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Capriccio  作者: coruri
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⒈Seiraープロローグー

ページにお越し下さり、ありがとうございます。

昔から温めてきた物語を、書き起こし始めました。

イメージイラストも、追ってお知らせしたいなと考えています。


長丁場ですが、彼らの旅路を見守って頂けたら幸いです。

どうぞよろしくお願いします。


 I プロローグ


 夕焼けの中、雪解けがあさい高山から吹く冷たい風が頬をかすめる。


 高山帯の一部、気高く並ぶキュンロ山脈に囲まれ、緑も水もうるおい、民を心から豊かにしてくれていた西拉せいらの地は、この1年で大きな激動の渦に飲み込まれた。


 各村や寺院、いにしえから営まれてきた大切な遺構は、ところどころが山の上から土木とともに崩れ、砂山のような建物の土台がわずかに伺える。


 もちろんそこに生きていた人々は、見る影もない。


 そんな痛ましい各所では、涙を流すようにえぐられた山肌を癒そうと、新たに根をおろした新芽たちが顔を出し始めていた。




 西拉州の王バンは、城外に出て目の前に広がるこの景色を見据えながら目を細めている。

 彼が住まう城は南に位置し、北東西、州全体を一望することができた。


 バンはひと月前に王に即位したばかりだ。

 本来ならもっと歳を重ねてからの即位が通例だが、 先の争いで先代の父が退位を選び、バンが舵をとることになったのだ。

 西拉では18歳で成人するが、顔はまだ青年のあどけなさが残り、無造作にまとめた後ろ髪が風になびく姿からは、州の情勢回復に奔走し、目まぐるしい日を送っていることがわかる。

 公務がひと段落して、気晴らしに外の空気を吸いにきたが、空を見上げると、そこには無数の星が広がっていた。


 ー汝、流星とその軌跡を護する者

  大気に消え去るか

  地上に落ちて隕石と化すか

  忘れるな、その行き先は流星次第であることを。ー


 バンは、占い師から告げられた予言をふと思い出した。

 占いは都合のいいものだけを信じる、そんな程度で受け流してきたので、この予言も何を言っているのかさっぱりわからない。まして流星なんて、手の届かない先にあるものだ。

 バンはため息をつきながら、城内へ戻ろうと目の前の風景に背を向けた。

 すると、一人の兵が血相を変えてこちらへ走ってくるのが見えた。あまりの慌てぶりに、敵でも攻めてきたか、はたまたどこかの州がまた和親を求めてきたかと思案したが、大して動揺はしない。

 いや、むしろ非情になれと自分に言い聞かせる。


 この1年の激動で、思い知ったことがあった。

 先走る好奇心と欲が、自分をとりまく全ての運命を狂わせてしまう。

 裏切りと信頼という狭間に立って、大切なものを失った。

 結局たどり着く原因は、何も見極めることのできなかった自分自身の中途半端さ。

 皮肉にも、そんな自分が州の長として王の椅子に座すことになるとは。

 いま、唯一民にできることといえば、最善を尽くして州を守り抜くことだ。かけがえのない仲間や血縁はごくわずか。だが必ず守り抜く。それがかけがえのない人との『約束』。

 だから、王となった日、西拉週は永世中立の立場になることを宣言し、それ以降は無関心を装うことで、他州との関わりを最小限に抑えていくことを選択した。


「王!」

 兵は息を切らしながら叫ぶ。

「砦に血まみれの男が…今すぐ王を呼んでほしいと…!身なりからは西拉の者ではない様子、敵州か警戒したいところですが、命が尽きるのも時間の問題です……そして…あのっ…」

「何だ、早く言え」

「それが…!」



 兵と共に砦に走ると、そこでは、全身が傷だらけで服を真っ赤に染めた男が、なんとか上半身だけを起こして門にもたれかかっていた。息も荒い。一目で意識が朦朧としていることがわかる。

 バンは腰をかがめて男に視線を合わせると、静かに話しかけた。

「西拉州王、バンです。一体どうなされた?急ぎ手当てしますから…」

 自分は医者ではない。だがもう手の施しようがないとわかってしまう。それほど無残な姿だが、この言葉をかけずにはいられなかった。

「…どう…か」

「?」

「どうか息子を…助けて…ください…バン王…。あなたのことは…耳にしておりました…。州の大戦で、この子は何もかも…失って…しまった…。」

「…!」

「私、も、一緒にいられなく…なる…。勝手とは…わかっていますが…っ。…代わりに…この子を…守って、ほしい」


 いま俺は何と言われたんだ?

 バンは頭が真っ白になった。

 即位したといえども、王の威厳は微塵も感じられない青二才、と王族からののしられ、民より物事の経験も豊富ではない朴念仁が、この上何を託されようとしていると?

 男が大事そうに抱える包みを、震える手で開いた。

 そこでは、赤子が気持ちよさそうに寝息を立てている。

 命に別状はなさそうだ。この男が父として必死に守り抜いてきたことは疑いようもない。

 バンは自分が夢でも見てるんじゃないかと浮遊感を覚えながら、だが咄嗟に男に尋ねた。


「この子の名は?」

「ノチウ…。我が民族の…歩む標になれと…」

「民族…州はどこです!」

「…ノチ…ウ…すまない…」

 涙を流しながら、愛おしいわが子への想いを精一杯言葉にして、男は静かに息を引き取った。




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