふぁ様「デゼルが僕がいいなら、僕が頑張るしかないよね!ヾ(´∀`*)ノ ワーイ」
なお、まさにここで「捨てないで」と言えない部分も含めて、デゼるんは『さいふぁ様』を溺愛しているのです!(笑)
言えないさいふぁ様だから可愛くて、大好きすぎるデゼるんです♡(*´∇`*)
デゼるんの初々しさについてと、さいふぁ様の最後のモノローグについての素敵なコメントも、作者冥利に尽きまくりでした。感謝感激です!
ありがとうございました✨






