何でも屋 メトロハリウッド
大粒の雨が降り注ぐ中、一心不乱に走っている者がいた。夜も更け、体を貫く様な寒さだ。
「はあはあ、うぐぁっ」
足がもつれどしゃっ、とアスファルトの上に転げる。
だめだ、こんな所で休んでいる場合ではない。一刻も早くここから立ち去らなければ。
そう思い拳を握りすぐさま立ち上がった。ここにいてはならない理由がある。1秒でも早く走り出さなければ。
曇天の空の下、時は朝方に差し掛かろうとしている。
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「こんにちはー!あなたの街の便利屋でーす!」
ここは駅前の噴水広場。朝方まで降っていた大雨も正午にはすっかり回復していた。
まだまだ寒い季節ではあるが日向に出れば気分も穏やかになる、そんな季節に男二人がチラシ配りに勤しんでいた。
「こんにちはー!おっ、そこのスーツのお二人!この街随一の便利屋をご利用ください!ペットの散歩、部屋のお掃除、気になるあの子の下着の色まで調べてきますよ!」
「こんちは、どうぞ」
「はいはい、そこのお綺麗なお二人さん!この街最高の何でも屋です!地域最安値のスーパー調査、彼氏や旦那の浮気調査何でも行います!まずはチラシをご覧あれ!」
「何でも屋す、どぞ」
「そこのおばあちゃん!あたなにはいつまで経っても元気でいて欲しい!だからこそお使いやお話し相手何にでもなります!何でも屋を是非ご贔屓に!」
「すーーはーー」
赤髪の低身長の男は一生懸命チラシ配りに没頭している、しかしもう片方の190cmはあろう大男はやる気なく、ベンチに座りタバコを吸い始めた。
「どうも!ややっ、かわいいお子さんですね!この子、今何歳ですか?1歳?かわいい盛りですねー!僕たち何でも屋はベビーシッターもお手のものですので機会があれば是非ご利用ください!」
「すーーはっ、ごほっごほっ!」
大男はタバコの煙にむせてしまい咳き込む始末。
「どうもー!何でも屋ですよー!よろし「ぐほっごほっ!」」
ブチっ、と赤髪の男のこめかみに筋が入った。
「おいてめぇ!何呑気にタバコ吸ってやがんだ!」
「ぐふっぐふ、すーーはー」
咳が落ち着いたと思えばまた喫煙。赤髪はついにキレた。
「おい!君に言ってるんだよバクガ!俺の言葉分かるか?ドゥユーアンダスタン?」
「はー、そんなに大声出さなくても聞こえてるよ、アカト。少し休憩しただけだ。そんなに頑張っても依頼が増えるわけじゃないんだからさ」
「お前は最初からやる気無かっただろうが!だいたい頑張らないと依頼がこねえんだよ!今月入って依頼0なんだぞ!?俺はリーダーとして焦ってんだよ!」
「まあまあそう言わず、すーーはー」
大男のバクガはキレてる赤髪のアカトをあしらいながら、またタバコを吸い始めた。それに対して更に腹を立てるアカトは文句を続けようと思ったその時…
「だいたいお前達がそうやってっから俺がこうやって営業活動頑張って…ん、電話か。誰だ?」
バックポケットに入っていたスマホを取り出し呼び出し主を確認。液晶にはケイと表示されていた。
「お疲れさんケイ、バクガのヤローが全く仕事しねぇんだ。今日の昼メシは抜きにしようかと思ってんだがどう思う?ああ、そうだな。そうしよう。ははっ、んで本題は?なに?お客だと?しかもそこそこの依頼内容?でかしたぞ!すぐ戻るじゃ後でな」
そう言いながら電話を切った。どうやら彼らの何でも屋に依頼者が訪れたようだ。
「おいバクガ、依頼が来た。それ以上チンタラしてっと今月給料無しにっすぞ」
「分かったよ」
バクガはタバコを近くに落ちていた空き缶の中に処分し、10m程離れたゴミ箱に投げ捨てた。
ガラン、と空き缶は見事ゴミ箱の中に入り二人は公園を後にした。
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