1話 『攻撃力0の勇者』
基本的に遅筆な方なので、頑張って更新します・・・。
「おぉ、成功だ!」
「今回は男性ですか」
「急ぎ、解析水晶とエレナをここに!」
周りがざわざわと騒がしい。
頭が上手く回らない。
あぁ、そうだ。電車に轢かれかけて、異世界とやらに召喚されたとかなんとか・・・。
自分が寝ていることに気が付き、体を起こして辺りを見渡す。
目に入ってきたのは、石造りの床や壁、窓にはステンドグラス、豪勢な調度品、上にはおそらくシャンデリア、そして奥の方には王座らしきものだった。
どうやら、自分が今いるところは駅のホームや一面真っ白な空間ではなく、中世ヨーロッパにあったような城みたいだ。
周りには、魔導士らしき人が数人、騎士が数人。あとは見るからに王様王様してる見た目の人が。
「召喚に応じてくれた勇者よ」
「え、あ、はい」
王様が俺の方に歩み寄ってくる。
「名はなんという」
「・・・コータ。風斬孝太」
「コータか。良い名だ。」
「・・・どーも」
「私は、ここシャーリー王国の第72代国王、マーリンだ。5人目の勇者コータよ、そなたが召喚に応じてくれて感謝している」
「え・・・? ご、5人目?」
「そうだ。わが国では召喚魔法による勇者召喚をそなたを含めて5回成功させている。これで他国との戦争の勝利にまた一歩近づいた」
「ちょ、せ、戦争だって? それって―」
訳が分からない。
普通、勇者っていうのは一人なんじゃないのか?
というか、他国と戦争? そのために勇者をわざわざ召喚?
混乱している中、背後から誰かが走ってくる音が。
思わず振り返ってみると、水晶玉らしきものを持った女性が俺の方へと向かってきていた。
「おぉ、エレナ。勇者への説明等、あとは任せてもよいな?」
「分かりました、陛下。さぁ、勇者様。こちらへ」
「いや、あの、ちょっと色々聞きたいことが―」
「私が答えられることであれば、すべてお答えいたしますのでまずはこちらへ。陛下も忙しい身なのです」
彼女はそういうと周りにいた騎士たちに合図し、俺を立ち上がらせる。
そのまま、引きずられ部屋から出されてしまった。
「一人で歩けるから!」
「あ、もう大丈夫なのですか? 2番目の勇者様と4番目の勇者様は召喚酔いでしばらく動けなかったものですから」
彼女は俺を引きずっていた騎士たちを下がらせ、廊下を先導する。
「本当に俺の前に4人も召喚されてるのか?」
「えぇ、1人目は約3年前に。ほとんどまぐれみたいなものでしたが。それから1年、召喚魔法の精度を上げ、半年ごとに召喚を行っています」
「半年ごと? そんな大それたことが出来るなら何人でも召喚すればいいじゃないか」
「単純に魔力が足りないのです。体内に溜めて置ける魔力は限られていますから。蓄積宝石を何百個と使ってやっと行えるのです」
俺の質問に淡々と答えながら彼女は城内を歩き続け、一つの部屋へと入った。
「さぁ、ここが今日からあなたの部屋となります」
「す、すっげぇな、これ・・・」
そこはおおよそ1人が使うには広すぎる部屋だった。
豪華絢爛な家具に、キングサイズのベッド。窓からは城下町の様子も窺えるみたいだった。
「さて、自己紹介がまだでしたね。私のことはエレナとお呼びください。これからあなたと共に戦うメンバーとして仕えることになります」
「俺の名前はコータ・・・。ってあんたが一緒に戦ってくれるってのか?」
目の前の彼女は見た目ではお世辞にも戦えるような感じには見えない。
体は細く、装いも貴族階級のお嬢様が着るような服だ。そんな彼女が戦争で俺と一緒に戦う?
「あぁ今、外見で判断しましたね? 私、これでも王国でトップクラスの魔導士です。魔力も高いですし、習得している魔法も多岐に渡ります。近接戦闘も槍術を習得していますので、戦闘での足手まといにはならないかと」
少し、むっとした感じで彼女は答える。
というか、今まで淡々としていたから、感情の起伏が少ないのかと思っていたけど、そんなことはないようだ。
「外見で言うなら失礼ですが、コータ様も戦えるようには到底見えませんよ?」
おっと皮肉で返されてしまった。
まぁ、確かに戦えるような見た目ではないし、そもそも魔法やらなんやらここの戦闘スキルなんてわからないし、喧嘩もそうそうしたことないから単純に戦力になるのかどうかも怪しい。
「ま、まぁ、それでも俺、一応勇者だし。・・・多分」
「えっ、今最後に小さく『多分』って付け加えませんでした?」
「アハハ、キノセイジャナイカナー」
明後日の方を向いて、全力でごまかす。
勇者を望んで召喚したはずが、なんの因果か一般大学生が召喚されてるんだ。バレたらいろいろとまずい気がする。
というか、原因はあの真っ白な空間にいたアイツなんだろうけれど。
「あ、魔法のことを気にされているのですか? 大丈夫ですよ。適正さえあれば訓練次第でいくらでも使えるようになりますし、実際他の4人の勇者様もしっかりと魔法は習得されています。まぁ、ときおり魔法とは思えない不可解な力を使うこともありますが・・・」
「不可解な力?」
「えぇ、既存の魔法とは違う力です。おそらく召喚された勇者様だからこその力だとは思いますが」
ふーん。異世界から召喚された勇者は不可解な力を持つねぇ。それが元の世界で元々持っていた力なのか、召喚されたからこその力なのかは分かんないけれど。
そういえばアイツ、具体的な説明一切してくれなかったな。戦い方とか。
「だからこそ、コータ様も何かお持ちなのでしょう?」
「あー・・・いや、それは、まだ分かんないかな・・・? ほ、ほら、俺この世界のことほとんど何も知らないし」
「そこはやはり他の勇者様と変わらないのですね。これで我々が作り上げた存在ではなく、異世界から本当に誰かを召喚しているという説が濃厚になりましたね・・・」
何か彼女はぶつぶつと呟いている。
聞いてる感じ、彼女ら自身も召喚している勇者が何者なのか分かってはいないらしい。
「まぁ、そこは大きな障害にはなりませんし、いいでしょう。1人目の勇者様の時は説明するのに一苦労でしたが、コータ様は話を理解してくれやすそうですし」
「いろいろと聞きたいことは沢山あるよ。戦争の事とかこの国のこととか魔法についてとか」
「その説明はおいおい致します。まずはこれに両手で触れてください」
そういって彼女は最初から持っていた水晶玉のようなものを俺へ差し出す。
「これは・・・?」
「解析水晶です。これでコータ様のステータスを確認いたします」
「す、ステータス? なんかRPGゲームじみてきたな・・・」
「4番目の勇者様も似たようなことを仰っていたと聞いています。私がメンバーなわけではないので、又聞きのようなものですが」
ん? ということは、少なくとも4番目の勇者とやらは俺と似た境遇なのか・・・?
それ以前の勇者は分からないが、RPGゲームなんてそれこそ俺がいた世界だからこそ生まれたようなものだしな。
「これに触れるとコータ様のステータス、いわゆる攻撃力や防御力、魔力などが数値化して分かるようになっています。ステータスは解析水晶でしか分からないので、参考程度にしかなりませんが・・・」
「魔法とかで簡単に分からないってことか?」
「えぇ、そうです。解析魔法は我が国含めて他の国でも研究されているのですが、未だ実用段階どころか理論すら不明でして。ごくまれに発掘されるこれだけが唯一ステータスを知ることが出来る手段です。解析魔法が実用化できれば、敵のステータスに合わせて、戦略を練ることが出来るのですが・・・」
「じゃあ、これ大分貴重なものなんだな」
「我が国ではそれ一つだけです。金額にしたら、百五十億マナタイトはくだらないでしょう」
「・・・ちなみにそれってどれくらいの金額?」
「この城があと5つくらいは建てられるくらいの金額です」
「ちょ、そんなものを気軽に触らせようとするな!」
「ですが、これがないと分かりませんし、陛下にも報告しないといけないので」
「―あぁ、はいはい、分かったよ」
途方もない金額のものが目の前にあるということに一瞬眩暈がしかけたが、重要なことならしょうがない。
恐る恐る彼女から水晶玉を受け取る。
「これって両手で触っているだけでいいのか?」
「いえ、触っているだけでは効果は無く、魔力を込めていただかないと」
「は? 魔力を込めるって・・・どうやって?」
「えーっと・・・そういわれると説明するのが難しいのですが・・・。私たちは意識せずにやっていることなので・・・」
「あー・・・そうですか」
「確か、前任のメンバーたちからの申し送り事項にあったような・・・・・・。『掌に力の流れが行くように意識をして、掌から力が出るように集中して放つような感じ』だそうです」
「またそりゃ随分曖昧な表現だなぁ・・・」
「す、すいません・・・。ですが、これ以上に言い方が無くてですね」
「分かったよ。とりあえずやってみる」
ベッドに腰かけ、目をつぶり集中してみる。
えーとなんだったっけ? 掌に力の流れが行くようにして―。
そんなことを考えながら水晶玉を持っていると、不思議と自分の中で何か流れのようなものが掌に集まっていくことが分かった。
これが魔力・・・か?
「そうですそうです! 解析水晶が反応し始めました! あとはそのまま魔力を送ってください!」
そして掌から力が出るように放つ感じ・・・。
「はい、それで大丈夫です! あとは解析水晶が勝手に解析してくれますので、置いて頂いて結構ですよ」
「ふう、こんなもんでいいのか。なんか意外とあっさりできたな」
「この世界では物心ついたころから魔力は操れるようになりますから。そう難しいことではないですよ」
「そんなもんなのか。俺の世界では魔法なんてフィクションの中でしかないと思ってたんだけどなぁ」
「コータ様はやはり魔法がない世界から召喚されたのですか?」
「あぁ、そこらへんについてはこっちのことを聞きながら話すよ。いろいろと説明も難しいだろうし」
「そうですね・・・。―あ、解析が終わったようですね。ステータスが表示されて・・・」
空中に水晶玉から文字が浮かび上がっている。
あれが、俺のステータスなのだろう。
しかし、なんで彼女は数値を見て絶句しているのか―。
『コータ・カザキリ』
『攻撃力:0』
『防御力:5300』
『魔力:8640』
『知力:5935』
『身体力:3100』
『幸運力:2800』
それは、俺にも分かった。明らかな異変であることを。
―よりにもよって俺は攻撃力が0な勇者なのだった。