ヴィル・クランチェ
小鳥のさえずりと朝食の匂い。
淡い木漏れ日の光がカーテンの隙間から差し込む朝。
至福のひととき。
こういう時は二度寝をと目論んでしまいたい。
「起きなさい。いつまで寝ているつもり!」
またいつもどおり祝福の眠りを遮る声。
目をそーと開けるとそこには愛らしいつんつんした顔の綺麗な紫色の髪の毛とくりくりした大きな青い瞳の女の子、勿論エレナが覗きこんでいた。
「早く起きてよ!城下町に帝国からお札書きが出てるらしいの。号外の新聞まで配られてたわよ」
それは珍しい。
帝国で事件または冠婚葬祭など以外にお札書きなどは滅多に出ない。
ましてや、新聞の号外ともなればよっぽどのことだ。
「別にあんたの為に貰ってきたんじゃないからね!
丁度、外に出たら飛んで来ただけなんだからね!」
と、つんつんしながらエレナは新聞を手渡して来た。
「ありがとう。エレナ」
綺麗な紫色の髪の頭を撫でてあげた。
エレナは少し照れながら嬉しそうに笑った。
「先に下に降りて朝ご飯食べるからね。
早くケイトも来てね」
にこにこしながら下に降りて行った。
ケイトは、貰った新聞に目をやるとそこにはとんでも無い記事が載っていた。
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ヴィル・クランチェに勇騎士の称号を与える
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驚きが隠せなかった。
帝国は何を考えているのか。
その称号が何を意味を持つのか分かっているのか。
大臣オドロフの帝国クーデターから5年余り。
帝国独裁政治に終止符を打った。
世界の国々は平等と和平を結んだ。
国同士の争いは避け、お互い助け合い支援しあった。
帝国も各国に支援という形で護衛部隊を配置した。
魔物や反乱軍の阻止が目的というが実は各国の監視である。
そして、帝国の騎士団の目が行き届かないところで兵士がやりたい放題暴君を働いていたのだ。
初めのうちはケイトも無視していたのだが余りの暴君振りについに堪忍袋の緒が切れたのだ。
最初は、注意のつもりだった。
しかし、いくら経っても帝国からの改善はなかった。
それならと、色んな街や国で暴君を働くソルジャーを狩って行ったのがソルジャーハンターの始まりだ。
ケイトは独自に探りを入れて帝国の騎士団の体制を調べた。
ーー帝国騎士団統率担当
聖騎士 ヴィル・クランチェーー
そう、ヴィルは見て見ぬふりをしていた。
それどころかヴィルには黒い噂も流れている影で何を考えているのか分からない男だ。
そんな男をよりによって騎士の最高称号の勇騎士の称号を与えるのはおかしいのだ。
勇騎士の称号は今までただ一人、伝説のサーガのみ。
この称号は全て世界各国を無条件で行き来き出来ると、同時に帝国政治の発言も可能な最高栄誉である。
ヴィル・クランチェにこの称号は危険過ぎる。
そして、ヴィル・クランチェの黒い噂は
神聖教クルセイダーズに関与しているとの事だ。
帝国は宗教を禁止している。
宗教に関与した者は禁固刑である。
ヴィルが宗教に関与したことが本当ならとんでもない話である。
帝国がそれを隠しているのか?
ならなぜ黒い噂があるのに勇騎士の称号を与えるのか?
帝国への疑問は尽きない。
「ケイト、ケイトお。朝ご飯冷めちゃうよお」
遠くの方からエレナの声が聞こえた。
座っていたベットから立ち上がり新聞を放り投げてエレナの声が聞こえがする階段へと歩いて行った。