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ジジババ戦争

作者: 詞記ノ鬼士

あるところに、おじいさんとおばあさんが戦争をしていました。

 このことを一般に、ジジババ戦争と言います。

 おじいさんは山で、

「あのクソババァ!」

 と、叫び、

 おばあさんは川で、

「あのクソジジィ!」

 と、叫びました。

 お互いに年なので、力仕事が出来ないおばあさんはおじいさんに頼り、家事が出来ないおじいさんはおばあさんに頼り、こうして仕方なくこの戦争は終結します。

 しかし、よく再発します。

 これがジジババ戦争というものです。

 はたして、どちらが強いでしょう。

 そんなことをお互いに言い出して……

「おばあさんなんか俺がいないとろくに斧も振り下ろせないじゃないか。それに力仕事も出来ない。狩りも、何もできない」

 と、おじいさんが言った。

 それに、おばあさんも若干イラつきながら、

「それを言うなら、おじいさんなんか一人じゃまともに料理も洗濯もできやじないじゃないかい。なに一人だけ何でもやってますよ的なこと言ってんだい。そういうところがだめなんだよ。おじいさんは」

 そう言った。

「なんだと!」

「ああ? やるのかい?」

 また、戦争が始まりそうな桃の花が咲くこの頃。

 やはり事態は大きく動き出す。

 お互いにお互いをけなし合い、しまいには、

「おばあさんなんかもう知るか!」

「こっちこそ、頑固おじいさんのことなんか知るもんか!」

「こんのクソババァ、もう出てけ!」

「おじいさんが出て行ってくださいな。このクソジジィ!」

 そうなるわけだ。

 そして、両者はふんっと、そっぽを向いてお互いに家を飛び出していったのだ。

 こうしていつものごとく、叫ぶ。

「あのクソババァがぁ!」

 と、言葉と同時におじいさんは竹を斧でバキッと思いっ切り吹っ飛ばす!

 一方、おばあさんは、

「あの、クソジジィ、頑固ジジィ、くたばりやがれぇい、クソジジィ!」

 川で呪いの言葉を吐くようにして、でおじいさんの洗濯ものを足で思いっきり踏んづけていた。

 そして、その洗濯物を地面へと叩きつけた。

「おんどりゃあ!」

 怒るとある意味、おじいさんより言動が荒くなるおばあさんなのであった。

 二人のそんなわめき声は村中に響きわたり、やがてその二人のケンカは村人たちに伝染していきました。

 こうして今までにない大戦争が引き起こされた。

 年老いたじいさんたちの軍勢と、同じく年老いたばあさんたちの軍勢が対立した。

 そしてとにかくワヤワヤガヤガヤと何言っているか分からない言い争いが聞こえている。

 そんな戦いの渦に、

「何とかしないと……」

と仕方ないとばかりに立ち上がった者がいた。

 それは……

「なにやってんだよ、じいさん、ばあさん。それに村のみんなも」

 そこに現れたのは、小太りで無精髭を生やした髪がぼさぼさの中年の男だった。

 それに、おばあさんが彼の名を言った。

「桃太郎……」

「さっさと、このばかばかしい、ジジィとババァの言い争いは終わりにしなよ。見てるこっちが恥ずかしいっつうの! 迷惑だっつうの!」

 本当にうんざりしたように、その桃太郎は言い放った。

「すまんのう、桃太郎。でもこれは誰にも止められぬ戦いなんじゃ。たとえ桃太郎、お前でもな」

「そうだ、これは全世界のジジィとババァの威厳を持った戦いなのじゃあ!」

「なんだよ、それ! カッコよく言ってるぽいけど、ホント意味わかんねえよ!」

「お前はまだ子どもだからな、分からないかも知れないな」

「いや、もうじゅうぶん育ってるよ。もうバリバリの大人だからね。てか、おっさんじゃん……」

「桃太郎はおっさんじゃないよ、私たちの間にやっとできたかわいい一人息子だよ。超絶かっこいいこの村の英雄じゃないか」

「鬼を倒した我が息子よ」

「でも、もうおっさんだから。桃太郎も年取ればおっさんになるんだからね。いつまでも子供、扱いしないでくれる?」

「はいはい、反抗期なのかな。桃太郎は」

「仕方ない子だな。喧嘩はもうやめにするかぁ」

「そうですね、おじいさん。桃太郎のためにやめましょう」

 どこまでも、桃太郎を子ども扱いする過保護なおじいさんとおばあさんであった。

「はあ……やっと、おさまったかぁ……」

 こうして、そのあと仲直りの証として、二人は桃をわけあったのであった。

「桃太郎、そんな隅で見てないでお前も食べなさい」

「そうだぞ、桃太郎。こっちにこい」

 と、おばあさんとおじいさんは、桃太郎の名前を呼んだ。

「うん、ちょっと待って。これを書いたらね。おじいちゃん、おばあちゃん」

 そう言って、桃太郎はノートとペンを持って何かを口に出しながら文字を書き進めていく。

「こうして、二人は桃を食べ、桃太郎もそれに混じりましたとさ」

 そう、これは桃太郎の四十年かかさず書き続けた日記なのでした。

 ○がつ○にち○ようび 晴れ  終わり

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