序章 その1
空だ、どんより重々しい雲に覆われて今にも泣きだしそうだ。そこから一滴の涙がこぼれた。いや、ちがう。それは涙というにはあまりに不透明だ。地に落ち、はじけ散る刹那、それはまるで漆黒の翼をひろげた鴉のようにかたちをなし、陰に消えていった…。
「うぅ…」
身体の痛みで目を覚ますと、そこは薄暗くかびくさい、低い天井、格子、そう…ここは牢屋だ。記憶を探る。そして思い出す。
「あぁ、捕まったのか…」
首と左腕が痛む。この怪我は関所抜けをしたことによるものだ。無論成功したならばここにいない。裏の峠で見つかり気を失わされ、ここに入れられたようだ。
あたりを見渡しても薄汚れた牢屋に違いない。格子から外が見える。ここの関所の牢屋は3つのようだ。1つはここ。隣に1つ、中は見えない。そして、正面に1つ、ここの2倍の広さはあるだろうか。そこに1人の女が端の壁にもたれている。
女の胸元ははだけ、着物は汚れ、長い髪も乱れている。
「あんた、なんで捕まってるの。」
分かりきったことを尋ねてみる。
女は、ゆっくりこっちを一瞥して、
「あんたと同じ。」
女は生気のないようにそう言って、床に伏せてしまった。
このまま殺されるのか… さて、どうするかな…。