静かな書斎
小鳥のさえずりと朝食の匂い。
淡い木漏れ日の光がカーテンの隙間から差し込む朝。
至福のひととき。こういう時は二度寝をと目論んでしまいたい。
「起きなさい!何時まで寝てるのよ!」
一瞬でその企みも遮られてしまったーー。
「朝食の用意が出来てるって、のろのろしてたら冷めてしまうわよ!
まあ、あなたの料理が冷めてしまっても私は別に構わないんだけど」
布団を引っ張りながらエレナが言う。
ん?とした表情でくんくんと鼻を鳴らしがら何やら匂いを嗅いでいる。
その表情もエレナの美貌からしたら愛らしい。
オエッとした表情に変わり鼻をつまむと、
「・・・ケイト、オサケクサイ」
そう言われて、しまったと目を覚ますケイト。
昨夜の酒が残っているのかガーンと二日酔いが頭に響く。
ーー呑みすぎた。
* * * * * * * * * * * * *
「昨夜、ケイト・ローレントがセラフィム王国の城下町の酒場に現れたと情報がありました」
「状況は?」
「はっ!帝国兵士10名が倒され8名が重傷、2名が軽傷です。」
「経緯は?」
「酒場の主人に事情聴取した結果、酒に酔ったケイトにいきなり襲撃されたようです。
軽傷の帝国兵士の話を聞いても同じような事を話しています。」
「・・・酒に酔っていきなり襲撃ねえ」
帝国の騎士団長トーマス・ガルフォードに昨夜の酒場での騒動の報告が入った。
短髪金髪の凛々しい顔立ちで歳は30代後半である。
帝国の騎士の要で象徴的存在である。
トーマス・ガルフォードとケイト・ローレントは同じ時代を過ごし共に戦った同士である。
なので性格や思考などは理解しているつもりでいた。なので毎回入ってくる報告書に疑問を抱いていた。
トーマスは報告書を持って来た兵士に下がるようにと手を振り、立ち上がり窓の外に目をやった。
そこには、ソルジャー志願の若手兵士達の稽古している姿があった。
皆、真剣に汗を流しながら必死に剣を振って組手をしている。
ダグラスの脳裏に昔の思い出が蘇り、若手兵士達に昔の自分達を重ねていた。
そこには、トーマス・ガルフォードとケイト・ローレントそして、もう一人細い目をした銀髪の青年が一緒に仲良く稽古している姿があった。
トーマスは、外の景色から空を見上げてふーっと、
一つ息を吐き、また自分の席に座った。
そして、先程兵士が持って来た書類を手に取ると丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
「アイツらしい、どこまでも騎士だ」
そこは静かな書斎だったーーーー。