第86話 聖女の杖をヒロインに
「容姿端麗を【Lv10】に上げます! 誘惑!」
京奈に昇華をかけた後、私は急いで容姿端麗のスキルレベルを上げて、闇主達と光の使徒達にまとめて誘惑をかけ直した。
「動かないで! そこで待って!」
今、後始末をしている暇はないのよ。
「サイファ様!」
斬り落とされた右腕を左手で押さえて、左眼を抉られたサイファがうずくまる場所に、血だまりが広がっていくの。
このままじゃサイファが死んじゃうの!
「生命の水【Lv7】――水神の名を借りて命ずる、サイファを癒したまえ」
もう、あらゆる傷病を癒す水神の奥義は使えない。
生命の水【Lv7】が、今の私にあつかえる、最も治癒力の高い回復魔法なの。
「死なないで、死なないで、サイファ様!」
「――っ」
水神の癒術で腕がついて、傷がふさがって、今にも死んでしまいそうだったサイファの震えはおさまった。
でも、左目は潰されたままで。
「あー……右腕、動かなくなっちゃった……」
サイファが優しく笑うから、私、たまらなくなって、泣きながらサイファを抱き締めた。
「よく頑張ったね、デゼル」
しゃくり上げる私をサイファが宥めてくれたけど。
頑張ったのはサイファよ。
死ぬほど痛い思いをしたのも、もう二度と、左目を開けることも、右腕を動かすこともできなくなったのも、みんな、サイファよ。
「まだ、頑張れる?」
私は泣きながらうなずいた。
サイファが泣かないのに、私が泣いていたら駄目だもの。
私はまず闇主達に、命令を与え直した。
「デゼルの闇主に命ずる、我が命に従い、困難にある人々に救いの手を差し伸べることを喜びとせよ。傷つけることなく、魔物たちをデゼルの前に狩り出せ」
それから、ヒドい、ヒドいと、壊れたように泣き続ける京奈の傍にかがんだ。
「京奈、泣いていては駄目。あなたは聖サファイアの聖女よ」
「もう駄目よ! エリス様がいなくなって、災禍が解けた光の使徒達が私を見たあの目……! 蔑んでた! 悪魔を見る目をしてた! どうして……!? 聖女に生まれてさえ、私は醜悪な魔女なの!? どうして!!」
「違う。ユリアだった時、京奈は綺麗だった。ちゃんと、ネプチューンに愛されてた」
「私……ユリアにも転生したの……?」
「そうだよ。私にも、優しくしてくれた」
ずっと、預かっていた聖女の杖を取り出して、京奈の手に持たせた。
「京奈が持つべき聖女の杖だよ。京奈、聖女としてのあなたの力は失われていない。災いが去っただけ。ほら、私の闇主たちが魔物を狩り出した。人に戻してあげて」
京奈がおずおずと聖女の杖をふると、光が溢れて、魔物はちゃんと人の姿に戻った。
「その人を安全に町まで送ってあげて」
闇主の一人に命じて、私はポンポンと京奈の背中を叩いた。
「あなた、闇主たちにあんなことを命じていたの……」
「うん。……へんかな?」
「へんっていうか、……なんでもない」
聖女の杖をしばらく見詰めていた京奈が、首を横にふった。
「……駄目よ、光の使徒達が私を許さない。光の使徒に敬愛されない聖女なんて聖女じゃない、聖サファイアを支えられない!」
「大丈夫、見ていてね」
私はまず翡翠の前に立つと、静かに宣言したの。
「忘却【Lv4】――ターゲット・翡翠。エリスの影響下にあった京奈の記憶を抹消します」
レーテーのやわらかな聖光が翡翠を包んで消えると、はっとしたように、翡翠がきょろきょろと辺りを見回した。
「どうして――僕、どうしてあんな酷いこと! デゼル、サイファが! サイファは何にも悪くなかったのに!」
目を丸くして私と翡翠を見ている京奈に微笑みかけて、私は次々と、光の使徒達の記憶を同じように消したの。
だけど、ネルはいなかった。
京奈はさすがに、ここでネルとデートしている場合じゃないと判断して、【ネルと一緒に追う】を選択しなかったから、別行動になったみたいなの。
すべての光の使徒の記憶を抹消してから、私は誘惑も解いた。
翡翠だけ、私が期待した通りに忘却がかかったかどうか確かめるために、先に誘惑を解いたの。
翡翠が一番、素直で、思ったことをすぐ口に出すし、前に会った時にも、私を助けようとしてくれたから。
「光の使徒の皆様、意識ははっきりしていますか。私は闇巫女デゼルと申します」
光の十二使徒の目を、一人ずつ見て確かめた。大丈夫、みんな、意志の光が戻ってる。
「災厄の邪神エリスの呪いから、皆様を解放しました。皆様も、京奈さえも邪神エリスの呪いに侵され、恐ろしい事をなさったことを、覚えていますか」
翡翠が目に涙をためてうなずく横で、他の光の使徒達も青い顔をしてうなずいた。
金華と彩朱に至っては、サイファの血に染まった己の手と装束を見て、今にも倒れそうな様子だった。
「もしも、この罪を償いたいと思って下さるならば、どうか、私に力を貸して下さい。皇帝ネプチューンの魔力で魔物にされてしまった人々を、すべて、元に戻してあげたいのです。そしてまた、皆様を侵したものと同じ呪いに、ネプチューンがいまだ侵されています。私と京奈がネプチューンの呪いを解く間、ネプチューンを殺さずに抑えて頂きたいのです。ネプチューンの呪いが解けた時には、彼を許して頂きたいのです」
ちょうど、また数匹の魔物が狩り出されてきたから、今度は私が人に戻して見せた。
「デゼル、あなたはずっと、邪神の呪いを祓い、魔物に変えられてしまった人々を元に戻すために働いていたのか」
「はい」
「――私達はなんということを――もちろん、償わせてもらう。いずれの仕事にも力を貸そう」
微笑んだところで、ふっと、私は意識が遠くなって、そのまま気を失ってしまったの。
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【ご感想】羽海様より
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サイファ様、左目と右腕を失ってしまったのですね……
二人とも本当に頑張った、すごかった。
デゼルは信じられないくらい優しいですね、サイファの目を潰した京奈のことも聖女と言えて……
デゼルが一番聖女らしいのに。もう神よりも慈愛の心に溢れています。
☆ 返信 ☆
ありがとうございます。
二人とも持てる力の限り、一生懸命、頑張りました。
デゼるんに優しいと言ってくれるのは(物語の世界において)さいふぁ様とガゼルくらいで、デゼるんはあまり褒められることがないので、羽海様のお言葉を聞いたら喜びそうです(*´∇`*)
現世でも転生した異世界でも魔女裁判にかけられた悪役令嬢、安心して眠れる場所はさいふぁ様の腕の中だけだったのに、大切なさいふぁ様の右腕が動かなくなってしまった、悲しみは深く。
さいふぁ様の左目が見えなくなってしまったことも、とても、心配しています。
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【ご感想】しき様より
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京奈さんの昇華に成功したのは喜ばしい事ですが、サイファ様が……
何故こんなに誠実なお二人がこんな目に遭わなければならないのか…不条理だ……
辛いのに京奈さんを励まして奮い立たせ、光の使徒様達も助けてきちんとやる事を果たしているのが素晴らし過ぎます。
こんな場面でも落ち着いてるサイファ様の全てを寛容する精神は悟りを開いていると思わずにはいられません…
光の使徒様達も呪いにかけられていたとは言え、記憶があるので罪悪感を感じるのだろうなと思います。特に直接的に攻撃を与えてしまった彩朱様と金華様は精神的なダメージが大きそうです…。罪深きエリス様……。
ここで【ネルと一緒に追う】を選択しなかった京奈さんは図らずしも、ネプチューン様の真エンドに進んでいる…?
☆ 返信 ☆
たぶん、誠実ゆえにこんな目に遭わなければならないのです…
だからみんな、誠実に生きられないのです…
卑劣であるほど、ラクに傷つかずに生きられるがゆえに。
だけど、誠実であればこそ人を救えるので、デゼるんとさいふぁ様はそれでいいって言ってました。
さいふぁ様は悟ってる気が私もします。
すべてをあるがままに受け容れて、すべての瞬間をさいふぁ様なりの最善を尽くして生きているので、悔いなし不足なし。
さいふぁ様は脳みそがささやかだから、困る前に困るほど頭が回らないだけという説もあr(ry)
金華様と彩朱様のショックは、まさに、トラウマものだろうと思います。
エリス様の呪いがかかってたとは聞いたけど、いつ、どうして呪いをかけられたのかもわからないし、京奈ちゃんに命令された記憶も抹消されているので、なんで、さいふぁ様みたいな優しい人にこんな残虐な真似をと、エリス様恐怖性になりそうです。
シナリオ通りの真ネル・エンドは実はデゼるんがネプチューンの愛人を拒否したので破壊されてしまっています…。
アイテムだけそろえればいいと思ってる京奈ちゃん自ら、デゼルとユリシーズの運命を入れかえて成立する予備の真ネル・エンドまで破壊しているという説も…。
誰も真ネル・エンド望んでないから、破壊されても別にいいかもしれません(ぇ)
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ゲームで真ネル・エンドを見たことがない京奈ちゃんは、真ネル・エンドであってもネプチューン様は死んでしまうと、イマイチわかっていません。これは、深刻な逆恨みフラグ…!?(; ・`д・´)






