「最終的にあれになる」
※爬虫類、両生類、虫 注意※
私は一介の生き物好きである。
「生き物」には哺乳類や鳥類はもちろん、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物も含まれ、つまり基本的に生きて動いてりゃ大抵何でも好きなのだ。
中でも両生類と爬虫類、魚類や昆虫は興味深い種が多く、かつては色々と飼育していた。
カエルを連れて嫁入りした事は義両親には今でも秘密である。
新居訪問の時には必死に隠した。
そんな私が若い頃、毎年欠かさず訪れていたイベントがある。
爬虫類を主体とした、エキゾチックアニマルの即売会である。
レプタイル◯◯と銘打たれている事が多く、ヘビ、トカゲ、カメ、ヤモリ、カメレオン、カエル。その他諸々の面白い生き物達とその飼育用品や餌が一堂に会する光景は圧巻で、お好きな方にはたまらない、苦手な方なら失神確実のイベントである。
哺乳類も普段は見掛けないような珍しい種類が売られていて、今までで一番驚いたのはハダカデバネズミである。お値段は確かペア(雌雄セット)で50万くらいだったと思う。
以前このイベントで購入した、
「一見ポップな水玉模様かと思いきや、よく見ると全て丸まったダンゴムシ(を始めとする丸くなる虫たち)」
というダンゴムシ手拭いは今でもお気に入りで、大事に使っている。
ある年。
例年通り多くの客に混ざって、私はイベントをおおいに楽しんでいた。
ちなみに客層は地味めの一般人、動物園代わりに楽しむ親子連れ、ピアスとタトゥーだらけのお兄さん、ギャル寄りのお姉さん、見るからに元ヤンな金ネックレスの強面おじさん、どんな種類のヲタ系イベントに混ぜても必ず猛者に見えそうなガチ勢など、普段は決して交わらないであろう人種が平和に混在している。
初めて足を踏み入れた時には陰キャから見ると「怖そうな人」が多くてビビったが、皆さん単なる爬虫類好きだった。
このイベントは、もちろん各ブースに並んでいる生き物達にも心踊るが、こっそりお客さんを眺めるのも結構楽しかったりする。
飼いたい生き物を懸命にプレゼンするも、嫁に容赦なく却下される旦那さんとか。
飲食コーナーでチャレンジメニュー「昆虫の素揚げ」をつい買ってしまい、一通り写メを撮ったはいいが食べる勇気が出ず途方に暮れる若者とか。
資金豊富な大人達に混じってお小遣いを握り締め、タランチュラの飼育方法を熱心に聞く小学生とか。
そんな人々を密かにチェックしつつ、しっぽプニプニのヒョウモントカゲモドキやおめめクリクリのカエル達を愛でていると、すぐ傍にいたカップルの女性が黄色い声を上げた。
「キャー、これカワイイ~~!」
彼女の目の前には大きなプラスチックの衣装ケースがあり、中では手の平サイズの亀さん達がひしめいている。
ケヅメリクガメのベビー達である。丸みを帯びた黄褐色の甲羅とつぶらな黒い瞳が愛らしい。
犬や猫は小さくカワイイ仔犬・仔猫の頃が最も高価で、成長と共に値下がりしてゆく。しかし爬虫両生類の場合は基本的に、死に易いベビーの内は安く、成長するほど高価になる。これは長期間飼い込まれた個体は健康・人への慣れ具合・餌付きの良さが保証され、成体ならすぐに繁殖を狙えるからである。
リクガメは種類によっては数十万、健康状態の良い激レア種なら百万越えも有りうるが、ケヅメリクガメの子供は比較的安価で売られている。
「ねぇ、これにしようよ!めっちゃ可愛い!!大事に飼うから~」
彼女は彼氏の説得にかかった。
口ぶりからして、おそらく爬虫類に詳しいのは彼氏の方なのだろう。
しかし、子亀を手に乗せキラキラした目で愛する彼女 (たぶん)に見つめられた彼氏は冷静だった。
「……止めた方がいいよ、最終的にあれになるよ?」
そう言ってスッと指差した先は、キッズふれあいコーナー。
安全で可愛いお触り要員として、立派な大人になったケヅメリクガメ――
――甲長(甲羅の長さ)は最大で80cmを越え、体重は時に成人男性をも凌ぎ、ガラパゴスゾウガメ、アルダブラゾウガメに継ぐ「世界で3番目に大きなリクガメ」――
――が子供達に巨大な甲羅を撫でられたり、菜っぱを食べさせてもらったりして周囲を和ませていた。
ケヅメリクガメの寿命は30年以上。動作はゆっくりだが活発に動き回り、野生下では地面に穴を掘って暮らすため力も強い。当然広い飼育スペースを必要とするため、飼い主さん達は一部屋をカメ専用にしたり、庭をカメに明け渡したりする。
何しろ重たくて病院へ運ぶのも一苦労なので、頑健な種であってもなるべく病気にならないよう健康管理に気を使いながら、子供ひとり育て上げるよりも長い年数を人生のパートナーとして共に暮らす。
そういった飼い方をしなければならない生き物である。
「あ…………うん、やめとく」
彼女は素直に諦めた。
(彼氏グッジョブ!)
私は密かに彼氏を讃えた。
子供が大きくなったらまた行きたいです。
揚げ昆虫盛り合わせを食した弟曰く「コオロギ、ワームは余裕。何か分からんが甲虫がキツかった」との事。