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あなたの代わり

2017/05/04 誤字脱字を修正しました。

 傷を覆っている包帯が(あわせ)から見え隠れする広い胸に、桔梗の君はそっと身を寄せた。桂木(かつらぎ)の宰相の纏う単から、すっかり慣れた上品な香りがする。


「何もかも捨てて、あなた様について行きたい」

「いっそ、このまま君を連れていってしまおうか?」


 頼りがいのある温かい腕が桔梗(ききょう)の君の背に回され、全身が大きな体に優しく包み込まれた。

 もう冬に変わろうとする頃なので、明け方の冷気が仄かに明るくなった辺りに満ちているが、桔梗の君は寒くはなかった。心にも体にも桂木の宰相の温もりを分けてもらったからだ。



 文遣いの童姿になった桔梗の君は、急ぎ右大臣家の牛車(ぎっしゃ)に後ろから乗り込んだ。中では既に山吹(やまぶき)の少将が待っており、家人(けにん)に出発するよう命じる。

 東宮(とうぐう)襲撃の事件後、右大臣の命でさらに多く増やされた警護役の家人に囲まれて、二人を乗せた牛車は動き出した。まさしく事件が起きた早朝なので、大事な跡取りを守るため、警備役の者達の緊張感も高まっている。

 

女東宮(にょとうぐう)様のご用で、頂いたお文を読むのが遅くなって、お待たせしてしまい、申し訳ありません!」

「良いんだ。私もつい先程御所に着いたばかりだった。文にも書いたけど、桂木の宰相様は、今朝、出立されるらしい。挨拶状を受けた家人が、至急で知らせてきたんだ」


 貴族達の前で正式に女東宮(にょとうぐう)として認められ、帝の御殿で帝と話し合ってから梨壺北舎(なしつぼきたしゃ)に戻った翌朝だった。朝早くから始まる女東宮(にょとうぐう)の仕事のために朝の支度をしていたら、元梨壺仕えだった若い女房から文遣いの桔梗の君宛に文が届いている、この文遣いにお心当たりはありますか? と松の式部に知らせが入った。

 梨壺北舎(なしつぼきたしゃ)で桔梗の君の正体が女五の宮と知っているのは、松竹の式部の二人だけだったので、桔梗の君に文が渡されるのが遅くなってしまったのだ。

 読んでみると、『早朝に出立する桂木の宰相を見送りたいなら、急いで右大臣家の牛車の所に来るが良い』と書かれていた。


 女東宮(にょとうぐう)になられたのですからもう男装は止めてほしい、と言う両式部を急ぎ説き伏せて、桔梗の君は梨壺北舎(なしつぼきたしゃ)を飛び出したのだ。


「姉上様、麗景殿(れいけいでん)女御(にょうご)様からもお見送りしてほしいと頼まれている。頼まれなくても、もちろん行くつもりだった。……云わば、宰相様は、あの日、私の身代わりに東宮様の警護に就かれたのだし。もしかしたら、今日旅立つのは、私だったのかもしれない……」


 辛そうな表情で俯く山吹の少将を、桔梗の君は何とか励ましたかった。こうなったのは山吹の少将のせいでも、ましてや桂木の宰相のせいでもないと思ったからだ。


「山吹の少将様、私達、お互いにできることをしましょうと言いましたよね。だから、それぞれ頑張りましょう」

「ああ、そうだったね。……だから、私にできることの第一歩。桂木の宰相様が気に掛けていた桔梗の君に、ご出立を見送らせたかったんだ」

「ありがとうございます。私もそうしたかったんです。ずっとお怪我で参内(さんだい)されなかったから、お会いできずにいましたし」


 旅立つ桂木の宰相を思いやる山吹の少将の優しい気持ちで、桔梗の君の心も慰められる。

 怪我のことが心配でたまらないのに、もうずっと会えずにいた。更に、桂木の宰相が都を出てしまうと噂で聞いてから、心配と寂しさで一杯だったのだ。


 ゴトゴト進んでいた牛車が、桂木の宰相様のお父宮、式部卿(しきぶきょう)の宮邸前に着けられた。牛車の前方から降りてみると、今まさに出立しようとしていた桂木の宰相の一行がいる。数人の太刀を身に着けた家人が、馬や荷物や牛車を準備しているところだった。


「桔梗の君、山吹の少将! 来てくれたのか!」


 責任をとって謹慎し参内できずにいたため、まさか出立前に桔梗の君に会えるとは、桂木の宰相は思っていなかった。泣き顔ではなく、会えた喜びに微笑む桔梗の君の顔が見られたのだ、それだけに驚きも大きい。

 

 桂木の宰相は少しやつれた様子で、傷に障るのか上着の狩衣(かりぎぬ)の胸元を開け、身に着けている内着の単の(あわせ)から包帯らしき白い布がチラリと見えている。そのためか、どこか脆そうな儚さと妖しい色気が漂っている。


 久しぶりに会えた桂木の宰相のその姿は痛々しいが、牛車から現れたのが桔梗の君と認めるや嬉しそうに微笑んでくれている。桔梗の君は胸が締め付けられたように苦しくなった。

 

 思わず、その広い胸へと駆け出す。両手を広げて桔梗の君の全てを受け止めようとする桂木の宰相の下へと。


「桂木の宰相様!」

「桂木の宰相様、ごめんなさ~い! 僕のせいで!」


 桔梗の君が一歩踏み出したその横を、山吹の少将が目にも止まらぬ速さで駆け抜け、幼い少年の様に桂木の宰相様の首に飛びついた。

 抱き止めた美青年の腕の中で、宮中一の美少年がはらはらと涙を流す。


 おかげで、桂木の宰相へと伸ばしたはずの桔梗の君の二本の細腕は行き場を失い、花に止まれず宙を浮く蝶の様に小さく羽ばたくことになった。


 恋人未満の二人の想いは、純粋な美少年の後悔の想いに先を越されてしまったのだ。


「……ああ、良いんだよ、山吹の少将。怪我をしたのが君ではなくて本当に良かった」

「私は、ずっと悔やんで……。本当は右大臣家が狙われていたのに。申し訳ありません。でも、旅立てるほど、お元気になられて良かった」

「狙われたのは東宮様だ。君のせいではないんだ。だから、泣かなくていい。心配してくれてありがとう。君にも、右大臣家にも本当に良くしてもらった」


 美青年のしなやかな指先が、顔を紅くして泣く美少年の頬に零れた涙をそっと拭う。後宮の女房・女官達がいたら一瞬のときめきで、はうっ! と息を飲むような絵になる二人だった。

 

(山吹の少将様、優しい良い人なんだけど! 紅葉(もみじ)の中将様の時も、今、この桂木の宰相様の時も、どこか邪魔なのよね!)


 不満気に目を細めてむくれる桔梗の君のため、桂木の宰相は山吹の少将を宥めてから離れ、改めて温かく広い胸に桔梗の君をそっと抱き寄せた。


「心配かけて済まなかった、桔梗の君。私はこれから旅立つ。だから、そんな顔をしないで、可愛い顔を見せてくれ」


 頬を寄せた桂木の宰相の着物からは、いつもの爽やかな香に交じって、薬草の香りがしていることに桔梗の君は気付いた。まだ、この人は怪我人なのだと思い知らされる。その怪我をおして兄宮を探しに旅立つと言うのに、山吹の少将に腹を立てるなど、くだらないことをしてしまったと反省した。


「……ごめんなさい。私、お見送りに来たのに……。でも、宰相様のことが心配で心配で……。なのに、御看病するどころかずっとお会いできなくて!」

「いいんだ。……君だけでも無事でいてくれることが私の支えだった。あの時、右大臣邸に残してきて本当に良かったと。もしあの争いに君が巻き込まれていたら、どんな恐ろしいことになったか」


 爽やかに笑いかけてくれているが、傷を覆っている包帯が袷から見え隠れする広い胸はあまりに痛々しい。桔梗の君は傷に障らないよう、そっと身を寄せた。


 やっと久しぶりに会えたのに、またこの人と会えなくなってしまう。できることなら引き留めて、離れたくないと思ってしまった。この人がいなくなってしまうと、また、『忘れられた姫宮』の頃の様に、寂しい独りになってしまうようで。


「何もかも捨てて、あなた様について行きたい!」

「いっそ、このまま君を連れていってしまおうか?」


 頼りがいのある温かい腕が桔梗の君の背に回され、全身が大きな体にギュッと包み込まれた。

 

 桂木の宰相自ら謹慎して会えずにいただけに、別離を前に二人は離れ難くなっていた。いつの間に、こんなに気持ちになっていたのか、桔梗の君には不思議でたまらない。そもそも最初にお慕いしていたのは、紅葉の中将だったのだ。だが、今はもう違う。


 もう冬に変わろうとする頃なので、明け方の冷気が漂っているが、桔梗の君は寒くはなかった。心にも体にも桂木の宰相に包まれ温もりを分けてもらったからだ。

 

「でも、できない。盗賊討伐をするかもしれない危険な旅に、か弱い桔梗の花を連れていくなんてできない。花は、踏み散らす争いの無い所で咲いていて欲しい。女東宮(にょとうぐう)様の下で」

「いや! 一緒に行きたいです! ……でも、一緒に行ったって、足手まといなのは分かっています。私は剣もまともに振れません。剣術の稽古の時、よく皆に笑われましたから。それに私は女東宮(にょとうぐう)様から離れる訳にはいかないんです(自分が女東宮(にょとうぐう)だし!)」

「ああ、そうだな」


 桔梗の君が自分で考え下した結論に、桂木の宰相は寂しくも満足気に優しく頷く。


「それに女東宮(にょとうぐう)様をお守りすれば、桂木の宰相様も宮様もお護りすることになるはずです。だって、お二人を護るために五の宮様は女東宮(にょとうぐう)になられたんですから!」

「ああ、そうだ。御身を犠牲にされて前東宮を護られた女東宮(にょとうぐう)様に感謝している。君は君の精一杯の力で主に仕えなさい。私は私の主のために行く。必ずあのお方をお連れしてここに戻ってくる。そして晴れて参内(さんだい)をお許し頂けたら、君の主にお願いするよ」


 桂木の宰相の熱の籠った真剣な眼差しに恥ずかしくなって、桔梗の君が顔を隠すように狩衣(かりぎぬ)に顔を伏せると、桂木の宰相の胸の鼓動が、強く早くなった。桔梗の君も胸がドキドキと高鳴る。

 ずっと憧れつつも、実際言われると恥ずかしくも嬉しい言葉をしっかり言って欲しいと願う。


「何を? 何をお願いされるのですか?」

「秘密だ。帰ってきたら言うよ。その時、君が一人だったら」

「ずるいです! でも、私は絶対に一人です! ずっとお帰りをお待ちしています! だから、お約束して下さい!」


 そっと身を離すと、視線を合わせて桂木の宰相は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ああ、二人だけの大事な『お約束』だ」


 逞しい身体に桔梗の宮は再び抱きしめられた。桔梗の君も縋る。


 初めて会った時と同じ、二人の間にある秘密を守る大事な『お約束』をすることは、人目のある今はできない。だが、その約束を果たされる日まで、桔梗の君は待つ。だからそれまで何としても女東宮の地位を守り、兄宮に無事にお戻しするのだと、改めて心の中で誓った。


 自分の存在をすっかり忘れて、深い想いを込めて抱き合う美青年と可愛い童の姿を見せつけられて、山吹の少将は身の置き所に困りつつ頬を紅く染めていた。


 周囲の家人(けにん)達も、皆、立ち去ろうとする足音さえも二人のお邪魔な気がして、恥じらいながらもさりげなく見ないふりをしている。積み荷を確かめたり、雰囲気を壊すような鳴き声を上げぬよう馬や牛を撫でたりして宥めたり。でも二人の会話にはバッチリ聞き耳を立てている。


 紅葉の中将が少年好きという噂を山吹の少将は聞いたことがあった(一番のお気に入りが自分とは知らない)。まさか爽やか貴公子と評判の桂木の宰相が、そうだったなんて思いもしなかった。

 そういう意味では、桔梗の君を見送りにつれてきた事は、辛い気持ちで旅立つ宰相のためには一番の贈り物だったかも、とも山吹の少将は思った。そのおかげで罪悪感がちょっと薄れた。


 ふと、遠くから馬の駆け足の音が近づいて来た。さっと周囲の家人(けにん)達が、貴人を護ろうと太刀に手を掛けつつ周囲を警戒して取り囲んだ。どうやらこちらに向かってくるのは単騎であるようだった。


 さすがにこの物音に気付いて、盛り上がってお熱い二人も今更に恥じて身を離す。

 

「お~い! 桂木の宰相! 間に合ったか!」


 武官の束帯(そくたい)姿の紅葉の中将だった。旅立つ親友のために単騎でお供も付けずに、急ぎ駆けつけてきたらしい。

 

「紅葉の中将! そなたまで、来てくれたのか!」

「当たり前だ! 親友のため、家のごたごたを振り捨ててきた! どうしてもこれを渡したかった!」


 どうどう! と馬を急停止させて飛び降りた紅葉の中将が親友にと差し出したのは、立派な造りの小刀だった。受け取った桂木の宰相は、それがどんな物かが分かって驚く。以前、紅葉の中将が嬉しそうに自慢した小刀だったからだ。

 

「これは、前東宮様より頂いたとお前が自慢していた小刀ではないのか!?」

「その通りだ。その前東宮様を探しに行くのだから、ぴったりじゃないか。きっとこの小刀が守り刀になる! だから持っていけ! ただし、譲るのではないのだから、必ず返しに来い!」


 親友に無事に生きて帰れと、紅葉の中将は言っているのだ。となると、とてもこの場では返せない。


「分かった、必ずお前にこれを返しに行く」

「早くしてくれよ。あまり長い間、無いと困るのでな」


 別離の悲しい涙ではなく、暖かく明るい日差しのような笑顔で親友の旅立ちを見送ろうとする紅葉の中将の姿に、桔梗の君は感動した。実に男らしくもあり、気持ちの良い晴れやかさがある。

 

(ああ、やっぱりこのお方って素敵な貴公子様だわ! この明るいサッパリ笑顔に胸がときめくのよ!)


 惚れ直した気持ちでいたところ、桔梗の君の肩を抱いていた桂木の宰相の手が、少し強めにギュッと掴んだ。少し痛い? と思って桂木の宰相を見上げると、爽やかに微笑んでいるがなぜか黒いものが感じられる。

 

「では、桔梗の君にも『お約束』を忘れぬために、これをあげよう」


 桂木の宰相は(浮気するなよ!)の想いを込めて、持っていた扇を桔梗の君の小さな華奢な手に渡す。


「同じく、私が戻って来た時に返してほしい。それまで預かっていてくれ」

「はい! では、代わりに私の扇をお渡ししますね! きっと返して下さい」


 桔梗の君は両手で大事に桂木の宰相の扇を包み込む。きっとこれが桂木の宰相がいない間の寂しさを慰めてくれるはずだ。

 

「宰相様、私にはないんですか? 桔梗の君ばかり!」

「では、山吹の少将にはこの懐に入れていた紙を。どうしても伝えたい事があったらお文をくれないか? 君からのお文を楽しみにしているよ」

「はい。どこにおられても、必ず右大臣家の家人(けにん)に届けさせます!」


 実は相当な人力と金が掛かるため、中流貴族にはなかなか出来ない事なのだが、当たり前のように山吹の少将は言った。さすが天下一の権力を持つ右大臣家の子息らしい言葉だった。


 名残惜しくもあったが、親友たちに見送られて桂木の宰相の一行は旅立って行った。


 寂しい心を押し止め、女東宮(にょとうぐう)の政務のお手伝いに間に合うように急がねば! と桔梗の君が慌て出すと、紅葉の中将が馬に乗せて行ってくれると言う。

 姫宮として邸内で過ごしていた桔梗の君は、馬に乗ったことが無い。だが、紅葉の中将の前に乗って頼もしい腕で支えられるや、怯える桔梗の君に構うことなく馬は走り出した。


 かつて胸をときめかせて夢見た紅葉の中将の腕に支えられ、守られているのが夢のようだ。いつの間にか初恋が終わってしまってから、お近づきになる夢が叶うなんて皮肉ね、と桔梗の君は思った。

 

「親友のために見送りに来てくれたことには感謝するが、女東宮(にょとうぐう)様にご無礼になってはだめだ」

「はい、お見送りに思わず刻限を忘れ、申し訳ございません」

「いや、桂木の宰相を心配する気持ちは私も同じだ。それに私も来るのが遅かった。今、我が左大臣家は揉めて大変なんだ。もう、そなたも聞いているのだろう? 噂話は家人(けにん)から伝わるものだからな」

「……妹姫様のことですか?」


 桔梗の君の背後から、困り果てたようなため息が聞こえた。

 右大臣家が掴んだ裏情報は、既に世間に広まってしまっているらしい。名家における一大醜聞だ。家族としては困り果ててため息も出てしまうのだろう。


「駆け落ちから連れ戻したのは良いが、相手の男は腰抜けだった。父上に金を渡され、去れと言われるや、恐れて逃げていった。妹は大激怒だ。どこが良かったのか、あんな男。それでも可愛い娘の行く末のため、父上はどこかの金持ちに後妻で嫁がせようとするのだが、妹の方は殿方はもう沢山だ、出家して尼になると言って喧嘩だ」

「でも、まだ姫様は十五・六歳では? そんなにお若いのに尼ですか?」


 世間知らずで純真な姫君が男の甘言に騙されて気の毒でもあるし、自分と同じ年頃なのにもう尼になるなんて可哀そうだとも桔梗の君には思えた。


「まあ、仮に尼になっても、私と兄で面倒は見るつもりだ。母親が異なるが同じ邸で仲良く育った。とはいえ何せ男兄弟だ、女心はどうにも……。頼りになる姉上は、承香殿(じょうきょうでん)女御(にょうご)だから宮仕えだ。傷ついて恥じらい、自棄になっているのは分かる。だがまだ若過ぎる……。なあ、桔梗の君、こんな時、男兄弟はどうやって慰めてやったらいいのかな? 女主人にお仕えするそなたなら、少しは分かるのではないか?」


 ああ、初恋の紅葉の中将は、これまで桔梗の君が憧れていたように、やはり人を思い遣る優しい貴公子だった。桂木の宰相がいなかったら、まだこの方を慕い続けていたとしみじみ思う。

 

「私はそなたの側にいる、と仰れば良いのではないでしょうか? 私は、寂しくて辛い時、ただ黙って側にいてくれるだけで嬉しいです」


 両親とも幼いうちに死に別れ、寂しい忘れられた姫宮だった時、側仕えの女房である松竹の式部は黙って寄り添っていてくれた。たまに、いや、よくお説教もされたが。


「そうか、それなら私にもできるかな……。ありがとう、桔梗の君」


 こんなにも紅葉の中将に心配される左大臣家の姫君は、不幸な目にもあったが幸せでもあると桔梗の君は思った。


 東宮妃(とうぐうひ)としての入内(じゅだいが)が期待されていたほど美しく、駆け落ちするほどの勇気と大胆さを持つ、高貴な左大臣家の姫君。一度会って話ができたら、百合姫の様に仲良くなれるかもしれないと、桔梗の君は同じ年頃のこの姫君に興味を持った。

 

 女東宮(にょとうぐう)となった桔梗の君に興味を持たれたが故に、左大臣家の姫君はさらに酷い目に遭うことになる。

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