3話 『シャーリー王国』
約一か月もの間が空きましたが、単純に暑さやなんやかんやで書く気力が・・・。
これからもこのように不定期での更新となるかと思うので、気長に待っていただけると幸いです。
「―まぁ、ステータスのことはいろいろと分かった。ついでに俺が生まれた世界とも全く違うってことも分かった」
思わず、窓から見える城下町の方に目を向けながら―端的に言えば遠い目をしながら―エレナに応える。
「んじゃ、次はこの国、っていうか周りの国についても教えてくれ。なんで戦争なんかやってるんだ?」
「はい。我が国、シャーリー王国は約900年前に、初代国王マーリン様が興されました」
「ちょっと待て、初代国王マーリンってか今の国王と名前が一緒じゃなかったか?」
「えぇ、そうです。国王は代々『マーリン』の名を受け継ぐのですよ。元々、継承権のある王子たちや姫たちには名前がありますが、国王となった時点で名前が『マーリン』となるのです」
「ふーん・・・。歴史の長い国だとそんなものなのかね」
「他の国と比べ特徴的な点があるとすれば、建国以来の他種族国家というところでしょうか」
「何・・・他種族? 他民族とかじゃなくて?」
「その様子ですと、コータ様のいた世界では国を作っているのは人間だけということですか」
「あぁ・・・国・・・っていうより文明って言うのかな。そういうのを作ってるのは人間だけだ」
「ここでは人間の他にも国家や文明を持つ種族がいます。エルフ・ドワーフ・獣人・魔物ですね」
「えっ、モンスターも国を持ってるのか」
「そうですね。しかし、魔物がいる国は、テラスただ一つだけですね。それ以外の国にはどこにもいません。まぁ、いわゆる人型ではないですから、敬遠する国がほとんどですからね。ほぼ敵対国だらけじゃないでしょうか、テラスは。我が国とも戦争状態ですし」
「そんな国もあんだな・・・」
「我が国は先ほどの魔物を除いた4種族での国となっています。割合的には人間が一番多いですが、そこまで差は大きくありません」
「ふーん。そうなんだな」
「他種族国家というのもあってかハーフも存在しています」
「ハーフか・・・。900年も続いてたらそりゃいるか」
「えぇ。決して数は多いほうではないのですが、近年増えてはきていますよ。実際、私もエルフと人間のハーフです」
「えっ、マジで?」
「父がエルフで母が人間です。父似なので、外見はほとんどエルフですよ。気づかなかったのですか?」
「いや・・・まぁ・・・確かに言われてみたらそうだなって感じではあるけど。そもそもエルフがいるって知らなかったし」
確かにエレナは金髪碧眼で、どこか人間離れした雰囲気でもある。顔立ちが整いすぎているというかなんというか。
「そういえば、コータ様は種族の名前を聞いても理解してらしたようでしたが、コータ様がいたところでもエルフやドワーフなどはいたのですか?」
「実際にいたわけではないんだけどな・・・。物語なんかでは普通に出てきたりするし、知識があるってくらいだけど」
「それでは各種族についての説明はそこまでしなくてもよさそうですね」
「あぁ、それよりも戦争のことについて聞きたいかな。聞いてる感じ、テラスって国と戦争してるみたいだけど・・・」
「テラスだけではありません。我が国は現在、5か国と戦争状態です。」
「5か国!? なんだってそんなに戦争してるんだ!?」
「我が国含めた、他の国すべてもともとは違う島に一つずつ国を作っていたのです。島と言っても、かなり大きなものだったらしいのですが。しかし、どういった現象が起こったのか分からないのですが、500年ほど前から、各島々が徐々に接近し始め、ついには100年前にすべての島が陸続きになり、ひとつの大陸となってしまったのです」
「・・・・・・」
「大陸になる以前も、しばしば資源などを求めて小さな戦争はあったようですが、大陸になってからは歯止めがかからなくなったようで」
「なんでそんないがみあってるんだ?」
「もともとは島に一つずつだったので国境や領土という概念があまり無かったのですが、大陸になってからは近いところに資源や領土があるので、それの奪い合いですね。100年前までは20ほど国があったのですが、戦争によって滅んだり、合併することによって徐々に減っていき、現在では我が国含めて6か国しかありません」
「6か国って・・・。それじゃあ、世界を相手に戦争してるようなもんじゃないか。よく今まで国としての機能保ってられたな・・・」
「現在はすべての国がすべての国と戦争をしているので、各戦線にさける兵の数がどの国も限られているんですよ。我が国は他種族国家というのもあって人口が多かったため今まで戦線をなんとか維持できていたのですが、近年それもだんだんとキツくなりまして」
「・・・そのために勇者を召喚して、戦争の突破口としようとしているってことか・・・?」
「そういうことです。大きな戦力ですから。実際に勇者様を召喚して各戦線に行ってもらったところ、劣勢だった戦線が、均衡、さらには優勢にまで押し上げています」
「勇者が数人いるだけでそんなに変わるものなのか・・・」
「はい、勇者様には本当に感謝の念しかありません。我が国のために尽力していただけていますから」
今更ながら、自分が勇者として召喚されたことが怖くなってくる。
戦力として否応がなくこの国の人たちから期待されている、エレナにももちろんされているだろう。
だけど、そんな俺は攻撃力0の全く役に立たなそうなただの人間だ。
しかも、戦争だなんて、俺が生きていた時代じゃ、どこか遠い話にすら感じるが、ここじゃそれが何百年も前から続いている日常だ。
「コータ様・・・? どうされましたか? 顔色が悪いように見えますが・・・」
「あ、あぁ、いや、ちょっと考え事をな」
「そろそろお休みになられますか? こちらに来てから説明ばかりでお疲れになられたでしょう」
「・・・・・・じゃあ、そうさせてもらおうかな」
「分かりました。では私は失礼いたします。明朝またこちらに来ますので、コータ様はゆっくりとお休みになられてください」
「あぁ、ありがとう」
「この部屋には、浴室とトイレが併設されていますので、そちらをご利用ください。ご希望でしたら大浴場に侍女も付けますが・・・」
「いや、それはいいから! 気遣いありがとう!」
いくら好待遇とはいえそこまで甘えられないというか、そんなんじゃ気が休まらない。
風呂くらい何も気にせず入りたいし。
「そうですか・・・。簡単なお着換えでしたら浴室に置いておりますので、本日はそれをお使いください。後日、別にご用意させていただきます。あぁ、それとお食事はどうなさいますか?」
「今日はいいよ。なんだかあまりお腹がすいてないんだ」
「それでは私はこれで。何かお困りでしたら部屋の前にサンディアを控えさせていますのでなんなりとお申し付けください」
「・・・・・・何から何までなんか申し訳ないな・・・」
「いえ、コータ様は勇者ですから。これくらいではむしろ足りないくらいです」
「そ、そうか・・・? 十分すぎるくらいだけど」
「明日からは戦闘訓練や魔法訓練も早速ですが始めてまいりたいと思いますので、今日はごゆっくりとお体を休めてください。それでは失礼します」
そういうと、エレナは部屋から出て行った。
部屋に1人になった俺はとりあえずエレナが言っていた併設された浴室へと向かう。
そこはユニットバスのようなものではなく、まるで温泉宿かとおもうほどのものだった。
・・・なんか逆に落ち着かない気がする。
まぁ、でもゆっくり湯につかれるから気にしないでおこう。
1人に対しては若干広すぎる風呂を堪能したあと、ベッドに戻り大の字になる。
これからのことが不安で仕方がない。
せっかく勇者として拾った命だ。
ゲームのような勇者のようなことがしたいが、あいにくと俺にはそんな攻撃力は備わってないらしい。
活躍できたとしても何か別の方法を模索する必要があるだろう。
そんなことを考えていると不意にノック音が聞こえた。
返事をする前にドアが開き、エレナが入ってくる。
「失礼します、コータ様。申し訳ありません、こちらの手違いでお着換えが十分に用意されてなかったとのことなので急ぎ持ってまいり・・・まし・・・た・・・」
ベッドから起き上がった俺を見て、着替えが入っているであろう木箱を持って入ってきたエレナは固まる。
確かに風呂から上がったものの、着替えがあまりにもサイズが違いすぎたので、仕方がなくバスタオルだけをまいた状態でベッドに入っていたのだ。
そういえば、エレナが部屋の前に部下を控えさせているとか言ってたからその人に頼めば良かったと今更ながら思う。
「あ、あの・・・失礼しました!」
一瞬で顔を逸らし、木箱を俺の方へ投げつけるとそのまま一目散に部屋から出ていく。
まぁ、投げられた木箱は俺の顔面にクリーンヒットしたわけだが。
防御力が高いおかげかあまり痛い思いをせずに済んだというのは不幸中の幸いと言ったところだろう。
これからの日々により一層の不安を抱きながら、投げつけられた服に着替えて、ベッドにもぐりこんだ。