2話 『ステータス』
「なっ・・・これは・・・!?」
「・・・・・・」
俺とエレナ、二人共解析水晶から表示された数値を見て呆然とする。
そりゃそうだ。勇者として召喚されたのに、攻撃力が0とかシャレにすらならない。
「・・・なぁ、これって不具合とかじゃないのか?」
「・・・いえ、正常に魔力を送った以上、解析水晶が不具合を起こす可能性などありません。この数値はコータ様のステータスそのものです」
「ちなみに、さ。攻撃力が0だとどうなるんだ?」
「素手や武器を使った物理攻撃はもちろん、魔法を使った攻撃も相手のステータス関係なくダメージを与えることができません。衝撃や反動はあるとは思いますが、虫に刺されたようなものでしょう」
「・・・本当にダメージを与えられないのか?」
「論より証拠です。コータ様、私を思い切り殴ってみてください」
「えっ!? そんなことできねえよ!」
「大丈夫です」
ずいっと俺の方にエレナが近づいてくる。
冗談でもなんでもなく本気で『殴れ』と言ってるみたいだ。
「わ、分かったよ」
躊躇しつつ、右の拳でエレナの顔を殴る。
思い切りとは言われたものの流石に本気で殴る度胸はなく、少し弱弱しいものになってしまったが、それでもエレナの顔は殴られた方へと振られる。
「おい、大丈夫か!?」
自分で殴っておいて心配するというのも甚だおかしなことだとは思うが、そう言いつつエレナに近寄る。
「えぇ、大丈夫です。やはり衝撃は来ますが、ダメージは全くありません。殴られたというより、押されたような感覚に近いですね」
痛くはないと主張するエレナに安心はしたけれど、別の不安は余計に大きくなった。
「じゃあ、俺は本当に攻撃力が0・・・? それでどうやって戦えって・・・?」
「あくまで可能性だけの話ですが、鍛錬をすることによってステータスが上がることがあります。それによって攻撃力のステータスが上がることがあるかもしれません」
「そ、それじゃあ」
「ですが、可能性だけの話です。成長期なら十分あり得るのですが、基本的にコータ様ほどの年齢ならばステータスはほぼ固定化されています。それこそ数年単位で鍛錬しても上がらないことの方が可能性としては高いですね」
「そんな・・・・・・」
本格的にマズイことになってきた。どこの世界に全く攻撃が出来ない勇者がいるっていうんだ。
「とにかくこのままのステータスでは陛下に報告は出来ません。攻撃力の数値だけ改ざんしたものを陛下にお見せすることにします」
「改ざんって・・・いいのか、そんなことして?」
「ほかのステータスはずば抜けていますし、なによりコータ様は召喚魔法によって召喚されたまぎれもない勇者です。私はそれを信じるまでのこと」
そういって、エレナは紙を取り出すと、なにやら書き始めた。
「解析水晶を直接見たのは私とコータ様だけですから、他言しなければこれに書いているステータスがコータ様のステータスとして陛下には伝わります。―サンディア、入ってきてください」
エレナは書き終えると、なにやら目を閉じて虚空に向かって話しかける。
何をやっているのかと思ったら、直後に部屋の扉がノックされた。
「失礼します、エレナ様。何か御用件ですか?」
「はい。コータ様のステータスが解析出来ましたので、これを陛下に渡してください。私は引き続きコータ様への説明等を行います」
「分かりました。確かに承りました」
そういって入ってきた魔導士風の男はエレナから紙を受け取ると出て行った。
「今のは・・・?」
「サンディアですか? 私の部下にあたる魔導士です」
「じゃなくて、今変なところに話してたよな」
「あぁ、念話魔法ですよ。基礎魔法の一つで、パスをつないでいる対象とだったら口頭でなくても会話が行える魔法です。魔力ステータスによって範囲は変わってきますが」
要は携帯電話のようなことを魔法で行えるって事か。便利なのかはよく分かんないけれど。
「さて、報告も終わりましたし、これからはいろいろとご説明いたしましょう。・・・とはいえ、何から説明したらいいのか・・・」
「とりあえずステータスについて説明してくれないか? 今のところちゃんと理解できそうなのって数値が分かってるこれだし」
未だに解析水晶から表示されてる俺のステータスを見ながら、聞いてみる。
攻撃力0っていうのに視線行き過ぎて、今までスルーしてたけど他のステータスが4桁ってどうなんだ?
「えぇ、そうですね。ではステータスの説明から致しましょう。攻撃力は先ほども説明いたしました通り、相手にダメージを与える際に、指針となるステータスとなります。一般的な兵士で平均300ほどでしょうか」
「さっき言ってたけど、物理攻撃だけじゃなくて、魔法での攻撃もこのステータスに依存するのか?」
「はい、正確には身体力や魔力にも関わってはくるのですが、基本的には攻撃力のステータスが高ければ高いほど相手にダメージを与えることが出来ます」
「んじゃ、防御力ってのは?」
「言葉通りですね。相手からの攻撃を防御力で減少されることが出来ます。技術や装備で防御力をカバーすることは出来ますが、防御力が高いことにこしたことはありません。こちらも一般的な兵士の平均は300といったところなのでコータ様の防御力はかなり高いですね」
「・・・今、技術や装備でステータスをカバー出来るって言ったけど、攻撃力でも同じことは言えないのか?」
「普通でしたら同じことです。技術を身につけたり、装備を整えることで全てのステータスは補うことが出来ます。しかし、単純な足し算掛け算ではないので、元々の数値が0となるとかなり難しいかと。今までそのような事例があったわけではないのでなんとも言えませんが」
「―そっか。続けてくれ」
「次に魔力ですね。これは魔法の威力や効果、体内に留めて置けるマナを表しています。数値が高いほど、より高いレベルで魔法が使え、尚且つ使える回数も増えてきます。この数値も異常なまでに高いですね・・・。わが国の上級魔導士でも3000を超えるものは数人ほどで、5000を超えるとなると他の勇者様達しかいないですね。私もかなりの上級魔導士ですが、魔力ステータスは4100なので、単純にコータ様は私よりも倍以上の魔法を使うことが出来ます」
「マナっていうのはなんなんだ? 魔法を使う時のエネルギーって考えればいい訳?」
「そのような認識で間違いはないかと」
「それじゃあさ、魔法をいっぱい使ってその体内のマナが無くなってきたらどうするんだ? ポーションとか飲んで回復とか?」
「いえ、自然回復を待つしかありません。マナは空気中や水中、土中や食物にも含まれていますので、自然と待っていたり、食事や睡眠をとることで回復します。逆に言えば、一瞬で回復するようなものではないということですが・・・。しかし、私たちはそれが当たり前でしたので、他の方法でマナを回復するというのはあまり考えた事は無かったですね。新しい研究対象になるかもしれません」
「進んでるのか、進んでないのかよく分からないな・・・」
「むっ、これでも我が国は魔法技術において、他の国々よりも優れている自信はありますよ。まぁ、他の国はそもそも研究している魔法が違ったりするので、あまり比較対象にはならないのですが」
「それって意味あるのか」
「こ、こほん! それでは次に知力について説明しますね」
「これ、高ければ高いほど単純に頭が良いってことでいいのか?」
「少し、違います。どちらかというと魔法適正と言った方が正しいでしょうか。もちろん、頭の良さという意味も含まれていますが。魔法を行使する際には、理論を知っていないとただ魔力を込めても意味を成しません。『どこに』、『どういう意図で』、『どのように』使うかを正しく知っておかないといけないのです。これもコータ様はかなり高い数値です。この数値であれば、魔力も相まって様々な魔法を使うことが出来るでしょう。まぁ、ごくまれに知力ステータスが低くても魔法を操ることが出来る第3勇者もいますが」
「おい、今勇者の事バケモノって―」
「さて、続いては身体力ですね」
「スルーか・・・」
「身体力は、筋力や俊敏性などの体に関する全てを表したものですね。ただこれは総合された数値なので、もっと細かく分類することは出来ません」
「へ? そうなのか?」
「はい。先ほども説明しましたように、ステータスを確認するすべが現状解析水晶しかありません。よってそれ以上に分析することが出来ないのです」
「なるほどね・・・」
「最後に幸運力ですが・・・。現在このステータスが何を表しているか判明していません」
「・・・なんだって?」
「分からないのです。名前の通り、幸運のステータスなのでしょうが、何に対しての幸運なのかが分からないのです。生きていくうえでの幸運なのか、戦闘における幸運なのか・・・。いろいろと対照実験をしてはいるのですが、今のところ差異はほぼなくよく分かっていないステータスです」
「そんなもんがあるのか・・・。―そういや、体力はどのステータスになるんだ? やっぱ身体力か?」
「体力、ですか?」
「あぁ。体力とかHPとかいろいろ言い方あるのかもしれないけど―」
「それはステータスに含まれていません」
「―は? いや、だってそれが分かんなきゃ戦闘時かなり困らないか? どの程度ダメージ食らったから、退かなきゃとかあるだろ。それにさっき、ダメージの話も出てたし」
「たとえ話をしましょう。攻撃力、防御力は全く同じものとして、人間が剣で指を斬られた場合と首を斬られた場合、どちらがその場で死ぬでしょうか?」
「そりゃあ、首を斬られたほうに決まってるだろ」
「ですよね? もしコータ様の言う体力があるとするならば、どちらの場合でも同じダメージを受けていますので、指を斬られた場合もその場で死ぬことになりますが、そんなことはあり得ないでしょう? まぁ、放っておいたらいずれは死ぬでしょうが」
―ステータスのことを聞いてきて思ったのは、仮にステータスが可視化出来るような世界でも、RPGゲームとは全く違う、現実の世界なんだなと。
今まで生きてきた世界と大してそう変わりはない。
そんな上で戦闘経験のない俺が勇者として、他国と戦争? 攻撃力0なのに?
俺は自分の置かれている状況が、かなりヤバいことに遅まきながら気が付いてしまった。