第85話 ヒロインを解き放て
「私はどうなってもいい、サイファを人質に取るのはやめて、お願いよ!」
「へぇ、本当にどうなってもいいの? たとえば、ここにいる闇主たちの魅了を解かれて、いつかのようにマワされても?」
「京奈!? そんな、何のために!」
「あなたの言葉が嘘か本当か確かめるためによ。動かないで、デゼル。動いたらサイファの目をえぐって、腕を切り落とすわよ」
「京奈、やめて!」
左手を腰に当てた京奈が、右手を胸に当てて微笑んで見せた。
どこかで見た、仕種。
京奈じゃない。
「デゼル、私、あなたが生きていてくれて嬉しいの。まずは、『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』を渡してもらおうかしら」
「――『月齢の首飾り』は渡せるよ。でも、『ネプチューンの緑石』はまだ、渡せない。まだ、魔物にされたままの人達がたくさんいるの。緑石がないと助けてあげられないの」
どうしてなの。
目をつり上げた京奈が私に光魔法を放った。
「きゃあっ」
「這いつくばって私に命乞いをしなさいよ! この期に及んで、その上から目線、何様のつもり!?」
わからない、よく言われるの、京奈だけじゃないの。
みんな、私が上から目線だって言うの。
わからないの。そんなつもりじゃないの。
私は言われるまま、地面に両手をついて、這いつくばって京奈に命乞いをした。
「お願い、京奈。サイファを見逃して。月齢の首飾りは渡します。ネプチューンの緑石も、魔物に変えられたみんなを元に戻せたら、シナリオ通りに必ず渡すから。どうか、信じて」
「そうじゃあ、ナイッ!!!」
「きゃあッ!」
さっきよりも強力な光魔法を撃たれて、さすがにこたえて、涙が零れた。
どうして、届かないの。
いつも、届かなかった。誰にも、届かなかった。私の声はいつだって、サイファにしか――
「あなた、よくも私を馬鹿にしてッ! 何なのよ、その言い方!? それじゃあ、まるで、私が悪役みたいじゃないの。あなたが悪役令嬢なのに! 私こそは聖女様なのに! あなたの目には、絶望と無力感と卑屈さがァ~ッ! 足りィ~ッ! ナイッ!!」
京奈!?
こんなの、京奈じゃないよ。
「あなたは私を馬鹿にしてる。あなたは私を蔑んでる。なんで、ここで『魔物に変えられたみんな』とやらが出てくるワケ? 余裕しゃくしゃくじゃないのよ! 穢され尽くした汚物だという自覚が、足りィ~ッ! ナイッ!!」
京奈はなんで、『魔物に変えられたみんな』をどうでもいいみたいに言うの!?
私は穢され尽くした汚物かもしれないけど、サイファが許してくれたのよ。もう、忘れていいって、抱き締めてくれたのよ。
「デゼルあなた、やっぱり、サイファの目の前で闇主たちにマワしてもらいなさい。その後、サイファの手で殺してもらうのよ? それで許してあげる。そうしたら、あなたの大事なサイファだけは見逃してあげる。汚らわしいものを美味しそうに丁寧になめて、甘い声で気持ちよさそうに鳴くのよ? そうしなかったら、サイファの両手両足、一本ずつ、切り落としてあげるからね? あなた、マワされるのが大好きだもの、初めてじゃないからできるわね」
「やめて、京奈!」
「デゼル、立って」
それまで、黙って見守っていたサイファが静かな声で割り込んだ。
「ケイナ、デゼルは這いつくばって、あなたに真剣に命乞いをしている。あなたには見えないの」
「チガアウッ!」
「ケイナ、あなたはデゼルにそんなことを望まない。思い出して」
「――! オマエに何がわかる! 私はデゼルに『そんなこと』を望むのよ! デゼルがぐちゃぐちゃに犯されて、私より惨めな汚物らしく、私に命乞いするのを見たいのッ! 愛し合ってるつもりだったオトコに捨てられて、無惨に殺される瞬間の、デゼルの絶望に彩られた目の色を見タイのヨッ!」
サイファが一度、目を伏せて、それから私を見た。
「その人はケイナじゃない、エリス様だ。いつかも言ったね、その人に跪かないで、デゼル」
にたっと、京奈が場違いに嗤った。
「あら、あなたにはわかるの? 私をエリス様だなんて光栄だわ。だけど、ちょっと、違うんじゃなァい? あなたも私に跪きなさいよ。デゼルはどうなってもいいから、僕の命だけは助けて下さいって、お願いしなさい。デゼルもそれを望んでいるワ?」
「『デゼル』」
サイファの声が、私を貫くかと思った。
私の魂の深奥に、サイファが私を呼ぶ声が響くの。
身体が震えた。
「『僕はどうなってもいい、デゼルもどうなってもいい、ケイナをエリスから解き放て! 僕に従え、デゼル』」
「――はい」
私の中にあった迷いも恐怖も混乱も。
すべて、サイファが引き受けてくれた。
私は京奈をひたと見据えると、京奈に向かって真っ直ぐに疾駆した。
「彩朱、サイファの腕を切り落として!」
「『デゼル、僕の声だけを聞け! ケイナをエリスから解き放て!』」
どこか遠くで、『私』が泣き叫んでいた。
でも、サイファの声が響いて、サイファの――
私の支配者の声が、私を衝き動かした。
京奈の肩をつかむと、私は上位スキルの宣言を開始した。
神に与えられた上位スキルを、災禍で止めることはできないの。
『すべての腐敗を焼き尽くす灼熱の浄化の炎』
「金華、サイファの目をえぐって!」
鮮血の赤が。
私の視界の隅で、鮮やかに舞った。
『大罪さえも憎悪すらも、すべてを深遠の淵に呑み込み無に帰す黄泉の水』
「――イレイズ! 闇主ども、おまえたちを奴隷にしたデゼルを襲え!」
「『デゼル、それでいい、ケイナをエリスから解き放て!』」
どうして?
涙が溢れて止まらないの。
『偉大なる軍神マルスと、慈悲深き忘却の神レーテーの名において』
「もういい、誰かデゼルを殺して!」
『今ここに災禍を封印する。【昇華】――ターゲット・京奈!』
「いやぁあああ! やめて、行かないで、エリス様!!」
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【ご感想】羽海様より
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デゼルはいい子すぎて、気持ちを理解してあげられるのがサイファだけなのかもしれません。京奈のような普通の子には、自分より他人の命を大切にする気持ちなんて分かりませんよね…(私にもわかりません)
サイファが最後の最後でデゼルを動かすのが感動…!!
☆ 返信 ☆
Σ( ゜Д゜)
いい子すぎる、だと……
そうだったのか……!
デゼるんもさいふぁ様も天然なので、いい子すぎてわかってもらえないというのは盲点でした。
つまり、デゼるんとさいふぁ様の知能には超偏りがあるというこt(ry)
なんか二人とも、魔物にされた人たちを助けてあげたいね、私(僕)たちにしか助けてあげられないから助けてあげようねって、魚が泳ぐように、鳥が飛ぶように、ごく自然に決断してしまって。
たいへんじゃんとか、損じゃんとか、危ないじゃんとか、そこまで頭が回らないハムスターカップルの明日はどっちだ(ノ∀T)
さいふぁ編を読むと、とりわけ、さいふぁ様の足りなさが際立ちます。無敵のハムスター少年S万歳☆彡
デゼるんもさいふぁ様も、周りの人達になぜかわかってもらえないのがふつうで、お互いに出会うまで、とても寂しくて悲しかったそうです。
さいふぁ様渾身の檜舞台、感動して頂けてガッツポーズです✨(∩´∀`)∩
素敵なご感想、ありがとうございました♪
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【ご感想】しき様より
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何となく京奈さんの様子がおかしいなと思ってはいましたが、まさかエリス様ご自身が降臨されていた(?)とは!!?
いやいくら京奈さんでもサイファ様の目を抉ったり、腕を切り落としたりなんてしないですものね…
余談ですが、「足りィ~ッ! ナイッ!!」の部分がツボに入ってしまって読み進めるのに時間が掛かってしまいました。(真面目な部分なのにごめんなさい)
エリス様は口調や表現が特徴的で面白い方ですね。
京奈さんと対峙する場面のサイファ様とデゼルさんが魂で繋がっているようで胸熱でした。
☆ 返信 ☆
Σ( ゜Д゜)
京奈ちゃん、サイファ様の目を抉ったり、腕を切り落としたりなんてします(汗)
もちろん、エリス様の影響でふつうではないんですが、エリス様が直々に降臨(憑依)しているわけではなくて、麻薬(災禍)中毒者みたいな感じでラリってます。
いつぞや撒かれた災禍の種が、京奈ちゃんの中枢まで根を張り蝕んで、もはや京奈ちゃんの人格は残っていないという見方もあるので、その意味ではもうこれは京奈ちゃんではないのですが。
余談ですが、真面目な部分なのにコメディに走るのは作者も同じ(さいふぁ編がエライことに)なので、お気にせず♡ヾ(´∀`*)ノ キャッ キャッ
昇華のシーンはまさに、二人が魂のレベルで共鳴したような、響き合ったような、さいふぁ様の後押しがなければ、デゼるん一人では絶対にやり遂げられなかったことなので、胸熱でしたとのお言葉、とっても嬉しいです♡
素敵なご感想、ありがとうございました♪(*´∇`*)






