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異世界カジノの仕事の仕方

作者: 夏果

第一話 ゼル先輩

「お客様! 備品を壊されては困ります!」

「いいから店長出せや! それともお前も切られたいのか?」

 近くにはこのお客様に切られ中身が散乱したごみ箱が転がっている。店長が本社の方に行ってるなんて言ったら僕が切られかねない状況だ。

「下がれ、コウ、俺が対応する」

 僕では対応できないなと思った時、ゼル先輩が僕の肩をたたいた。

「何だぁてめぇ? お前が店長か?」

「私は店長代理ってところですかね、お客様、暴れるなら表へ出るか裏の事務所でお願いします」

 笑顔を張り付けてそう言う先輩はもう言葉の端から怒気が滲み出していた。僕は数歩後ろに下がる。先輩絶対やる気だ……

「何訳わかんねーこと言ってやがんだ!」

「あ、もうここでいいです」

 瞬間、お客様の体が宙に舞った。間近でも何したか見えなかったんですけど……

「大丈夫か?」

「え、はい、僕は何ともないです」

 僕はあなたの後ろで頭から床に叩きつけられたお客さんの方が心配なんですそが……ゴシャって音しましたよ? 先輩のことだから加減はしてるんだろうけど……

「あれぐらいお前も対応できるようになっとけ、俺はあいつ警備隊に引き渡すからここ抜けるわ、ギャラリーの対応は任せたぞ」

 先輩は泡吹いているさっきのお客を引きずりながら事務所に戻っていく。破天荒でも人気者、強くて、優しくて、頭も切れる。そんな完璧超人な勇者がこの業界にも存在するのだ。


第二話 警備隊に引き渡された人

「さっきのやつ、賞金首だったわ」

 いやいやいや、本当になんで先輩この業界にいるんですか……


第三話 先輩の欠点

「コウ、なんか臨時収入ゲットしたしカジノいこーぜ」

「えぇ……止めといた方がいいと思いますけど」

 僕はやってもいいけど問題なのは先輩だ。

「毎度言ってますけど……先輩、死ぬほど運無いじゃないですか」

 運も実力のうちと言うが先輩には実力しか存在しないと言い切るレベルで運がない、多分、運のパラメータは別のパラメータに振り分けられているのだろう。

「そんなこと――」

「無いのならジャンケンで勝負しましょう、三回のうち一回でも勝てたら一緒に行きましょう、負けたら今日先輩はカジノに行かない、でどうです?」

 先輩はこの日カジノにはいかなかった。


第四話 天使来店

「先輩……天使が来店なさったんですがどうしたらいいですか?」

「はぁ?」

 まあ、そういう反応になるよなぁ……

「実際の神の使いの天使じゃなくて、天使のコスプレをした人間が店に入って来たってことなんですけど……かなり酔ってるみたいで……今は休憩スペースで寝てます」

「何もしてないならほっとけ、暴れるようなら叩き出す」

 のちに起きた本人から聞いた話だが宴会で酒を飲んで仮装したまま来てしまったとの事だった。来店時に落としていった天使の矢は矢筒にそっと返しておいた。


第五話 ソーサラー、エリ

「今日はギルさん居る?」

「こんにちは、エリさん、先輩は今日は休みですよ」

 エリさんは凄腕のソーサラーであり、冒険者の中では有名らしい。

「居ないのかぁ、じゃあ今日は帰るね」

「エリさんホントに先輩の事好きですよね」

 片手間で冒険者やってる先輩に窮地に陥っているところを救ってもらって一目惚れしたと聞いている。

「あの人の為ならなんだってできるわ!」

「賭け事全く興味ないのにここに入り浸るくらいですからね」

 一応遊技はするのだがそれは先輩を間近で見るためだ。ブラックジャックで手札を見てないとか、スロットで当たっているのに気づいてないとかがザラである。

「ギルさんと一緒に冒険者やれたらどんなに幸せかしら……」

「この店が無くなったらあの人もそっちの道専業で働くかもしれないですねー」

「なるほど! この店を消せばいいのね!」

「やめてください」

 言うまでもないが要注意人物だ。


第六話 朝礼での注意事項

「最近、俺の家でソーサラとして有名な不審者が現れた、お前らも気をつけろよ」

 エリさん何やってんですか……


第七話 キャスモン

「先輩、モンスターボールの落とし物って届いてますか?」

「はぁ? モンスターボールってキャスモンのあれか? 届いてねーよ、バサラタウンからその客来たんか?」

 キャスモンとはキャストモンスターの略で魔法使いをモンスターボールで捕まえて戦わせる育成ゲームでここ王都で子供たちに人気のゲームだ。おそらくお客様が落としたのはそのファングッツであろう。

「お客様もなんか持ってきたかどうかも曖昧みたいで……」

 結局見つからなかったのでお伝えしたところお帰りになられた。なんでここに持ってきたんだろう……


第八話 王都警備隊

「先輩、王都警備隊の方が来られました」

「来たか、裏に通せ、しかし今回もめんどくさい対応になりそうだなぁ……」

 窃盗や器物破損などがカジノで起こった時にカメラの映像などの証拠を提供するため王都警備隊の出入りは結構多かったりする。

「先輩って王都警備隊に入る選択肢もあったんじゃないですか?」

「ヤダよ、そんな見るからにめんどくさそうな職場、多分ここより給料も安いぜ?」


第九話 過去

「ギルは居るかい、店員さん」

「居ないですけど勧誘ならお断りって言ってましたよ」

「そんなセールスお断りみたいに言わんでも……それにしてもよく勧誘って分かったな」

 王立騎士団の鎧を見れば大体察しが付くというものだ。一般人を装って来た闇ギルドの人は分かんなかったけど……

「昔は真面目な奴だったんだけどなぁ」

「お知り合いですか?」

「俺とあいつは騎士校の同期だよ」

 騎士校は実技はもちろんの事、王の御前での立ち振る舞い方や戦闘の仕方、戦法、指揮の取り方など多岐に渡る筆記試験を突破しないと卒業できない難関校である。卒業生の九割が王立騎士団に志願するのだが……

「何であの人ここに就職したんですか……」

「試験当日に高熱出して騎士試験落ちてとりあえず就職した結果っては聞いてるが……」

 本当にあの人運無いな……

「あいつに会ったらヴィズが来てたって伝えてくれ」


第十話 裏方仕事 

「先輩って裏の仕事多いですよね」

「一応、カジノディーラーの資格持ってんだけどな、なぜか店長がルーレットもポーカーもやらせてもらえねぇんだ」

 ああ、経営傾くからか……


第十一話 噂

「なんか、最近冒険者に襲われる頻度増えた気がするんだが……」

「先輩倒せば名が売れるみたいな噂が広がってみたいですね」

「なんでカジノの一般スタッフを倒して名が挙がるんだよ」

 あなたを見にここに来る人間がいるぐらいですからね。当然かと……

「これは対策する必要あるな……」


第十二話 挑戦

「おい、そこの! ギルってやつはいるか?」

「あー対決をご希望のお客様ですか?」

 普段の仕事、先輩の勧誘に加えて対決のお客様の対応……いらん仕事増えてる気がする……

「一応言っときますけどやめといた方がいいですよ、あの人の噂聞いたことあります?」

「賞金首を片手でやったとかか? そのくらいなら俺だって――」

「――あの人片手でドラゴンも倒せるらしいですよ」

 ドラゴンとは魔法をはじく鱗、鋭い牙と爪、広範囲を焼き尽くすブレス、強靭な生命力を持つ最強クラスの生物だ。ドラゴンの素材は高値で取引され、これを一人で倒せる人間は一級の冒険者と言える。

「どうです? 戦ってみます?」

「あ……いや……止めとくよ――ポーカーのやり方教えてくれ……」


第十三話 対策

「ドラゴン片手で倒すって嘘なんですか?」

「当たり前だ、片手じゃドラゴンなんて倒せる訳ないだろ」

 両手なら倒せたりするんだろうか……

「これで俺に対決を挑む迷惑な客は減るだろ、これからも対決希望者にはそう言ってけよ!」

――反比例して勧誘する人間が増えたのでこの作戦はすぐ中止になった。


第十四話 縮まる距離(本人談)

「ねぇ、聞いて! ギルさんが私の休みの予定聞いて来たの! これってギルさん私に脈ありって見ていいのかな?」

「多分それエリさんの休みの日に仕事入れる為ですよ」

 シフト変更なんて普段やっていない先輩が僕にやり方を聞いてきたのでよく覚えている。あの人でも逃げたり避けたりするものがあるのだと少し安心した。

「え……そういえばギルさんに最近会ってない気がする、ギルさん何で私を避けるのかしら……」

 家を特定したり、張り込んだり、弁当勝手に作ってドアノブに掛けたり、家に入って掃除したり、盗聴器しかけたりするせいじゃないですかね? ギル先輩から聞いた話以外でもっとやってそう……

「エリさんって彼氏とかいたことないんですか?」

「無いわね、好きな人はいたことあるんだけど……急に引っ越したり、失踪したりしちゃってね」

 ……エリさんのせいではないことを祈ろう。

「ま、私の仕事なんていつでもできるし休み変更しよ」

 あ、これ僕、先輩に殺されるやつだ……

 ――後でしっかり殺されました。


第十五話 給料

「よう、コウ君久しぶりだな」

「こんにちは、ヴィズさん、先輩の勧誘どうでした?」

 先日休日を使って先輩とその話をすると言っていたのだが……

「『これは俺の天職なんだ』って言って聞かんかった」

 あはは……デスヨネー。知ってた。

「俺は全くそうは思わんがな……」

「僕もそう思います……」

 才能の無駄遣い……とは言わないがもっといい職場はあると思う。

「そんなに給料良いのかここ?」

「僕で月に金貨二十枚なんで割といいですよ」

 家賃、食費、光熱費、水道代が金貨八枚ぐらいなので僕のような一般スタッフでも趣味や貯蓄に回せる額は多い。

「先輩は副業もやってるから金貨五十枚ぐらいって言ってました、ほとんどカジノ代に消えてるらしいですけど」

「……ちょっとアイツ呼び出してもらっていい? 説教するから」

 この月は先輩のカジノに行く回数は少しだけ減った。


第十六話 副業

「今度のお休みどうするんですか?」

「ちょっと金ないからドラゴン倒しに行く」

 あ、やっぱり倒せるんですね……


第十七話 アニメ

「コウ、お前に紹介してもらった、『ご馳走様はうなぎですか?』面白かったわ」

「それは良かったです」

 ヴィズさんから頼まれた先輩更生計画の一つ、『別の趣味を与えればカジノ行かなくなるんじゃないか?』作戦だ。

「日常が殺伐としてるからよーああいうアニメには癒されるわ」

 僕の日常は割と平穏だけどなぁ……先輩の基準値はどこにあるんだろう。

「スロットやってる合間にスマホで見れるから重宝してる」

 ああ、この作戦は失敗だな……


第十八話 恋愛

「ごめんなさい、好きな人がいるので無理です」

「ちょっと、何で僕がエリさんに告白した感じになってるんですか」

「え、プライベートであなたに喫茶店に呼ばれたからてっきりそういう感じなのかと……」

 僕の好感度上がる要素が今までありましたか? むしろマイナスに突入しそうなんですけど。

「先輩の話ですよ、実は先輩にカジノ行くの辞めるないしは控えるようにしたいんです」

 先輩更生計画の一つ、『恋してればカジノ行く暇なくなんだろ!』作戦だ。

「――と言うわけでしてエリさんも協力してほしいんです」

「ヴィズって誰、女?」

「男です、あと目が怖いです」

「なんだそれならいいや……でもなー私は好きな人には好きなようにさせてあげたい人間だからなぁ……」

 これ二人くっ付けても働かずにカジノ行くダメ男とそのダメ男に際限なく貢ぐダメ女ができるだけじゃないか? 更生させる人間が二人に増えてる……

「良いこと思いついた! ギルさんに、こ、子供出来ればカジノ行かなくなるんじゃない?」

 この人に相談したのが間違いだったと心の底から思いました。


第十九話 人付き合い

「先輩、このゲーム家で一緒にやりませんか?」

 先輩更生計画の一つ、『コウ君の頼みならなかなか断れんだろ!』作戦だ。ヴィズさん僕に頼り過ぎでは?

「おお、ファイナンシャルファイターの新作じゃねーか! ひっさしぶりに見るなーやろうぜ」

 ファイナンシャルファイターは札束で殴り合う金融格闘ゲームで過去作は十シリーズに上る人気作だ。先輩には話してないが僕は全シリーズをやっていて、自分で言うのもなんだがランキングも王国では10位圏内の実力者だ。初代しかやったことのないと言っていた化石みたいな先輩に遅れをとるはずはない――


第二十話 ――なんて思っている時期が私にもありました

「久しぶりにやったけど、楽しかったわ、じゃ俺はカジノ行ってくるから」

「あ……はい……行ってらっしゃい……」

 四時間やって勝ったの最初の一戦だけってどういうことだ……こちらの攻撃を的確に防ぎ反撃してきた。初代には無かったはずのFPゲージ、新技への順応も最初の一戦でものにしたし……とてもブランクのある人間だとは思えない。そしてカジノに行くって……


第二十一話 有給休暇

「コウ、シフト有給使ってたけどどっか旅行にでも行くのか?」

「家で特訓します」

「はぁ?」


第二十二話 ご利用は計画的に

「なんで先輩、エリさんを警備隊に突き出さないんですか」

「あいつ意外と便利なんだよ、夜中に俺に闇討ちしようとする人間を倒してくれたりするからな」

 なんですかその蜘蛛は益虫みたいな言い方は……

「慣れればいいもんだぜ、守護霊みたいで」

 評価がストーカーから守護霊に上がりましたよ、エリさん……恋愛感情に行くのはまだ大分先みたいですけど……

「ま、家で寝るときトラップ仕掛けるのは変わらんがな」

「もうSECOMOセキュリティのついた家に住んでくださいよ」

 家賃が高くなるから嫌らしい。


第二十三話 別れは突然に

「俺仕事辞めて勇者になるわ」

「え……」

「驚いたか? まあちょっと悩んだんだが——」

「――先輩、僕を殴ってください」

「――夢じゃねぇよ!」


第二十四話 別れ

「魔王の懸賞金が上がったんだが、ちょっと仕事の片手間で行けそうになくてな」

「はぁ、そうなんですか」

 先輩に殴られた右頬を撫でつつ気のない返事をしてしまう、夢じゃなかった。

「ヴィズが手伝ってくれることになってる。今までありがとうな、コウ」

「……いえ、こちらこそ今までありがとうございました、ゼル先輩」

 お金に釣られたとはいえ、先輩が真っ当に勇者の道を歩き出したのは喜ばしいことだ。しかし――

「カジノ行くのを我慢するのが一番辛そうだぜ」

「――ですよね」

 余談だがエリさんもどこから情報を仕入れたかは謎だが無理やりついて行った。

 一か月後に魔王が倒されたと知らせが入った時はホントこの世界は人材無駄遣いしてるんだなと思いました。先輩も何事もなかったかのように職場に復帰したし……


第二十五話 復帰+

「今日から俺も復帰するからお前らよろしくな、それから新人の紹介だ」

「新人のアーバインと申します」

 あれ? アーバインってどこかで聞いたような……

「前職は魔王やってました」

 連れてくんなよ……


 アーバインはめきめきと成長しゼルと双璧をなす存在になり、カジノにも客足は増えた。だが勧誘と対決の申し出が二倍になったのでコウはその対応に追われることになる。頑張れ! 一般人コウ!




現実パロディを盛り込んだ作品、これはセーフなのだろうか……

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― 新着の感想 ―
[一言] 一途なエリさん、キャラとして良かった。 立派なストーカーかと思いきや、そこを利用され、少し不憫な所も良かったです。
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