第67話 公子様は悪役令嬢を救いたい
先に使者を出して無事を知らせてはいたけど、私とサイファがようやくガゼルへの挨拶に一時帰国したのは、翌月になってからのことだった。
「デゼル! サイファ! よく無事で!!」
公邸のガゼルの私室に通されて、最敬礼した私とサイファを、ガゼルは順に抱き締めてくれたの。
「心配したよ、デゼルもサイファも邪神エリスに連れ去られたきりで」
「ガゼル様、ありがとう。ガゼル様は私とサイファの命の恩人。ごめんなさい、私、何度も、何度も、夜明けの守護を使ったの。ごめんなさい」
優しく笑ったガゼルが、かぶりをふった。
「もっと、遠慮なく使うように伝えたかったよ。それでも、私の力でデゼルを助けられたならよかった」
「ガゼル様……」
「サイファと一生懸命に探したんだけど、見つけてあげられなくて、つらい思いをさせてしまったね」
今度は、私がかぶりをふったの。
「私、見つけて欲しくなかった。エリス様に呪いをかけられて、ずっと、ガゼル様にもサイファにも、会うわけにいかなかったの。でも」
ガゼルが優しいから、私もようやく笑顔になれて、ガゼルを見たの。
「ガゼル様、私達、公国の滅亡を阻止できたよ……! 神様がもう、大丈夫だって」
ガゼルが喜びに顔を輝かせて、もう一度、私を力強く腕に抱き締めてくれた。
「よかった……! ありがとう、デゼル、サイファ、二人には、どんなに感謝してもしきれないよ。本当に、公国のために力を尽くしてくれてありがとう」
「ガゼル様だって、力を尽くして下さいました」
顔を曇らせたガゼルが、真剣な瞳をして私を見たの。
「ねぇ、デゼル、私と駆け落ちしない……?」
「え」
私はぽけっとしてガゼルを見た後、吹き出してしまったのよ。
「やだ、ガゼル様、どうしてそんな冗談……」
「私は本気だよ」
ガゼルが怒った顔で私を見てた。でも、私に怒っているわけじゃなかった。
「公国を滅亡から救ったのは、間違いなくデゼルとサイファだ。それなのに、どうして、そのデゼルが淫売の魔女だなんだと蔑まれなければならないんだ! 私は……私はもう、公子の立場では、デゼルを妃に迎えることさえできない! デゼルより公妃にふさわしい令嬢なんて、公国中探したっているはずがないのに、この報いはどういうことなんだ!」
エリス様が十二日目に私に見せた悪夢は、知っていたけど、本物だったの。
私はもう、公国にはいられない。
起きなかった戦争が起きるはずだったことを知っているのは、私とサイファとガゼルだけ。
あとは、神様だけ。
だから、私がみんなに感謝されることはなくて。
それどころか、私は帝国の内戦による犠牲者を最小限に抑えるために、闇主たちを使ってしまったから。
十数名の死者が出ただけで、内戦は終結したけど、まだ十歳の私が何十人もの闇主たちと交わったことが、みんなの知るところとなってしまった。
公国の裏切り者、堕ちた闇巫女、淫売の魔女。
公国の滅亡と帝国の内戦を阻止した私に与えられたのは、そういった称号と、苛烈な迫害だった。
闇神殿もそのままでは到底、存続できなくて、水神を祀る神殿に立場をかえて、そうでなくても公子のガゼルが、祭主まで務めなければならなくなったの。
でも、私とサイファの部屋は、そのまま残してもらえているのよ。
だって、私が水神なんだもの。
「ごめんね、ガゼル様。ガゼル様の御代には政教分離を求めたいって、私が望んだのに。結局、どちらもガゼル様に背負わせてしまった」
「そんなことはいいんだ。私は、もとよりデゼルを妃に迎えるつもりでいた、私の責任のことはいいんだ。だけど私には……! デゼルとサイファが公民から受ける迫害を、止めてあげることさえできない!」
顔を覆ったガゼルの指の間から、涙が零れ落ちた。






