第69話 悪役令嬢は天界にひきこもる
それからの七年間を、シナリオ通り、私はネプチューンの副官として『天界』で過ごすことになった。
ネプチューンがその禁断の魔力でもって、皇宮を丸ごと天界に持ち込んだんだけど、この天界っていうのが、下界より時の流れが緩やかな場所なの。
天界での一年間は、下界での三年間というところ。
『星空のロマンス』の攻略対象者達こそは、この天界の正統なる住人、光の十二使徒なんだけど。
転生したヒロインとネプチューンの年齢がなんとか釣り合うのは、こういうわけなのね。
私は十七歳に、サイファは十九歳になった。
水神や大地母神になって働く時なんかは、私は一人で下界に降りるから、サイファとの年齢の差が、半年ほど縮まったの。
ジャイロに至ってはかなり天界と下界を行ったり来たりしていたから、二十七歳になって、二十四歳のユリシーズのお兄ちゃんになった。
というより、お兄ちゃんになろうとして、狙ったんじゃないかしら。
え?
皇帝が天界にいて、国が治まるのかって?
それはそれは、平和に治まるのよ。
だって、そういうシナリオなんだもの。
ここは乙女ゲームの世界。
戦闘中に『ピクニック・バスケット』を使うと、敵が一太刀浴びせてくる間に、ピクニック・バスケットの中身を広げて美味しいサンドイッチや冷たい飲み物を優雅に頂いて、PTメンバー全員のHPとMPが全回復する世界よ。外界とは隔絶されたピクニック・ゾーンが広がるのね。
いったい何が起きているのか、考えてはいけないわ。
クライマックスのネプチューン戦でよく使われるアイテムのナンバーワンこそが『ピクニック・バスケット』なんだから、シュールよね。
サイファがね、天界の方がみんなの悪意が遠いからって、こっちに住もうって言ってくれたの。
天界は家族とも友達とも、違う時の流れに身をゆだねて、置き去りにされてしまう場所よ。
光の十二使徒には、そのことで、すごく、寂しそうにしている人も多かった。
光の使徒の任を解かれる頃には、下界では百年が経ってしまうから、下界に暮らす家族とは、もう二度と、会えないだろうって。
私のために、サイファにどれほどの犠牲を払わせてしまったのか、考えると本当につらくなるけど。
サイファは「僕は光の使徒ってわけじゃないから、母さんや友達に会いたければ、いつでも、下界に降りられる。年齢が遅れてしまうだけだよ」って、笑いかけてくれるの。
本当に、そうなのかな。
年齢が遅れるだけでいつでも会えるなら、構わないのかな。
そうだったら、いいな。






