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彼女を殺したのは私だ。私のプライドを傷つけたあの女は許せなかったのだ。
だけど、今は少しだけ後悔している。
愛するあなたと一緒に、私が死ねば良かったのだと。
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今だ梅雨が明けず、ベタベタとした暑さが続く七月。今日は轟々と雨粒が窓を叩きつけていて怖いくらいだったが、担任教師の新島新司は全く意に介さない様子で私たちに一枚のプリントを配った。
今朝、黒板に堂々と貼ってあった手紙をコピーしたものだ。原本自体もパソコンでプリントアウトしたものなので、筆跡から人物は特定できない。
プリントを全員に配り終えてすぐに、新島は神妙に語り出す。
「こんな悪戯をしたのは誰だ?」
低く唸るような声に、女子の何人かが肩を震わせる。
「皆も知っていると思うが、橘の死に事件性は一切ない」
端的に言えばそれは、自分が人を殺したという告白文で、橘有希への謝罪で締めくくられている。
内容自体はたった二行と短い。
橘有希が亡くなったのはつい最近の事だった。
「こんな事して冗談で済まされないのは、高校生にでもなれば誰だって分かるだろう」
新島の声からは怒りがにじみ出ている。それもそうだろう。彼は、死んだ橘有希の事を特別に可愛がって贔屓していた。ベタな恋愛漫画よろしく、橘有希にとって彼は教師であるよりも先に血のつながらない従兄弟だった。もっとも、二人が恋愛漫画の展開をなぞらうような事はありえなかったが。
それからも新島のお説教は続いたものの、先生の言葉は私の頭の中で正常に認識されなかった。
先生なんて大嫌い。わざわざコピーして全員に配って、そういう所が大嫌い。どうして全員に配ろうだなんて思ったのだろう。
穴が空くほどプリントを見つめた。
なんだか苛立ちが募ってきて、一限目の科目の用意とプリントをさっさと机の中から入れ替えた。
伊井田ありさ。私の名前が書いたノートと、橘有希の名前が書いた教科書。
不本意ではあるが、橘有希は親友だった。
どうやら一限目は当分、始まりそうにない。