プロローグ
生きる理由を探すのは、知能ある生き物の特権である。生きる意味は時として姿形を変え、時として突然に消え去る。そういうものだ。小さな集落に生きる少年『アルト』もまた、生きる理由を追い求めていた。
「この俺様アルト十七歳。本日ここに決定する!!!!」
自然の材料で構成された小さな家々と、聳え乱れる大森林に囲まれた集落のど真ん中で、少年は叫んだ。全身を煤けた黒い服で覆い、黒の光沢がかった短い髪。華奢な身体と、そして鋭い目つき。アルト少年である。集落の人々はまたか、と言わんばかりの呆れた表情をしている。
「まーたやってんのかアルト? どーせまた世界征服とかいいだすんだろー」
嘲笑を浮かべながら言うのは、アルトの幼馴染で同い年の少年、エグアである。アルトとは対照的に、がっちりとした身体付きである。頭の後ろでは赤い長髪が束ねられている。
「悪いが今回は本気だイグア。止めても無駄だからな。今夜皆が寝静まったところで俺は集落を抜け、計画を実行に移す!!!」
「あっそー、勝手にしろよ。ばかみたいだなー」
「お前……あまり俺を馬鹿にするなよ」
突如アルトの足元を囲うようにして、黒い炎のようなものが地面から湧き上がった。
「でたよそれ。お前の能力それしかないもんな。魔族はだいたいみんな何かしらの能力を持ってるのに、お前は出来損ないの黒い炎。しかもそれ操作できないんだろー。それじゃあここを出たって世界征服もなにもできねぇよ」
——図星だ。でも、だからなんだというんだ。俺は俺のやり方で世界を征服してみせる。いや、しなければ気が済まない。
その日の夜、アルトは集落を抜け出した。あてもなく、街へ街へと大森林を突き進んだ。月の薄暗い光と、五感だけが頼りである。
無心で歩みを進めているうちに、気づけば日が昇り始めていた。集落を抜け出した当初よりも光が足元を照らしてくれるし、前方の視界も広がっていた。
——街だ、街が見える!
永遠に続くのではないかと危惧した大森林に、ついに終止符が打たれようとしていた。木々の隙間から、街が見えてきた。アルトは夢中で木々の間を走り抜けた。
凛とした日差しが森林を抜け一層眩しく、空気が生暖かい。集落では考えられないほどの音の多さ。アルトは初めての街に感動を隠せなかった。
「この街は、初めて?」
アルトは街の建物の高さに圧倒されていたが、我に返った。話しかけてきたのは、アルトと同い歳くらちの少女であった。茶に紅がかったしなやかな髪を肩まで靡かせていて、日焼けなど聞いたことがないとでも言ってのけそうなほど白すぎる肌。太陽の光を堂々と反射させるクリクリとした瞳。すらっとした身体。
「一目惚れ……は、初めて……です」
「え?」
思ったことが口に出てしまっていた。アルトはしまったと思いすぐに訂正した。
「い、いや、なんでもない。この街は初めてだ」
「そっか! じゃあ今暇だし、私が案内しようか?」
少女はにこりと微笑み、手を差し出した。その手をアルトは握り、応えた。
「ああ、お願いするよ。俺の名前はアルトだ。よろしく頼む」
「私はセシル。よろしくね」
雲一つない晴天の空の下、悪魔の少年セシルと、人間の少女セシルは、出会った。




